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第百四十七話 古の転移装置

 《ヴァチュ。オメー、やり過ぎだ。カジノじゃ、たまたまラッキーってな感じで勝たねぇと、コイツらみてーなのが出てくるんだ》

 《⋯⋯少しやり過ぎたとは思うけど、いきなりインチキだとか言われてもね⋯⋯》


 ヴァチュラー様の足下には、三人の男たちが転がっていた。

 熊獣人、狼獣人、二つ頭の鳥に変身できる幻妖加護人──皆、ヴァチュラー様の持っていた遊戯用のバットを喰らったらしく、ノックダウンしていた。


 ヴァチュラー様の選んだカジノ遊戯は、飛んできたボールを打って、空中に浮かんでいるラッキーポケットに入れると賭けたお金が5倍になるという物だったが、余りにも入る球が多すぎて、ずーっとフィーバー状態だったらしい。

 なんか⋯⋯バットと球以外は、パチンコに似てる遊戯用魔導器だな。この世界のカジノって、賭けもの範囲が広い。


 で、なんで、こんなことになってるのかというと──


 『お客さん⋯⋯アナタ、何か小細工してるでしょう?ちょっとコッチへ来て頂けませんか⋯?』

 その時はまだ人型だった幻妖加護人の男が、ヴァチュラー様にそう声を掛けてきたのだそうだ。


 自分でも調子に乗りすぎたと思ったヴァチュラー様は、カガリス様にテレパシーで《ちょっと行ってくるね》と伝えて、男の案内で奥の小部屋へと連れて行かれたのだが──


 《酷い対応だったんだ。細工したバットと球を持ち込んだだろうって言い掛かりをつけられた上に、大獣人達に拘束されかけて⋯⋯》


 カジノ内で使う専用のバットと球は、魔法を消去する機能があるのでズルはできない。だから、外から持ち込んだんだろうと、決めつけられたという。

 でも、それってバットと球を調べればいい話で、いきなり拘束しようとするのは、おかしくない?


 《少し行動が変だったから、彼らのステータスを視てみたんだ。そうしたら、魔力が多そうだったりお金に困ってそうな客を見つけては、何だかんだ言いくるめて、とある場所に集めていたらしい。私の場合は、当たりばかり出すから賭け金の金額が高額になり過ぎたのと、気が弱そうに見えたから⋯という理由だったようだけど》


 あー⋯⋯エイベルの外見だとそう思われるかも。連中もまさか、その気弱そうな青年の中に、黒バットを振り回して破壊しまくる神がいようとは、夢にも思うまい。


 『それでね〜、もっと変なのが〜集められた人たちの〜行方を知らないの〜、この人たち〜』


 ⋯⋯妙だな。借金奴隷にするためじゃないの?


 《よし!コイツらの上の連中を調べてみるか。まあ、ここのカジノは全て国営だから役人だろうが》

 『アメジオスって、元老議会が国を動かしてるんでしたっけ⋯⋯』

 モブラン先生とリブライト先生の授業で、そう教わった。


 《昔からアイツに盲目的に従ってたのは、エルフと翼持ちの加護人だ》

 『アレ?加護人全員じゃ無いんですか?』

 《違うよ。私達は二つに分かれて戦ったけれど、そもそも私達の姿はその時々の好みだから、君達の言う加護人とか小獣人とかは関係ないんだよ》


 ⋯⋯そうなんだ。どの加護種がアッチ側とかコッチ側とかじゃないんだ。でも、エルフと翼持ちだけは、ハッキリとした敵だったと。


 《じゃあ、私が殴った記憶を消して、他の者達が集められている場所へと連れて行ってもらおう》

 『僕〜ドキドキします〜!』

 オレっちは、ちょっとワクワクするかも。悪の組織的へと乗り込むって感じで。


 《よし、決まりだな!》







 ◇◇◇◇◇ 


 「ハァ!?追加を連れてきた!?今頃遅いぜ、おめぇたち!もう、客人が連れて行った後だぞ!!」

 「す、スミマセン!!」


 記憶を改ざんされた幻妖加護人が、彼より頭二つ分高い長身の加護人に頭を下げていた。身体的な特徴が無いことから、彼もまた幻妖種なのだろう。

 他にも何人かガラの悪そうな加護人や大獣人がいたが、彼らはすぐに地下から出て行った。


 そう。オレっちたちが連れて行かれたのは、カジノの地下だったのだ。

 地下室は広く、床も壁も全てが黒曜石のような黒い石でできており、その中央には長細い黒い石柱が十二本、円形状に並んでいた。


 「ったく──今回の責任者の御方も、なぜか姿が見えねぇし⋯⋯本部の方に連絡するから、ソイツらは次に回せ!」

 「ハァ⋯⋯わかりました」

 《わかった、じゃねーよ!》

 カガリス様の声と同時に、男たちの動きがピタッと止まる。


 《おい、オメーら!知ってる事を、全部吐きやがれ!!》

 暗示と神の圧によるものなのか、男たちは石床に跪いた。


 「は⋯⋯はい!最初は──ここを管理している役人から、魔力が高くて金に困ってる奴を集めろと⋯⋯指示されて」

 長身の加護人は、跪いたまま話し始めた。

 残りの下っ端三人組もひれ伏していたが、「「「俺たちは、現場で人を集めるだけで⋯⋯後は知りません」」」と言った後、口を閉ざした。

 実際、彼らのステータス画面には、これといった情報が無かったもんね。

 たが、上司の方は違ったようだ。


 「男でも女でも──性別はどちらでもいいが、できるだけ若い方がいいという条件で⋯⋯後は、このカジノの地下にあるのが大昔の転移装置だという事しか⋯⋯教えられていなくて」


 《⋯⋯やっぱり中央のアレは、俺たちの時代の転移装置か》

 キュ!?あの真ん中の石柱が、転移装置!?あれ、でも──


 『なんでまた、古き神々の転移システムの上に、カジノなんか建てたんでしょうね?』

 《確かにな。⋯⋯何でだ?》


 「⋯⋯役人の話だと⋯⋯この国で一番大きなカジノ⋯⋯つまりここは、もともと上のお偉方が密談に使っていた建物だったとかで⋯⋯」

 《へえ〜。じゃあ、ここはかなり昔からある古い建物なんだね?》

 ヴァチュラー様がそう言いながら、中央の石柱へと歩き出した。


 「いえ⋯⋯確か⋯⋯カジノの前は、竜人の半神血族の別荘が⋯⋯あったとか⋯⋯?」

 ヴァチュラー様の質問に、長身の加護人は自信なさげに答えた。おそらく、かなり昔の話で、ハッキリとは断言できないのだろう。

 それにしても──古き神々の転移装置か。


 各地に点在する古の転移装置は、消費する魔素エネルギーが膨大なのと起動させるための術式が失われて使用不可になっているため、放置されて、ただの古代遺跡になっている。

 なんでも、古き神々が使っていた術式が解らなくなったのは、竜の神々が意図的にそうしたからだと考えられているが──


 『昔の転移装置は、長距離な上に規模も大きいんでしたっけ?』

 《そうだ。そもそもアレも『眼』と連動していたから、『眼』がない今じゃ、座標なしだがな》


 かつては数万人単位で転移させることができたとされる長距離用の大規模転移──それを今回、本当に使ったんだろうか?


 《おい、本当にコレを使ったのか?》

 今度は、カガリス様が加護人に訊ねた。


 「はい。今回は、五十人程でしたが⋯⋯若い⋯褐色肌の少女が⋯⋯起動させて》


 キュ?褐色肌の少女?

 うーん⋯⋯アメジオス南部の加護人?でも、褐色肌になるほど南方だっけ⋯⋯?


 《次にそいつが来るのは、いつ頃だ?》

 「最近は、回数が多くなって⋯⋯一月ごとに⋯⋯でも⋯その少女が来るかどうかは⋯⋯以前は、成人の男でしたし」


 《ふ~ん。どっちにしても、次は一月後のようだな⋯⋯ん?ヴァチュ、どうした?》

 《カガリン。この転移装置の術式──組み換えられてる》

 《何だと!?》


 そこからは、なぜかヒソヒソモードで、オレっちやエイベルには聞こえなかった。⋯⋯そんなに重要な話なのかなぁ?






 ◇◇◇◇◇


 ☆ ヴァチュラー視点 ☆


 信じられない。私達の神術式が組み換えられてるなんて。しかも、私達や竜神たちのものではない他神族の術式──


 《俺たちの()()連中とも違うみてーだしな⋯⋯とにかく、ヴァチュでも元に戻せねーんだな?》

 《絶対に無理という訳でもないけど、かなりの時間がかかるし、他神族が関わっているとなると厄介だよ》

 《そうだな。いっその事──壊した方がいいのか?》

 《無理だよ。今の憑依してるだけの私達じゃ、これを壊せない。一応、皆との合作物だからね。恐ろしい程の強度がある》


 そもそもこれは、眷属たちの為に造った物だった。私達は、『眼』の座標さえあれば自力で跳べたけれど、眷属たちはそうはいかなかったからだ。だからこそ、能力(ちから)を合わせてこの転移装置を造った訳だが──今になって、この頑丈さが仇となるとは。


 それにしても──あちら側は、他の神族と関わりがあるのか?だとしたら⋯⋯これは、私やカガリンでも手に余る事態かもしれない。

 しかし、上に報告しようにも確証がない。ここは、もう少し情報を集めてみよう。

 実際に他神族の介入があったと確認できたら──即、報告だ。

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