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第百四十三話 ヴァチュラー階層

 《最下層だと?》

 「はい。竜の神々は、この中央ダンジョンに一つだけ、貴方がたが造ったダンジョンの下に、新たな階層を造ったのです。これは、そこに入る為の鍵──オリジナルではなく、複製の神竜印ですが」

 《何の為に俺たちに渡す?》

 「私は、かつての古き神々の争いの原因と、それが長引いた理由を知っています。⋯⋯万が一、貴方がたが危険に陥った時、この階層を避難場所とお使い下さい。⋯⋯()()()()()()には気づかれていない場所ですから」


 「⋯⋯それも、太極神母(たいきょくしんぼ)の予言なの?」

 「いえ。私もそこまで詳細にはお聞きしておりませんので、これは私の独断です。ただ──かの階層は、竜の神々の保養地でしたので、体を休めるには最適かと」

 「なんだ。魔物無しの階層か。つまんねーな!」

 「魔物の代わりに、可愛らしい動物たちや他の世界で失われた種などもおりますよ。少しでも興味がありましたら、どうぞお入りになって下さい」


 太極神母ってなんだろ⋯⋯って、それよりも、竜の神々の階層!めっさ、興味ある!セレブ的エリアの予感!!


 《フン。暇になったら入ってやる。だが、今回は必要ねーな》

 《そうだね。今回の目的は、私の造った階層と、遺物の回収だしね》


 古き神コンビのせっかちな事よ。竜の神々の保養地なんですよ!?正直オレっち、ヴァチュラー様の階層よりもそっちを見たい!!

 でも、それを言うとヴァチュラー様の機嫌を損ねちゃうからなぁ⋯⋯ハァ。






 ◇◇◇◇◇ 


 「凄いですね!白の竜賢者様のご紹介でダンジョン見学なんて!!私、ここに勤めて200年近くになりますけど、初めてですよッ!」

 冒険者ギルドの見学担当の職員さんが、興奮気味にオレっちたちを見た。青い髪に黒灰色の角を持った竜人の青年⋯いや、ややオッサン寄りのお兄さんだ。


 白の竜賢者様専用の特別仕様の魔牛車を降りてダンジョン前に着いた時、何故か複数の冒険者ギルドの竜人職員が出迎えてくれ、そこから、このギルド館内の応接室へと通されたのだが──


 まず出迎えてくれた職員さんたちの最初の反応が『小獣人の子供さん!?なんで!?』だった。


 まさか竜賢者様の紹介で、オレっちとエイベルのような小獣人の子供が来るとは思ってもみなかったのだろう。

 とりあえず、他の職員さんたちは困惑したままそれぞれの仕事場へと戻って行ったが、残ったこの人は、その理由を訊きたいようでソワソワしていた。


 「特に白の竜賢者様は、年始ぐらいしかお姿を現されないし、どんなに著名な竜人でもお会いする機会が無くて──ささ、お茶でもどうぞっ!粗茶ですが!!」

 「あのー」

 悪いが、コッチは早く下層に降りたい。中の人の圧が重いので!


 「おっと失礼!では、まずここのダンジョンの説明を──」

 《いらん!お前も、いらん!!》

 「!?」


 さっきまであんなにハイテンションだったお兄さんが、パタンとそのまま応接室のソファで眠ってしまった。カガリス様の暗示って、竜人にも効果あるんだ。


 《人間よりは神力を消耗するが、所詮はオメーらと同じだからな。よほどの魔力量じゃねーと抵抗できねぇ》

 ふ~ん。暗示が効かないのは、魔法公クラスか、それに近い者たちだけなのか。


 《効かない訳じゃねぇ。効く時間が短くなるんだ》

 なるほど。

 あ。今、なんか、あのクソぎつねババァを思い出した。

 一応、アレも魔法公に近い魔力持ちだったなぁ。パールアリアの闇組織と関係してたから、案外、奴らと同じように逃げてるのかも。だったらザマァなんだけど。






 ◇◇◇◇◇


 《あ~、 この感じ!久々だなぁ!》

 ヴァチュラー様が、嬉しそうなお声を上げる。


 ヴァチュラー階層──って、階層丸ごと洞窟仕様なんですか!?いや、洞窟と言うより鍾乳洞なのかな?


 『ハァ〜スゴいね〜!』

 『デケェ穴だよなー!』

 すでにカガリス様と交代済みのオレっちとエイベルは、目の前の光景に圧倒されていた。


 天井が高く広大な鍾乳洞内は、色とりどりに光る大きな石筍(せきじゅん)が無数にあり、照明器具などが無くても内部がよく見えた。

 天井から突き出した鍾乳石もこれまたデカく、青銅色や黄金色をしている。⋯⋯って、これ金だよね。ゴールド!!何気にゴージャス!


 しかし、鍾乳洞だけに水場も多く、棚田状の輪縁石が独特の雰囲気を醸し出していた。


 あー⋯⋯八◯墓村のアレだ、アレ!落ち武者の呪いはともかく、なんか出そうな雰囲気⋯⋯いや、ダンジョンだから出るんだよな、魔物が!


 《そりゃそうだろう。──来るぞ!》


 バサバサバサッと羽音が聴こえてくる。⋯⋯洞窟の中の羽音って、多分、あの魔物かな?うん、きっとそうだ。


 『キーッ!!』

 あっという間に、無数の白いコウモリたちに囲まれた。キュ?白いコウモリ!?って、やべッ!血を吸われる!?


 《違うよ。この子たちは殴ってくるんだ》

 『殴る!??』

 『見て〜タロス!この魔物たち〜武器を持ってるよ〜!!』


 エイベルの言葉通り、コウモリ魔物たちは白いバットを持っていた。しかも、めっさ痛そうなトゲバット!!

 皮膜翼の手でどうやって──と思ったら、奴らは四枚の皮膜翼を持っていた。その内側の二枚の両翼が合わさって、バットに変形していたのだ。どーりで白いワケだ!


 魔物たちは、ドッと集団で空中からバットを振り下ろしてきた。急降下、しかも全方向からのトゲバット攻撃!やめてっ!!


 《ウゼー!全部、俺が殺る!!》


 カガリス様の全身が銀色の光に包まれたかと思うと、それが一気に放出された。

 ジュともキーッとも何一つ聴こえず、コウモリ魔物たちは銀色の光の中で消滅していった。


 《あ~あ。この子たち、久しぶりのお客さんに喜んでたのに⋯⋯もう少し遊んであげてよ、カガリン》

 《どーせ、次も来るだろ》


 『あのー、ヴァチュラー様はここの製作者だから襲われないとかではないんですか?』

 《無いよ。誰に対しても忖度無し。いつでも全力殲滅をプログラムしてるからね》


 安定の鬼畜仕様──!!


 『僕、ダンジョンは初めてだけど〜なんか〜面白いね〜』

 エイベルが呑気にそう言った。意外だな。エイベル、怖がって無いんだ。


 『エイベル、魔物が怖くないのか?』

 『今の魔物は〜僕に似てたし〜ヴァチュラー様の中だから安心してるし〜怖くないかも〜?』


 まぁ、その姿の元祖だからな。それに、ほぼ無敵な神の中だし。オレっちも、もっと気楽にいこうか。


 《攻略しながら遺物も回収していくよ。神力印が解ける物だけだけど》




 神は無敵だから大丈夫!⋯なことはわかっていても、鍾乳洞内を進むに連れて魔物は巨体になるわ、よくわからん姿をしてるわ──普通の冒険者ならとっくにゲームオーバーだろうなって、難度の高さ。エンカウント率も高い!


 岩系の魔物が出てくるエリアになると、鍾乳洞内全体が魔物の腹の中みたいなもんだから、さすがのカガリス様もへばってきた。ヴァチュラー様の方は疲れも見せず、自分で造り出した黒バットを、ブンブン振り回しているが。


 《クソっ!本体なら幾らでも戦えるのに、タロスの体じゃ二時間が限界か!》

 《基礎が脆弱だから仕方ないよ。私も我がダンジョンながらこのしつこさには辟易してきた。もう遺物も回収できたし、最後のボスを倒して出よう》

 《あ~!?倒すのか?面倒くせーな!そうだ!オイ、タロス!お前がやれ!!》

 『キュ!?』

 カガリス様の中でぐーたらしていたオレっちは、飛び起きた。まさかの出番!!


 『そうだね。エイベル、君も戦うといい。私の能力があるから大丈夫だよ。それに、難度は()()()()設定してあるからね』


 えっ!?今、なんて!?神々の遊び場って、階層の難度調整ができるの!?

 《できるさ。以前の遊び場も、最低難度にしておいたからな。そもそも、本体じゃねーから中難度でも無理だ》


 ガーン!!オレっちのあの大活躍は、最低難度が故の結果ですか!?ショック!!


 『き、緊張しちゃうな〜!でも、頑張る〜!』

 オレっちが衝撃を受けている間に、エイベルがやる気になっていた。それを見て、オレっちも難度にこだわっている時ではないと、気を取り直す。


 「よし!やるぜ、エイベル!!」

 「お〜!!」


 難度が低いとはいえ、初めての階層ボス戦!ゴクリと喉が鳴る。


 「この向こうが、階層ボスの部屋⋯⋯」

 

 最後の扉──というか、石の壁がゴゴッと開いた。これまでの鍾乳洞内と同じく、かなり広い空間だ。

 天井から無数に突き出た琥珀色の鍾乳石が、シャンデリアのようにキラキラと輝いていた。そして、ドオオォンッ的な効果音が聴こえてきそうな、人影──


 「アレ?」


 オレっちはビックリした。てっきり、大きなコウモリ型の魔物か、ヴァンパイアの王とか──その辺りを予想していたのだが──


 そこにいたのは、六枚の白い翼を持つ天使だった。いや、目に白目が無いから魔物だとはわかるんだけど。

 でも、姿は人型の⋯前世のイメージ通りのパッキン天使なんだよね。違いは、白目の無い眼と頭上に輪っかが無いとこだけかな?


 「加護人風の〜階層ボス〜?」

 『天使』という概念の無いエイベルからすると、確かにそうかも。


 「⋯⋯あのー、ヴァチュラー様。どうしてこのデザインにされたんですかー?」

 我ながら階層ボスを目の前に呑気なことを言ってるが、気になるもんは気になる。


 《私の大嫌いな者を、モデルにしたからだよ》


 めっさ、単純な理由だった!!

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