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第十四話 国境を越えて──樹海、恐るべし!

 ビスケス・モビルケ内の大きな街や村だと思われる小さな集落を、上空から見下ろして楽しむ。

 どの場所も巨大な広葉樹──ウルドラシルの葉に覆われる部分が多くて、前世のような密集したビル群の灰色感がない代わりに、自然にのみ込まれたかのような緑感が圧巻だ。なかには聖獣都(マルガナ)にあるような巨木よりも高い建物もあって、そこが街の中枢であることが分かりやすく示されている。


 「皆様ぁ!当鳥浮船は、後5分程で降下し始めますぅ!着陸時の揺れにお気を付け下さいぃ!」


 客室乗務員のオウムマダムの拡声魔法が、船内に響き渡る。オレっちとエイベルは飛び立った時と同じように、甲板に立ったまま、その時を待つ。

 

 「キュキュッ!?」

 オレっちは驚きのあまり、鳴きを連発してしまった。


 六羽の三色団子⋯じゃなく、雁鳥魔獣が徐々に降下し始め、大きな飛行所がはっきりと眼下に見えてきた時、発進時には甲板に出てこなかった十人ほどの乗客が、傘を広げて次々と船を飛び降りていったのだ。


 傘持ちだけでなく、鳥獣人たちも翼を広げて飛び立っていく。

 鳥獣人たちはともかく、赤や黃、緑──色とりどりの傘持ちたちもまた、別方向に流される事なく真っ直ぐに飛行所へと向かって行った。

 ──風魔法だ!


 「エ、エイベル!オレもオレも!」


 すでにテンション爆上がりで恐怖心どころか急かされるような焦りに駆られて、甲板の端へと走る。手に持った青い傘をパッと広げると、勢いのまま、宙へと舞った。


 「おお──っ!」

 オレっち、宙を浮いてるよ!!


 傘に持ち上げられるような感覚のまま、ゆっくりと降下していく。

 「タロス、行くよ〜!」

 共に飛び降りたエイベルが、皮膜翼で並走しながら、風魔法を使って誘導してくれた。

 飛行所の上空まで来ると、先に着いた傘持ちたちの間に着地。


 「すげぇよ、エイベル!オレ、空飛んだの、初めて!めっちゃ最高──!」

 「そうだね〜。僕も〜自分で初めての飛んだ時は嬉しくって〜1日中飛んで〜最後は落ちたの〜」

 それは⋯⋯エイベルの黒歴史なのでは?

 

 鳥浮船の着陸時の乗客飛び降りは、乗り慣れた獣人たちの定番イベントで、乗務員さんも作業員も傘の回収時に注意する事は無かった。





 ◇◇◇◇◇ 


 ビスケス・モビルケの各地から着いた小型の鳥浮船の客たちと合流し、それぞれの目的地に合わせたゲートへと案内される。

 次なる船は、白鳥似の鳥魔獣が運ぶ中型の鳥浮船だ。

 優美なフォルムをした白い鳥たちは、雁鳥魔獣よりも二倍ほど大きく、内側にある小さな翼を含めると、六枚も翼があった。


 「同じ方向に〜顔を向けてるね〜」

 エイベルの指摘通り、待機中の白鳥鳥魔獣たちは同じ方向をじっと見ていた。


 「あ、アレだ、アレ!」

 鳥魔獣たちの視線の先には飛行所内の大きな人工湖があり、彼らは普段の自分たちの待機場所を凝視していたのだ。


 「やっぱ、そこだけ前世と同じなんだ⋯⋯」

 白鳥と湖は、異世界でもセットにされてるもんらしい。

 それでも今はお仕事中。

 鳥浮船の前後に二羽ずつ、合計四羽で、ウルドラ内の国境近くの飛行所へと飛び立った。






 「見て、見て、タロス〜!アレが『樹海』だよ~!」


 先の小型船より二倍以上も広い甲板で、エイベルが珍しく興奮気味に大きな声をあげて、右の前方を指差した。


 「あれが──」


 樹海はダンジョンと同じく、暗黒期以前からある古代森林だ。地表のダンジョンとも言われている。

今でも樹海内にある数多くの洞穴から漏れ出る魔素が濃厚で、樹木の高さは300メートルを越え、なかでも中央にあると伝えられている『混成樹』は、それらを遥かに上回る高さを持つという。


 うん。かなりの距離があるはずなのに、中央のアレ、めっちゃデカい。つーか、樹海広すぎ。果てがが見えないんですけど。⋯⋯見えないといえば、富◯山のような活火山も見えないな。まあ、そこは異世界だから気にすることでもないか。

 

 ウルドラム大陸にある唯一のこの樹海は、小獣国と大獣国と竜人国の三国の国境でもある。それだけでも、樹海がどれほど広大なのかが解るってもんだ。

 神々の時代でさえ手付かずで、正確な情報が少ない。それでも周辺──浅い領域や、樹海から少し離れた上空での観察(樹海の特殊個体のなかには5000メートルの高さを飛ぶ鳥魔獣がいるため)などから少しずつ情報を集めているのが現状だ。


 古き神々、及び竜の神々は、この樹海に関して、まったくの無関心だったらしい。また、樹海の生物はみな固有種で、古来より、鳥類でさえも樹海内から出る事は無かったとされている。

 数少ない樹海専門の研究者たちは、樹海の固有種はダンジョン内の魔物に近いと推測しており、魔獣と魔物の中間点に位置する生物だと主張しているのだそうな。


 ──と、かーちゃんが昔使ってた教科書には書いてあった。


 ちなみに、樹海の固有種たちは、ダンジョンの深層魔物と同じぐらいの価値があって、A級やS級冒険者パーティーが挑戦する事もあるんだけど、帰還率がダンジョンよりもかなり低いらしい。

 何だかんだ言っても、ダンジョンには休憩ポイントや逃走用の転移ポイントがあって、製作者の優しさが垣間見えるんだけど、樹海に関しては、何一つ優しさってもんがない。

 樹海内の濃い魔素は加護持ちだから平気だけど、そこは地図(マップ)もなく広大で薄暗い超巨木の密集地帯──凶暴な固有種たちが徘徊し、休憩できるような安全な場所もなく、ピンチの際の手段もない。しかも噂によると、擬態魔獣が多く、中には木に擬態した魔獣(某有名RPGにいたな、そんな魔物)や石に擬態した魔獣(某有名⋯⋯もういいや)なんかもいるとか。


 その上、樹海ギルドってのも存在しないから、ダンジョン街のような近場の設備も無いし、魔法鞄(マジックバッグ)もレンタルできない。

 だから昔から上位冒険者たちも数年に一回だけ挑戦するって感じで、ごく浅い場所で短時間だけ数頭の固有種を相手にして撤収する。

 樹海、恐るべし。



 さすがに国境をまたぐ飛行ルートでは飛び降りイベントは出来なかったけど、エイベルと二人、甲板で空弁を食べたことは、旅の良き思い出となった。前世なら夏休みの日記帳にぜひ書き記したいところだ。特に玉子焼きは、ウマウマだった。





◇◇◇◇◇


 「竜人国(ウルドラ)は初めてかな?この国境沿いでも観光地は多いから、ぜひ楽しんできてね」

 

 初めて見た竜人は、角があるだけの人間だった。背の高い人が多い。あと、やや彫りの深い顔立ちではある。ただ、なぜか肌の色は様々で、前世のような民族の外見的統一感は皆無だった。

 髪の色は青色や赤、緑の人が多く、黒髪や金髪、茶髪の人は見当たらない。お。白い髪の人、発見──と思ったら、御老体だった。


 入管のおじさんやお姉さんたちは、オレっちとエイベルを見て、ニコニコしていた。

 この視線は──アレだ。愛玩動物を見るような⋯『可愛いでチュねー』だ。

 獣人同士の『子供は可愛い』とは別モノのソレ。出口誘導のオバちゃんには飴を貰った。その好意に、かつての故郷を思い出す。それはともかく──やって来ました、竜が空を舞う国、ウルドラ!


 「アレー?竜が飛んでないー?」

 「タロス〜、こんなに人が集まる場所で〜竜体化する人は〜いないよ〜?」

 「⋯⋯だよな」

 エイベルのツッコミに、オレっちは冷静になる。


 「竜体化した人なら〜、多分〜国境警備隊の施設にいるんじゃないかな〜?民間人は立ち入り禁止だから〜遠目でしか見れないけど〜」

 「運送とかで竜体化しないのか?」

 「それは、夜から早朝にかけての物資輸送時だけだぁよ、坊やたち」


 「キュ!?」


 突然耳に入ってきた野太い大人の声に、オレっちの尻尾がブワっとなった。

 「ああ、ゴメンよぉ。驚かせてしまったぁね。私は、君たちを迎えにきたぁんよ」


 そう言って、ズングリとした体型のカピバラ(?)獣人のオジサンが、かぶっていた麦わら帽子を脱いだ。


 「あ~、スミー村の人〜?ジイジが迎えの人を頼んでるって〜言ってた〜!」


 目的地はスミー村か。全部エイベル任せだったから、名前も聞いとらんかったわ。


 「んん。私は鳥魔獣牧場の者なんやが、商品の運搬ついでに人も乗せとぉるんよ。うちの専用車は魔牛車よりも速いから、村まであっという間だぁよ!」


 え──牛魔獣じゃないの!?


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