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第百四十二話 竜の半神

 「二柱の古き神々に、ご挨拶申し上げます」

 大きな牙が見える竜の口から、穏やかな美声が発せられる。次の瞬間、白い巨体がスッと消えた。


 「⋯⋯私は、この国の竜賢者と呼ばれている者の一人、ユーグラム・ダンテと申します。以後、お見知りおきを」

 竜賢者──ユーグラム様は、竜体化を解くと塔の上に降り立った。そして、カガリス様とヴァチュラー様に一礼する。


 『⋯⋯』

 どうしよう。いくら竜賢者とはいえ、神々の気配を感知するとは思ってもいなかった。この場合、勝手に領域に入ったことを謝るべきなのか、開き直って神の威厳おどしで押し通すべきなのか⋯⋯

 

 それにしても、銀髪の竜人なんて初めて見たな。それに、蒼なのか翠なのかよくわからない色彩の瞳が、カガリス様やヴァチュラー様のようにキラキラとした輝きを放って⋯⋯ん!?


 《フン。オメー、半神血族とやらじゃねぇな?》

 《うん。ユーグラム君って、竜神と加護種の間に生まれた半神だよね》


 えっ、エエエッ!?半神!?半神血族じゃなくて、本当に竜の神とのハーフなの!??


 「はい、仰る通りでございます。私の父神は、竜神族の一柱──白神竜、グラムダンテですので」


 ⋯⋯。⋯⋯竜の神々の半神様って、まだ生きてたんだ!

 そーいや、この人の角──キラッキラッし過ぎて、銀色なのか虹色なのか分かりにくいな。これが半神の特性なんだろうか?


 「半神とはいえ、半分は人の血を引く私は、本来ならばこの時代まで生き永らえることはなかったのですが⋯⋯実は、二千年ほど前まで眠っておりまして」

 

 コールドスリープでもしてたの?

 氷漬けにされた白竜──さぞかし絵になるだろうなぁ。こんだけ美形だと人型でもまた然り。

 オレっちやエイベルだと、氷漬けのリスとコウモリの剥製にしか見えないが。でも、なんで⋯?


 《なる程な。『海の呪い』とやらがハンパに防がれたのは、オメーがいたからか》

 「はい。あれが起こる直前に目覚めました。ですが、元々、それは竜母神様によって予言されていた事です。そして、その予言によると──三度目がある筈なのです」


 海の呪いの第三波!?マジで!?って、アレ?アレレ!?三回目ってことは──もしかして、二回目もあったの!?


 「一度目は我が父の遺物を含めた竜の神々の聖遺物を使い、この中央だけは加護契約の強制破棄を免れました。千年ほど前の二度目は、前回未使用だった僅かな聖遺物と同胞たる半神たちの死後に残った竜玉を使い、何とか防ぎました。ですが⋯⋯次は打つ手が無い状況なのです」

 白皙のイケメン──エルフとは微妙に違う彫像のように整った顔が、少しだけ曇った。


 哀愁漂う長い銀髪の超絶美形⋯⋯オレっちが女なら、即座にハートを射抜かれて──いや、そんな事はどうでもいいとして!

 海の呪い、二回目もあったの!?ビックリだよ!!


 《加護の強制破棄⋯⋯やはりな。竜人は、一括した加護契約だったから、アッサリやられたんだな》


 カガリス様には海の呪いの二回目など、どーでもよかったらしい。めっさ、スルー。


 「そうです。竜の神々と同じく、竜母神様から竜神力の供給を受けていました。ですが、それは竜の神々を通しての間接契約でしたので、その弱い部分を狙われて、竜神力の供給を絶たれたのだと思われます」

 《なる程ね。私達のような個別の加護契約では無かったから、一括破棄されちゃったんだ。でも、一体、どんな神術だったのかな?今でも効力が持続してるなんて⋯⋯》


 ⋯⋯?あの〜オレっち、アホの子だからよく解らないんですケド〜??

 『エイベル、今の話、わかった?』

 『ううん〜。全然〜わかんない〜。と言うより〜頭が追いつかなくて〜』


 《後で説明してやるから、黙っとけ!》

 さいですか。


 「貴方がたの目的は、恐らくここのダンジョンだと思われますが──どうでしょう?少し、おもてなしをさせて頂きたいのですが」


 《いいだろう。ところで、酒はあるんだろうな?》

 即答かい!って、このアル中神!せめて、お茶とか言えや!!

 

 「勿論、用意させましょう。さ、中にお入り下さい」


 パッとユーグラム様の長身が消える。そして、次の瞬間、カガリス様たちも移動していた。



 そこは、ウチの旦那様が使う客間よりも上等そうな、豪華な部屋だった。

 おそらく城の貴賓室なのだろう。どれもこれも華美な調度品ばかりだが、目に見えて無駄金を遣った成金っぽい品など一つも無い。さすがは、真のお金持ち!!


 「さあ、何処でもお好きな所にお腰掛け下さい」

 《うむ!》

 重厚な革ソファのど真ん中に、ボスっとカガリス様が腰を下ろした。ヴァチュラー様は、その左隣にちょこんと腰掛ける。


 『ほえ~⋯⋯キレイな照明魔導器だなー』

 純度の高そうな魔石で作られたシャンデリアは、どうやって制作したのかがわからないほど、複雑な、それでいて洗練された幾何学的なデザインをしていた。


 今さらだけど、最近は常に二視界⋯カガリス様視界と第三者的視界になってんの。だから、部屋の内部がよく観察できる。キョロキョロ。


 「失礼致します──」

 扉が開かれ、白のエプロンドレスを着た竜人メイドのお姉さんが、銀色のサービングカートと共に部屋へと入ってきた。

 カートのプレート上にはお酒やグラスやティーセット──そして、前世でも見たことのある三段のケーキスタンドがあり、各大皿の上には、ケーキやクッキー、フルーツなどがたくさん載せられていた。


 『美味しそう⋯⋯』

 『僕たちは〜食べられないけどね〜』

 ガッカリ。せめて、味覚だけでも共有できたらな⋯⋯


 《フン。この酒、なかなか美味いじゃねーか》


 脚を組みながら、偉そうにカガリス様がグラスに注がれたお酒を飲んでいた。いかん。味覚を共有すると、自動的にアル中の仲間入りをするところだった。危ねぇ。


 《ところで──どうして君の親神や他の竜神たちは、介入してこないんだい?》

 ヴァチュラー様が上品に紅茶をかき混ぜながら、ユーグラム様に訊ねた。

 え⋯⋯今、角砂糖を4個入れなかった⋯?もしかしてヴァチュラー様、甘党なの!?


 「竜母神様が介入を禁じたからです。それに、もともと竜の神々のこの地への滞在は、期間限定のものでした。そう──あの不毛な争いを止めるための⋯⋯」


 《それを言われると頭が痛いけれど、確かにあの争いがあんなに長く続くとは私達も思ってなかったんだ》

 《ああ。主である俺たちが去った後だから、続いてもせいぜい百年、二百年ぐれーだと思ったんだが⋯⋯》


 「実際は、停戦を繰り返しながら三千年以上も争い、収まる気配すらありませんでした。地の荒廃はもとより、魔法による汚染も酷く、時には空間さえも歪んだと聞いております」


 そんなに長く続いたの!?つーか、よくこの星、崩壊しなかったな!


 《俺たちの方でも眷属にもういいと伝えたんだが⋯⋯アイツが、それを邪魔したんだ》

 《こちらがやめても、あちらはやめない。それに、私達が眷属種との加護契約を破棄しても、『彼』がいる限り、意味が無かったしね》

 《実際は、奴と末姫様の戦いだからな。むしろ加護を喪って人間に戻ったら戦闘の余波で眷属たちはほとんど死んでただろう。⋯⋯誰しも己が眷属を見捨てたりはできなかったのさ》

 

 ⋯⋯こうして当事者たちから話を聞くと、当時は本当に悲惨な状況だったらしい。ところで、末姫って誰やねん?


 「ええ。だからこそ竜母神様は、竜の神々に介入させたのです。ただ──少しだけ父神たちは余計な事をしてしまいましたが」

 《それも含めて許可を出したんだろう。俺たちの世界でもそうだが、最上神は全てを予定調和内で調整している》


 ⋯⋯難し過ぎて、脳内がオーバーヒートしとりますがな。エイベルなんてヴァチュラー様の中で寝てるんじゃないかな?






 ☆ エイベル視点 ☆


 竜の神々の半神様が存命されていたなんて⋯⋯驚いた。

 でも、自分でもビックリするぐらい落ち着いている。そもそも神様⋯ヴァチュラー様に取り憑かれた時に一生分は驚いたから、その反動なのかも。


 白の竜賢者様は年始しかお出ましにならないって話だったけど、そこはやはり半神である事が関係しているんだろうか?


 ⋯⋯何千年も⋯⋯ううん。もしかしたら何万年も独りで眠っていたとしたら──

 さっき、同胞である半神たちの死後にって言ってたよね?眠ってる間に他の半神様たちが亡くなったって事で──

 この方にとって、今の半神血族と呼ばれる他の竜賢者様方は、どんな存在なんだろう?そして、他の竜賢者様たちは、その事を知っておられるんだろうか?

 ヴァチュラー様たちの話が全くわからないから、僕としてはそこが一番気になるんだけど。

 タロスは⋯⋯多分、タロスは僕なんかよりも頭がいいから、別のことに興味津々なのかも。


 それにしても⋯⋯あのたくさんのケーキやクッキー、一つだけでも食べたいなぁ⋯⋯。







 ☆ 補足 ☆


 タロスは前世、下戸でした。どんだけ酷いかと言うと、麦茶を大量に飲むとほろ酔いするぐらいです。そもそも、お酒を美味しいとも思ってませんでした。もちろんタバコもです。(健全)


 ヴァチュラー様は甘党ですが辛党でもあります。味覚はエイベルと共通しています。

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