第百四十一話 準備万端?
ダンジョン探索──いや、聖遺物回収が終わり、マルガナ中心部のお屋敷へと戻ってきたオレっちたち。
《よし、これで準備万端だ!さあ、出⋯》
「待っておくんなせぇ、カガリス様!オレたちの準備が、まだ完了しておりません!!」
《ハァ!?オメーらの準備だと?》
「ハイ!オレたち眷属は、衣食住がなければ健康を維持できません!住はともかく、簡易空間に、食料と日用品、ついでに魔法具を入れておきたいのです!!」
カガリス様の簡易空間には、回復系アイテムはあったが、食料は、アリスさんのクッキーと、食の楽しみが奪われる万年満腹薬しかなかった。
そもそも、神がオレっちたちが必要とする物資や魔法具などを持っているワケがない。
何より、神器のレベルが高すぎて、オレっちたちでは使いこなせないのだ。
実際、オレっちに扱える武器も出てこなかったし!簡易空間からの出庫が正確過ぎて、泣いたわ!!
と、いうことで──
「幸い、今日は土曜日で、明日は日曜日──この二日間で完璧に準備したいと思っています!なぁ、エイベル!」
「そうだね~。神様がいる時はいいけど〜、いない時には〜僕たちだけで〜何とかしなくちゃいけないもんね〜」
「ああ。あの時は、ホントに苦労したよ⋯⋯。チートな神様方にはおわかりにならないでしょうケド、コッチは最悪、生死にかかわるんですからね!」
パールアリアの闇組織に捕まった時、向こうも逃走途中だったから見張りも魔馬車の管理もザルだったけど、そうでなければ、いくらダンガリオでも逃げ出せなかっただろう。
《私の簡易空間とカガリスの簡易空間を繋げたし、遊び場から回収した遺物も多いから、前ほどは酷くないと思うけど⋯⋯でも確かに、普通の食べ物は無いかな⋯⋯?》
《そーいや、そっちの方は万年満腹薬があるから、もういいやと思ってたな。⋯⋯仕方ねぇ。用意しておけ!》
ヴァチュラー様とカガリス様から、許可が下りた。
「ありがとうございます!」
「ありがとう〜ございます〜!」
カガリス様の簡易空間は時間停止だから、出来たての料理とかも入れておこう。それから、アレもコレも──
ある程度必要な物をメモして、エイベルと二人、近場から遠くまで出かけて爆買いし、それらを次々と簡易空間に放り込んだ。軍資金は、カガリス様のへそくりだ。
試しに、『魔法紙幣出てこい!』と、念じながら口を開けたら、簡易空間から札束が出てきたのだ。何束かドサッと。
⋯⋯出どころは気になったが、そこはツッコまず、ありがたく遣わせてもらった。
《結構な量を入れたみてーだな。しかし、タロス?オメー、よくそんなに買い物する金を持ってたな?いつも金欠のクセに》
ギクッ!そこはスルーして欲しかったんだけど!
「あー⋯⋯。お金出ろ!⋯って願ったら、結構な額の魔法紙幣が出てきて──いや~、助かりました!」
《はあ?願ったら、出てきた!?おい、それはもしかして──簡易空間から俺の金を出したということか!?》
「え~と、願ったら出てきたので、カガリス様のご厚意だと思って⋯⋯本当に感謝しております!あのお金、パールアリアの闇組織からぶん取ったやつですよね?」
《⋯⋯半分は違っ⋯いや!オメー、勝手に──》
《カガリス。憑依している私達に、お金は必要ないだろう?いいじゃないか》
《いや、でも、あれは俺の酒⋯⋯》
《サカ⋯?》
《⋯⋯いや⋯⋯もういい⋯⋯》
カガリス様、今、酒代って言おうとしたな⋯⋯。このアル中もふ神め!
「ん?エイベル、どうしたんだ?」
エイベルが、愛用している青い裁縫箱を見て、考え込んでいた。
「ん〜⋯⋯裁縫道具はいるかな〜っと思って〜」
「服のボタンが取れる可能性もあるから、入れておこう!」
「うん〜!」
《よし、出発するぞ!目指すは、竜人たちの国、ウルドラのダンジョンだ!》
《カガリス、『眼』はもう移動させてるのかい?》
《ああ。ただ、腐っても竜神の眷属たちの縄張りだからな。とりあえず近くから様子をみて、そこからダンジョンを目指そう》
《そこは肉眼で確認できる程、ダンジョンに近いの?》
《近いし、高い》
⋯⋯高い?なんのこっちゃ?
それはともかく、旅の再出発──今回はエイベルとヴァチュラー様がいるから、ドキドキしながらも安心できる。つーか、カガリス様だけだと、マジ怖い。
前回の置いてけぼりの恐怖は、もう二度と味わいたくないもんね。
オレっちは、す〜っと息を吸いこんで、ふーっと息を吐いた。よしッ!ここは、景気づけに──
「男一匹、荷物を背負っ──じゃなく、頬袋を持って!出発だ!!」
「じゃあ〜僕は〜、男一匹、翼を背負って〜!出発〜!!」
⋯⋯なんかエイベルに負けた感じがするが、とにかく旅立つぞ!オレっち人形、エイベル人形!後は、頼んだ!!
《なんでもいいから、転移するぞ!おい、タロス!交代だ!》
「イエス!マイゴッド!!」
◇◇◇◇◇
『アレ?ここって──ウルドラの遊園地⋯?』
眼下には、様々な魔導遊具が稼働していた。日曜日の昼間だから当たり前か。しかし──
『どーして、観覧車の上に転移を⋯?』
《高い場所だからだ。ほら、あの辺がダンジョンだろ?》
少し先の眼下には森しか見えないが、確かに位置的にはそうなのかも。
それに確かここの遊園地は、白の竜賢者様の宮殿にも近かったような⋯⋯?
《カガリン。あそこの建物の方が近そうだよ?そこからなら、ダンジョンの出入り口が見えるかもしれない》
《ん?あの建物──結界が消えてる?俺が視た時には張ってあったのに⋯⋯よくわからんが、消えたんならあの一番高い塔の方がいいだろう。跳ぶぞ!》
!?えっ、ちょっと待って!まさかそこって、白の竜賢者様の──!
止める間もなく、次に見た景色は、聖宮殿で一番大きな塔の上だった。
⋯⋯いわゆる、城の主塔という場所だよな、ここ。警備が一番厳しい⋯⋯うん?そーいえば、結界が無くなってるって言ってたっけ⋯?でも、なんで!?
《?》
《この気配は──》
アレ?どうしたんだろ、神様たち?
すると、空から突然、大きな白い竜が現れた。あ、パッと見は白いけど、陽光が反射して銀色っぽく──いや、白!?
もしかして、この竜って──白の竜賢者様なのでは!?




