第百三十八話 まさかの助っ人
コンコン!
家の扉がノックされた。
⋯⋯アレ?新たな神様、直接転移してこないの?
「ハーイ!少々お待ちをー!!」
ドキドキするな!一体、どんな神様なんだろう?カガリス様は教えてくれないし⋯⋯なんでだろ?
ガチャ!
「よくお越し下さいました!神⋯⋯」
深くお辞儀してから、訪問者の顔を見る。ん?んん!?
目の前には、エイベルがいた。
あっ、エイベル!?しまった!間違えたっ!!アレ、でも瞳が──銀色!?エイベルって、翠色の瞳じゃなかった!?
《待ってたぜ、ヴァチュ!》
《戻って来るのが遅いよ、カガリン。憑依は貸し主の負荷が大きいから、一度、抜けていたんだ。ふむ⋯⋯君が、カリスのタロス君だね?エイベルの親友の》
ヴァチュ?しかも、カガリンって──あのカガリス様を愛称呼び!?
《初めまして。私はヴァチュラー。チュラーたちの神だよ》
エイベルの姿をした神──ヴァチュラー神が、キラキラと輝く銀色の瞳でオレっちを見た。いつも眠たげな半閉じのエイベルとは違い、パッチリお目々全開なので、違和感がスゴい。
口調も、エイベルのような間延びした感じじゃないし。⋯って!え、マジ!?カガリス様の言う助っ人が、エイベルの神様!?
『本当に〜タロスにも〜神様が憑いてたんだ〜!』
キュ!エイベルの声!!このニュアンスは⋯⋯心話!?
「エイベル!」
「驚いた〜。ヴァチュラー様から〜説明は受けたけど〜夢なのか現実なのかわからなくって〜」
エイベルがメインに戻ったみたいだ。瞳の色も翠色に戻ってるし、やや半眼だもんね。
《ゴメンね。出来るだけカガリンの眷属と近い間柄で選んだから、君、憑依による負荷で体調を崩しちゃったね》
謝罪の割には淡々としたヴァチュラー様の口調だが、それよりもその内容に、オレっちは驚いた。
「えっ!?オレは、特に何もなかったですケド!?あ、でも、最初はとっても眠かったなー」
寝ても寝ても、眠気がスゴくって!
《オメーは、腐っても自己治癒持ちだからな。その程度で済んだんだろう。後は──同調率が高かったって事だろうな》
同調率──シンクロか。某アニメの色違いの波線を思い出すなぁ⋯⋯と、それはどうでもいいとして、エイベル、大丈夫!?
《大丈夫じゃねーかもな⋯⋯HPが恐ろしい勢いで減ってるぞ?》
「エイベル!!家に入って、横になって──っ!!」
オレっちは、慌てて自分のベッドにエイベルを寝かせた。
「ゴメンね〜、タロス〜。ヴァチュラー様〜⋯⋯僕〜あんまり体力無いから〜⋯⋯」
《いや。体力があっても、負荷はどうしようもないぞ?》
《そうなんだよね》
「あ、そうだ!回復薬!!」
オレっちは口をパカッと開けて、カガリス様の簡易空間から回復薬が入った小瓶を取り出した。
《待ちな!それは傷や病の回復用だから、負荷による体力の低下には効かねぇ!俺の万年花を使った万能薬がある筈だから、そっちを出せ!》
万能薬出てこい!──再び、お口をパカッとなっ!
今度は、キラキラとした透明な液体瓶が出てきた。
《よし!それを飲ませろ!⋯っと!少しだけ出して、それを水で薄めねーとヤバいな!原液のままだと、肉体どころか精神の方が変質するかもしれねぇ!》
万能薬──どんだけヤバい花の蜜なの!?
コップに瓶を少しだけ傾けて、チョロっと⋯⋯次は、水で薄めて──あっ!入れ過ぎた!?
でも⋯⋯怖いからこれぐらいでいいのか?
恐る恐る、エイベルに飲ませる。
どうよ!?
「⋯⋯?あれ~、苦しくなくなったよ〜!」
ベッドに力なく横たわっていたエイベルが、勢いよく上半身を起こした。
さすがは神薬!薄め過ぎてほぼ水みたいになってたのに、この効き目とは!!
「あのー、カガリス様。万年花って何ですか?」
さっき、『俺の万年花』って言ってたよな?
《ああ。俺の花冠の花だ。この体になってから一番最初に咲いた花だから、記念に入れ替え無しにしたんだよ。そしたら深く根づいてちまってな。コイツの蜜は、肉体の再生はもちろん、精神汚染や呪いなんかも浄化できるんだぜ》
「へー。花冠の⋯⋯」
ふむ。カリスの花冠は、その辺からきてるのかな?下僕は主の影響を受けるもんね。でも、自己治癒だけで、浄化は無いが。
ところで、カガリス様の花冠の花って、どんな花だっけ?
《最初はフツーの野花だったがな。根づいてから花びらが透明になっちまって、光の加減で色が変わるんだ。角度によっては虹色にも見えるな》
『へー。虹色の⋯⋯』
七色の花か。どこかで聞いたことのあるような、無いような⋯?
「迷惑かけて〜ゴメンね〜⋯⋯」
そうこうしているうちに、エイベルがベッドから降りて、こっちを見た。
「いや、ウチの神アイテムが役に立ってよかったよー!」
あのドタバタ逃走から大活躍だな、カガリス様の簡易空間!もはや、ドラ◯もんの四次元ポケットと化してるが。
《一時凌ぎだがな。あちらの世界での神器を使っているとはいえ、エイベルとヴァチュは、さほど同調率が高くないんだろう。だから負荷も大きいんだ》
《カガリン。それなんだけど、君、同調神器持って無い?》
《あ~⋯⋯アレは無かったなぁ》
うん?
「同調神器って何です?」
《俺達の中にもズボラなのがいてな。そいつが最初に造ったアイテムで、複数の眷属達と同調することで自身は動かず、ソイツらの目だったり体感だったりを共有してたんだ。それを負荷もなく円滑にする機能を持ったのが、同調神器だ》
⋯⋯VTRの超進化版?っていうか、どんだけ引き篭もりなの、その神様!?
《そう。眷属との同調率がとても高くなるんだよ。どうだろう?私達の遊び場で、彼らの──他の者達のアイテムも回収しておかないか?私も、眷属達に遺した物を回収したいしね》
おおっ!大量の神アイテム、ゲットですか!?
《本当なら本人達の許可が欲しいけれど、隠密だし⋯⋯仕方ないから、彼らの神力印は、強制解除させて貰おう》
《ああ。ヴァチュは、そーいうの得意だもんな!》
なる程。ヴァチュラー神は、ハッキングが得意っと。頭脳派なんだな。
でも、ハッキングって、前世ではあんまりいいイメージじゃなかったよな〜。よーするに、合鍵作って留守宅に侵入し、そこの貴重品を奪う感じだから。
《借りるだけだ!後で返す!消耗品は⋯⋯どうしょうもねぇが》
あ。聴こえてたのね。
《大丈夫だよ。きっと皆忘れてるし、どれも私達にとって、それ程大切な物ではないしね》
⋯⋯何だろう⋯⋯フォローしているのか、悲しい現実(神々にとってはガラクタ同然)を突きつけられてんのか──なまじ穏やかな口調だから、こう⋯心にグサッと突き刺さるなぁ。
聖遺物を血な眼になって探してる冒険者には聞かせたくない、神のお言葉。
⋯⋯ま、それでもチートな薬だとか武器には違いない。単なる神との認識の差だ。きっと、これからも何かとお世話になるだろうし。
《ふむ。じゃあまたダンジョンに潜らなきゃならねーな。人間の言う、善は急げだ!》
《備えあれば憂いなしっていうしね》
《だが⋯⋯タロスは冒険者じゃねーから、ダンジョンには入りにくいな》
《⋯⋯?どうしてだい?》
《それがなんか、今の世の中面倒くさくてよ。自由にダンジョンを出入りできねーんだ》
《私達の神力なら簡単だろう?今の加護種は主との繋がりがとても薄い。自分の眷属で無くても命令できる》
《そう言えば⋯⋯そうだな。あれ?なんで俺、真っ当に入ろうと思ってたんだろう??》
《多分、その子の影響だよ。君たちは同調率がとても高い。だから無意識のうちにその子の常識が邪魔してたんだ》
じゃ、邪魔って!?オレっちは、許可が無いとダンジョンには入れないとフツーの事を言っただけで──あれ?それがダメだったの!?
《⋯⋯変に同調率が高いと、認識まで同調しちまう時があんのか》
《珍しいぐらいに凄いね、君たち。もしかして、性格とかも似てるの?》
《似てねーよ!俺は、こんなヘタレじゃねえ!》
「オレは、こんな俺様キャラじゃないです!!」
ハッ!?同時に言ってしまった!!これが同調!?
☆ 神と神の会話 ☆
《ねぇ、カガリン。どうしてあの子は、簡易空間からアイテムを出す時に、口を大きく開けるの?》
《あー⋯⋯ちょっとモメた時に腹が立ってな。アイツの頬袋と簡易空間を繋げたって嘘を吐いたんだ》
《訂正してあげないの?》
《⋯⋯タイミングがなぁ⋯⋯それに本人も使い慣れたようだし⋯⋯もう、いいだろ》
《相変わらずだね、君。そういう所は影響を受けないんだ。ところであの子──少し変わってるね》
《ここよりもっと下の界の前世持ちだからな。その割には落ち着きがねえし、弱いし、ヘタレだが》
《戦闘力はほぼ無いけれど、精神的な耐性と順応力が異常なほど高いね。こっちの子も精神的には強いけれど、私に対して畏敬の念が強すぎる。無意識のうちに私を拒絶してる部分があって、同調率を下げる原因になってるんだ》
《⋯⋯普通はそうだろ。神だぞ?敬ってはいるがビビってもいる──そういう意味では、いちいち意見を言ってくるタロスのヤツの方が異常なんだ》
《⋯⋯あの子⋯⋯もしかしたら⋯⋯》
《ん?なんだ?》
《いや、何でもない。とにかく早くダンジョンに入ろう》
《だな!》
ここにきて影の薄かったエイベルが復活。真のニコイチコンビ確定。
エイベル視点も、チョコチョコ入る予定です。




