第百三十七話 出直し
「⋯⋯古き⋯神々の一柱──!」
「そうだ。俺は、カガリス!カリスの神⋯と言えば、わかるか?」
カガリス様が、オレっちの姿から本来の姿へと変身する。背丈がグンと伸びて、目線が高くなった。こうして客観的に見ると、やっぱり神らしい神々しさがあるんだよな。
「──!!」
この花まみれの姿は、何よりの証拠となるだろう。なんせ、次から次へと咲いている花が変化するんだから。
実際、ダンガリオの茶金色の瞳が、限界まで大きくなってるもんね。
「獣人の──いえ、古き時代の神なのですね。その様な偉大な御方が、私のような何の加護も持たない者を助けて下さるとは──その慈悲に、深く感謝致します」
ダンガリオは、騎士が王に跪くような礼をし、深く頭を下げた。
「ふむ。まあ、成り行きだがな。だが、見返りは貰うぞ。俺の奴隷として、粉骨砕身で働けよ!」
いきなりそれかい!?しかも、本人の意思を確認せずに、すでに決定事項!!
『あの〜カガリス様!奴隷とかじゃなくてもイイのでは!?』
フツーに、『協力者』にしておこうよ〜!
《駄目だ!主従契約しねぇと信用できねぇからな!》
え~っ!?そもそも、ダンガリオはすでに犯罪奴隷で──あ。そうだ、奴隷印!!この人、犯罪奴隷用の懲罰魔法に縛られてるんだった!
「⋯⋯コイツの奴隷印の主は、そこのクズ野郎だったな」
カガリス様が、仰向けで転がってる闇組織のボス──えーと、ステータスにはエンゲスって名前が書いてあったな⋯⋯。
縁を切りたいゲス?(こじつけ)まさに、名前通りのクズの中のクズだが。
そのエンゲスを見て、カガリス様は金蜜色の瞳を細めた。
「コイツとの契約を解除して、俺との契約を新たに結ぶ。いいな?」
「⋯⋯竜人では無い今の私がどれだけお役に立てるかはわかりませんが、お望みならば、どうぞ好きになさって下さい」
真面目やね。何故だとか無理だとかとは、一言も言わないんだ。相手が神でも、オレっちならつい愚痴ってしまうところだが。
ガン!
カガリス様が、エンゲスに蹴りを入れた。気絶してるのに、さらに追い討ち?とか思ったら、カガリス様の足先が光ってる。
「コレで良し!解除したぞ」
「⋯⋯奴隷印が、消えた⋯⋯」
ダンガリオが、己の手の甲を見ながら呟いた。
「次は、新たな従属印だ。先に言っとくが、俺に逆らったり裏切ったりしたら、すぐに死ぬぞ」
「はい⋯⋯承知致しました」
アッサリ受諾するダンガリオさん。一切の迷いがないケド、ここまできたら、ほぼ捨て身なのかも。
「あの⋯⋯新たな印は、何処にあるのでしょうか?」
ダンガリオは、自分の手の甲や腕を見た後、カガリス様に問うた。
「印は、オメーの心臓に刻んでる」
し、心臓⋯!?ホントに、場合によっては殺す気なんだ⋯⋯
「そうでしたか。ところで、俺⋯私は、これから何をすれば宜しいのでしょうか?」
「まずは、コイツと闇組織の残党のネーヴァへの引き渡しだ。そして、助けたガキ共を小獣国へと送れ。⋯⋯って言っても、 オメーもその一員だったから信用が得られんだろう。面倒くせーが、俺も後始末をするか」
ですな。カガリス様なら暗示で辻褄を合わせられる。というか、無理やり合わせる。
「ところで⋯⋯この野郎は、オメーが殺ってもいいぞ?相当な恨みが有りそうだしな」
「⋯⋯確かに、姑息な手段で闇組織へと入れられ、常々、殺意は抱いていましたが⋯⋯こいつには、長期に渡る苦しみが必要だと思います。ネーヴァは、闇組織に厳しいと聞きますので、引き渡した方がより苦しむでしょう」
あー、そうだよね。ここでアッサリ殺すのは、コイツにとって楽過ぎる。今までやってきた悪行を、己の身で受けて苦しむのが妥当だよね。
「そうか。じゃあ、まずはゴミ掃除だ。行くぞ!」
◇◇◇◇◇
古き神は、偉大なり。第一世代も、またチートなり。
旧街道沿いの廃墟にいた闇組織の残党は、カガリス様が戦うまでもなく、ダンガリオが一人で叩きのめした。
強い、強い。武器無しの体術のみ。己の火炎系の魔法さえ、一切使わなかった。
ここまで力の差があると、妬む感情でさえ湧き起こらない。パチパチパチ!と、素直に心の中で拍手した。
そこからはカガリス様の記憶操作で、闇組織の連中の記憶でも、ダンガリオはかつての仲間ではなく、戦火を逃れたパールアリアの一市民ということになった。そして、たまたま子供たちを保護したという設定にされた。
進軍中のネーヴァとしても、逃走したパールアリアの闇組織から獣人の子供たちを保護したという事が、美談として国内外に利用できる事が嬉しかったのだろう。ダンガリオに、ネーヴァへの移住を勧めてきた。
それは、彼が第一世代だったからでもあるが。
もちろんダンガリオは承諾し、ネーヴァの市民権を得た。子供たちの記憶も、彼が闇組織の一員であったことは消されているし、実際、助けようとしてたしね。
事の顛末を見届けた後、オレっちはドッと疲れを感じた。別の意味で。
『何もかもが上手く行き過ぎて、逆に怖い⋯⋯』
《何を言う。ここまでは想定内だ。このまま、ネーヴァ国内で情報収集してもらう。印を通じて、こちらからも連絡できるし、コイツの目を通して見ることもできるしな。ただ、大統領とやらには近づけん。アイツの側近が俺の印に気づく可能性があるからな》
『ネーヴァの大統領のステータスは、諦めたと?』
《そもそも、俺はあの御方を捜したいのであって、アイツを刺激したいワケじゃねーんだ》
『アイツって?』
《⋯⋯仕方ねぇ。簡単に説明してやる。アイツは、俺が捜している御方と敵対しているんだ。だが、逆に言えば、アイツの動向をその御方も探っている筈なんだが──だからこそ余計に、警戒して姿を現さないのかもしれん⋯⋯》
でも、ネーヴァ国内にいる可能性は高いってことだよね。って事は、これからオレっちたちもネーヴァに滞在するってことで──
《いや、一旦、オメーの家に戻る。眼の方もアッチ側に移動させてるから、準備ができてるしな》
『えっ!もう、旅は終了ですか!?』
いくら何でも 早すぎる!旅立ちから二日目なんですケド!?
《仕方ねぇのさ。アイツが関わってると上に報告したところ、新たな人員を送って下さることになってな⋯⋯》
『それは⋯!別の神様のご降臨ですか!?』
《おう。そういうことだ。そして、ソイツと今から会うことになる》
なんと!新たなる神様とは!!⋯っていうか、最初からそうすればよかったのに。
《簡単に言うが──今のこの世界で憑依すんのも、結構、大変なんだからな!普通なら膨大な魔素と神力を消費して──って、それはもういいから、行くぞ!》
新たな古き神々の一柱か。興味津々だけど、その神様の性格によっては不安もある。なんせ、カガリス様がコレだからなぁ。ケンカばかりしなきゃいいが⋯⋯
◇◇◇◇◇
《まずは、タロス人形と入れ代わる。ほら、体を返すぞ!》
連れてこられた先は、アパートの自分の部屋だった。
グウキュルル⋯⋯
体を返してもらった途端、盛大に腹が鳴った。
さすがに、学校に行っているハズの時間帯に食道には行けないので、キッチンで食べ物を探す。
ご飯と⋯⋯朝の残りの味噌汁か。冷蔵魔導器には、明太子が残っていた。手を洗い、ついでにうがいもして、それらをガッつく。
少々物足りないが、段々と眠くなってきたので、歯磨きをして、オレっち人形が帰ってくるまで寝ることにした。
《あふ。俺も寝るか⋯⋯》
『ホントにドタバタと大変でしたからね〜⋯⋯』
そこから先は、夢も見ないほどに熟睡した。
「──起きろ、オレ!!」
「ん⋯?キュッ!?」
目を開けるなり、ビックリした。自分と同じ顔が覗き込んでいたからだ。
《よし、お前は戻れ!》
「ハイっ!」
オレっち人形は、スッと消えた。簡易空間内に収納されたのか⋯⋯
《この気配は──おい、助っ人が来るぞ!》
えっ?一体、どこのどなた様がいらっしゃるの!?