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第百三十五話 神よ──!!!

 こんな時になんだが、お腹が空いた。簡易空間に食べ物ってあるのかな?オレっち、カガリス様任せで、食べ物と飲み物は自分で用意してなかった。ちょっと試しに出してみるか。

 ダンガリオたちから離れて、さらに暗い奥の方へと移動し、準備する。


 ──お口をパカッとな!

 何でもいいから、食べ物出ろ!!


 ポンッ、ポムっと二つ出た。

 一つは、またも小瓶に入った青い液体。もう一つは、なんと皿に盛られた大量のクッキーだった。


 やった!ラッキー♪早速 、食〜べ──おっと、その前に──鑑定しないと。

 まずは、この小瓶から──鑑定!



 ★満腹持続超神水


 ネズエリン神本人の神キノコ粉末とカガリス神が生成した神水の合作聖遺物。

 この小瓶一つで、数万年は十分な栄養を得ることができる。つまり、一口飲めば一生食べずに生きていけるということである。

 デメリットとして、食を味わう喜びを失う。本当の意味で、味気ない人生。



 まさかの神様合作!!そして、人生最大の喜びの喪失!!

 アカン!飲めんわ!!戻しとこっ!


 さ、さて、もう一つのクッキーの方は──



 ★アリスのクッキー


 兄に続き、二番目のカリスとなったアリスが作った手作りクッキー。カガリス神への貢ぎ物として大量に作られた。しかし、カガリス神が簡易空間に入れたまま放置。今の今まで完全に忘れられていた。酷い神である。



 うん。まったくヒドイ神ですな。人の好意をなんだと思って⋯⋯って、二番目のカリス!?一番目はお兄さん!?じゃあもしかして、オレっちのご先祖様!?

 ホエエッ!一体、どっちの系譜なんだろ?いや、他の──三番目以降の人たちかもしれないけど!


 あ、それより、クッキー!コレって何万年前のクッキーなの!?見た目は、すご〜く美味しそう!


 クンクンと匂いを嗅いでみる。臭くはない。それどころか、とっても甘い、いい匂いがする。

 カガリス様の簡易空間は、時間停止機能付きなのかもしれないな。

 よし、試しに一枚──パクっとな!


 ──美味しい!!この甘みが⋯バターの味が──もう最高!!もう一枚──


 「⋯⋯なんだか、いい匂いがしないか?」

 「うん。お菓子の⋯⋯甘い匂い?」

 「ご飯、朝だけだったからお腹空いた⋯⋯」


 ハッ!!いかん!ここは、子供たちにお裾分けをせねば!


 オレっちはベストのポケットにクッキーを詰めるだけ詰め、残りは簡易空間へと戻した。


 「ア〜ッ!!ポケットにクッキーが!!いや〜、入れてたの、すっかり忘れてたなあ〜!さ、お食べ、お食べ!!」

 自分でも苦しい流れだとは思ったが、子供たちはともかく、ダンガリオに簡易空間のことは知られたくない。っていうか、すでに疑惑の眼差しを向けられてるケド。


 ワーッと両手を差し出す子供たちに、アリスさんのクッキーをあるだけ渡す。オレっちのは簡易空間内の残りがあるもんね。


 「え~と、おじ⋯お兄さんもどうぞ⋯⋯」

 誤魔化すワケではないけど、ダンガリオにも数枚差し出した。この巨体じゃ、全然足りんだろうが。


 「⋯⋯いや、俺はいい。それより君が──」

 グウウゥ⋯と低い音が鳴った。

 「⋯⋯」

 痩せ我慢はいけませんぜ、旦那!


 「食べないと動けませんよ。オレはまだ残りがありますから!」

 「⋯⋯すまん」






 ◇◇◇◇◇ 


 「もうすぐ日が暮れる。じきに出発前の食事が運ばれてくるハズだ。先ほども言ったが、俺が中に入ってきた奴らを倒す。そして、この近くに用意している筈の魔馬車を奪う」


 ダンガリオはオレっちたちに脱出の段取りを再確認させると、扉の近くで身構えた。彼の耳も外の足音を拾ったのだろう。

 オレっちの耳にも二人の──足音というより会話が聴こえてくる。なんか⋯⋯前より耳がよくなってるような気がするなぁ。


 『ガキ共にエサを食べさせたら、魔馬車に乗せるからな』

 『ああ。ところであの第一世代、本当に大丈夫なんだろうな?』

 『心配すんな。もう、死んでるさ。瀕死の状態で手当てもしてねぇんだぞ?』

 『それもそうだな。バカなヤツだよ。ボスに逆らうなんて』

 『まったくだ。おかげで半数以上のメンバーがダウンしちまって、出発が遅れちまったぜ!』


 ちんたらしゃべって、なかなか扉を開けようとしない。

 ハァ⋯⋯カガリス様は未だ戻らず。ダンガリオは逃げるチャンスはくれるものの、確実に魔馬車を奪えるかどうかもわからない。

 まさに、一か八かの賭けだ。でも、賭けるしかない。


 少し前、念の為に武器を簡易空間から出してみた。ドサッと大量に出てきたので焦ったが、直ぐ様戻して厳選することにした。

 そして、『オレっちでも使える武器よ、出てこい!』っと、念じたのだが⋯⋯

 一つも出てこなかった。そう。一つも。


 チクショウ〜!!アイテムにも格差があんのかい!?オレっちのような激弱には、神の武器は使いこなせないって判断ですか!?

 もう、エエわな!ドンチクボンボンのみで何とか──ならんな。

 前よりはネギ花部分が鋭くなって、当たればそれなりにダメージを負わせられるけど⋯⋯一人が限界だしな。トホホ。


 しばし落ち込んでいると、ガチャン、バンッと鉄の扉が開いた。


 「オラ、エサ──」

 ドカ!ドッ!

 ダンガリオがあっという間に、中へと入ってきた男二人を倒した。

 動作が速すぎて見えんかったわ。さすがは第一世代。チート体術でんな!


 「出るぞ!」

 ダンガリオが先頭を切って外へと出ると、オレっちも子供たちも彼の後に続いた。

 日が落ちて暗くなった辺りには人影がなかったが、少し先の照明魔導器に照らされた建物近くには、複数の人間の姿が見えた。


 できるだけ足音を立てずに、ソロリソロリと移動していく。

 ダンガリオを含めての8人での移動だから、慎重に慎重に⋯⋯

 アッ、魔馬車発見!!でも、その側に闇組織の連中が三人もいるんだけど!


 「三人だけなら何とかなるな⋯⋯」

 ⋯⋯何とかなるんだ。でも、声を上げられたら、増援が来ちゃうよ?

 と言う前に、ダンガリオが跳躍した。

 スゲー身体能力。魔力を封じられているのに、ビューンと跳んでますがな。忍者?


 「ヒッ!?」

 顔面殴りに回し蹴り、背面からの首締め──これまた、あっという間だった。

 こうして彼の体術チートを見ると、コレが第一世代と人間の差だということがよくわかる。ダンガリオの場合は、元神聖竜騎士団──軍人だったから、なおさら差が大きい。

 闇組織の人間は暴力的だが、所詮、腕と足をムダに振り回してるだけだもんな。


 「乗れッ!!」

 ダンガリオが、素早く御者台に座る。オレっちと子供たちは、元々オレっちたちが乗せられるために用意されていた踏み台を順番に上がって、馬車内へと入った。


 「全員、乗ったよ!!」

 「ヒヒーン!」「ブルル、ヒヒーン!」

 オレっちが言うと同時に、二頭の馬魔獣が嘶いた。


 「おい、魔馬車が!!」

 「まさか──アイツ、ダンガリオ!?」


 ワラワラと男たちが、廃墟のあちらこちらから飛び出してきた。

 しかし、その姿は段々と遠くなりつつあった。魔馬車だもん。






 ドドドドド!ドドドドド!


 ──もう三十分以上は経ったから、あの場所からはかなり離れたと思う。馬魔獣は魔獣だけあって夜目が利き、暗闇でもある程度整備された道(所々、石畳が残されてるだけだが)なら、そこから外れることはない。

 ダンガリオには方向がわかってるみたいだし、このまま進めば──と、思ったら魔馬車のスピードが落ち、やがてピタリと停まった。


 ダンガリオが御者台から降りて馬車内に入り、照明魔導器を点けた。

 明るい場所で見る彼の顔は、汗だくだった。


 「⋯⋯どうやら、ここまでが限界らしい。俺の奴隷印が限界まで黒くなっている⋯⋯」

 ダンガリオが、苦しげにそう言った。奴隷印とは、彼の左手の甲にある魔法陣のような模様だろう。


 奴隷印は基本、薄茶色をしている。逃げようとするとそれが黒く変色して、体を麻痺させるんだっけ。って、ヤバいじゃん!!


 「⋯⋯ここからは、君たちの誰かが馬魔獣を御すんだ。この旧街道の先は、ウルドラとの国境地帯へと続く新街道と合流している。⋯⋯上手く行けば、保護して⋯もらえる⋯⋯」

 「で、でも、お兄さんは!?」

 年長の熊獣人の子が、心配そうに訊ねる。


 「俺はもういい⋯⋯行けッ!」

 「でも⋯⋯」

 行けと言われても、踏ん切りがつかないのだろう。ここは、精神的に大人であるオレっちが動くべきだ。


 「──オレが御者をします!」

 バッと御者台に──あ。高すぎて乗れんわ!


 「俺が⋯乗せてやる⋯⋯」

 麻痺して思うように動かない体で、オレっちの体を持ち上げてくれた。⋯⋯オレっちは、貴方を見捨てようとしてるのに。


 幸い、この二頭の馬魔獣は誰でも御せる上級馬だったらしく、手綱をパンとしただけで走り出した。


 ⋯⋯。⋯⋯。

 考えるな!今は、逃げることだけに集中しろ!とにかく、闇組織以外の人間か、ウルドラ内の竜人に助けを求めるんだ!!


 そこからはほぼ無心で馬魔獣を制御し、ひたすら夜道を駆け抜けた。


 

 《おい、タロス。なんでオメー、魔馬車に乗ってるんだ?》

 神よ──!!!

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