表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/181

第百三十二話 旅立ちの時

 「じゃあ、頼んだぞ、オレ!!」

 「おう。行って来い!」


 パァン!


 朝ご飯後、コピー人形と互いの手を叩き合い、交代した。

 人形は獣学校へ。オレっちはカガリス様と共に、人間の国──ネーヴァを目指す。


 オレっちの姿は今、茶色の髪、榛色の目をした平凡な顔立ちの人間になっている。

 この姿に落ち着くまで、カガリス様とああでもないこうでもないと、姿見の鏡の前で変身しまくった。


 最初は、オレっちのそのまま人間バージョンだった。だが、白い髪に黒目の⋯(美)少女に見えなくもない姿は、髪色にしても顔立ちにしても目立つということで、少しづつ変えてみた。

 結果──ものスゴい地味顔になってしまった。ザ・モブ。


 『なんか⋯⋯オレじゃない感が強くて、しっくりこないんですケド⋯⋯』

 《あらゆる世界の、どこにでもいる平凡顔だからな。だが、これなら絶対に印象に残らねぇ》


 人間としての年齢設定は、20歳。身長も人間の男の平均的な177センチ。中肉中背。これで顔の地味さを併せると、恐ろしい程に空気。存在感薄っ!


 『一応、身分証明とかも必要ですかね?』

 《それは必要ない。いざとなったら、人間を操る。加護を持たない人間は、暗示にかけやすい》


 思いっきり力⋯神技でんな。

 カガリス様が魔力の少ない人間をナメきっているのが、よくわかる。


 《──よし、交代するぞ!タロス、意識を引っ込めろ!》

 『イエス!マイ・ゴッド!!』


 前後の席を入れ替えるような感覚で、奥に引っ込む。

 次の瞬間、マルガナの街を覆うウルドラシルを遥かに超えた高さにまで転移していた。


 高っけ〜!!


 今まで何度も空に浮かんだことはあったが、ここまでの高さって初めてかも。

 《まずは、ネーヴァの首都だ!人間の数が集中してるから、わかりやすい!》


 ネーヴァの首都──クロットカロットって『眼』で視える範囲内なんだ。狭い範囲って言ってたけど、そこまで視えるんだったら、十分じゃない!?






 ◇◇◇◇◇ 


 転移したクロットカロットは、新しい建物と古い建物が入り乱れる大きな街だった。古い建物の多くは、取り壊されている途中のものが多い。急ピッチで街の再開発が行われてるって感じ?


 カガリス様が転移した場所は、高い建物の屋根の上だったので、街全体が広く見渡せる。


 『人の密集度がスゴい⋯⋯』

 眼下の街のどこを見ても人が溢れかえり、朝から活気づいていた。

 《魔導器も多い。それに──アレは列車だな》


 前世でいう電車──魔素変換エネルギーで動く連結車が走行している姿が見える。

 噂では知っていたが、ホントにあったんだ。トロッコに毛が生えた程度の物だと思っていたけど、ほぼ前世の機関車に近い。色は黒じゃなくて、金属色そのものの灰銀色だけど。


 道での移動には、普通の魔牛車が使われていた。ただし、こちらは魔法具ではなく魔導器で動力補助する仕組みらしく、ビスケス・モビルケの乗り合い魔牛車の倍はある大きさだ。

 しかし、搭載している魔導器が大型のせいか、収まりきれなかった金属の管が剥き出しになっている。

 この辺は、デザイン的にあまり洗練されているとは言えないな。シューと音を立てて白い煙が出てるのは、何となくレトロな雰囲気でいいんだけど。

 え~と、こーいう感じはなんて言うんだっけ──あ、そう!スティームパンク!?


 街の造りはというと、ウルドラとよく似ていて、石造りの建物が多く緑が少ない。ただ、きちんと区画整理がされていた聖竜都とは違い、メイン通り以外は狭い道が多く、建物なども密集していた。


 前世の世界での都市に近いかも。ただし、先進国の方じゃなくて、発展途上国の方だけど。密集した建物のアチコチから、干されたたくさんの洗濯物が見えもん。


 『それにしても、まったく戦争の影響を受けてないとこを見ると、ホントに圧勝だったんですねー』

 《そうみてーだな。人間たちの表情も明るい。ドンパチやってる感が皆無だ》


 景気も良さそうだな。そういえば──今回の戦費ってどこから捻り出したんだろう?近年、魔導器の輸出が多かったから、貯め込んでたんだろうか?占領地からも略奪してないって話だったし。

 

 《それはともかく、ここの中心は──おっ、アレか!》

 カガリス様の見た方角には、この建物よりも遥かに大きな建物があった。

 その周囲に他の建物は一切なく、いかにも重厚感のあるその外観から国の中枢的な建物だと察せられた。


 『多分、あの建物が大統領府ですね。要塞みたいな造りだけど』


 そう、大統領府。ネーヴァは共和制で、五年に一度の選挙で指導者を選ぶ。

 とはいえ、この制度は近年のことで、パールアリアからの独立当初は、独立に貢献した者たち主導の共和制モドキだった。その当時の国の名は、ウルルド。


 やがて、このウルルドは、共和制とはほど遠い独裁政治へと変貌を遂げ、その血筋が何代か続いた後、一気に崩壊した。

 その後、独裁政治から解放されたはいいが、それは良い方向ではなく悪い方向へと進み、無政府状態となって暴力による支配が続き、多くの命が()()()()()()

 強い者が理不尽に命や財産を奪い、弱い者はさらに弱い者から搾取し、一番弱い者は生き残れなかったからだ。


 だが、今から約五十年ほど前、ある一人の若者が暴力による支配を終わらせた。そうしてようやく、今の共和制に落ち着いたらしい。


 ウルドラム大陸で、一番新しく一番国土が狭く、一番貧しい国だった故の混乱──初代大統領もまた、そうした貧しさや暴力の中から這い上がってきた人物だったそうだ。


 人間にしては魔力が高かった彼は、国名をネーヴァと改め、今日の共和制の基礎を築いたのだとか。だからこそ、その孫が現在の大統領に選ばれたのだろう。選挙のある共和制で世襲っていうのはどうかなとは思うケド。


 『キュ!?』


 リィーン、ゴーン、ゴーンと、どこかで鐘の音が鳴った。

 周囲の人々が、一斉に空を見上げる。カガリス様もつられるように、上を見た。


 立体映像だ。短い金髪の青年の姿が空に映る。軍服に近いデザインの紫紺の服を着崩すことなく、襟までキッチリと絞めていた。


 [親愛なるネーヴァの民よ!いよいよ、パールアリアを解放する時がきた!最後の北西地域への作戦を開始するにあたり、私も現地へと赴くことにした!!]

 青年は右手を上げながら、力強く宣言した。

 「「「オオーッ!!!」」」

 ドッと歓声が沸き起こる。


 《アホくさ》

 立体映像を見上げながら興奮する周囲とは違い、カガリス様は冷淡だった。


 《胡散臭えヤツだな。コイツが、この国のトップか?》

 『えー、いかにもいいトコの坊っちゃんって感じの人ですケド?そこそこ整った顔立ちの、上品そうな顔じゃないですか?』

 今回の戦争を起こした元凶だから厳つい軍人っぽい、又は狡猾な顔をした小悪人風を予想してたんだが──意外。


 《映像じゃステータスが解らねぇ。よし、潜入するぞ》

 『え゙!?』


 カガリス様は、先程の大きな建物──大統領府内に転移していた。警備の穴をついたような微妙な位置──高い壁の内側にある大木の枝の上に。どこの忍者ですか!?


 《内部の構造が解らねぇな。お、アイツがいいか!》 

 視線の先には、一人の警備兵がいた。仕事中だというのに庭先の階段に座りこんで、サボっている。朝から天気がいいからまったりしたい気持ちはわかるけど⋯⋯アカンやろ、オイ。


 《アイツの服をコピーして警備に成りすま⋯⋯いや、そんなことしなくても姿が見えなきゃいいのか》

 次の瞬間、カガリス様は下へと降り、堂々と中庭らしき場所を歩き始めた。


 『キュ!?か、カガリス様!?』

 《大丈夫だ。ダンジョンの遺物の中にあったアイテムを使ってるからな。視覚的に奴らの目には映らねえ》

 光学迷彩的な透明化でもしたんだろうか?


 サボリの警備兵を素通りし、建物内へと入る。内部は照明魔導器が数多く設置されており、日の光が入らない場所でも明るい。

 外観は要塞っぽくっても、内観は前世の有名ホテルのような豪華さで、通路の床には延々と深紅の絨毯が敷かれていた。内壁もクリーム色の塗料が塗られ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 それにしても──いくら魔力の少ない人間の警備兵とはいえ、中には雇われた大獣人や小獣人もいるハズだ。魔力を感知される心配は──あ。神力だから大丈夫か。


 《まぁな。それにしても──コッチの方向であってるのか?》

 『知りませんよ⋯⋯』

 オレっちに訊かれてもなぁ。というか、カガリス様、適当に歩いてたんだ⋯⋯。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ