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第百三十話 不安な笑い声

 「タロスの兄貴!ホントに衣装代だけでよかったチュか?」

 「ああ。アランの布代とエイベルたちへのお礼の品の分だけで十分だ。少しは、姪っ子たちに贅沢させてやれ!」

 「何から何までお世話になりっぱなしっチュ〜!」

 「申し訳ないっチュー!」

 「いや、オレもいい夢見させてもらったから、お互いさ──」 

 「タロス、アナタの第二教室への昇格が決まったワヨ!!」



 「え⋯レキュー先生!?」

 突然現れたレキュー先生が、第一教室でチュネミ三兄弟と話していたオレっちの肩に手を置きながら、驚くべきことを告げた。


 半年ぶりの再会──しかし、そのレキュー先生だが──なぜか冬場の真っ只中にサングラスをかけ、自前の銀色シャム猫毛の上にファーつきのヒョウ柄ベストを着ているという、おかしな格好をしていた。


 しかも、オレっちの肩に置かれた手の指には幾つもの指輪がはめられており、手首にはジャラジャラとしたブレスレットが──アメジオスでのレキュー先生の活躍はミンフェア先輩から聞いていたが、この半年の間に美的センスまでもが激変したとは聞いてない。


 確かにレキュー先生は光り物が好きだったケド、以前はそれなりにセンスが良かったのに。これじゃあ、ただの趣味の悪い成金だよ。


 「ついでにチュネミ三兄弟もヨ〜!ダンス大会での異例の三冠──よくやったワ!」

 「「「ヤッフーチュ!!!ところで」」」

 「レキュー先生は、なんでサングラスをしているのでチュ?」

 「服の模様が派手っチュね〜!」

 「指も手首もジャラジャラで、重そうだっチュー!」


 さすがはチュネミ三兄弟。オレっちが言い辛いことを、サラリと言った。


 「フフ。ワタシはネ──目覚めたのヨ!」

 そう言ってレキュー先生は、サングラスを外した。ブルーとグレーのオッドアイの瞳がキラリと光る。


 「確かに、素のままでもワタシの美しさに問題はナイわ。でもネ、より意識することによって輝きが増すこともあるノヨ!」

 レキュー先生は、長い尻尾をうねらせながら、力強く叫んだ。


 要するに、アメジオスでコーディネートされたんやね。

 意外だな。加護人ってセンス悪いんだ。モフは、自然体が一番なのに。


 「あの、ところで──ゴルーたちはわかりますケド、オレはどうして第二に!?」

 「帰国してから、ワタシの知り合いに今年のダンス大会の映像を観せてもらったけれド──あのダンス構成は、タロスでショ?奇抜で目新しい技ばかりだったものネ」


 「ハイでチュ!タロスの兄貴でチュ!」

 「僕たちじゃ、あんなの考えられないチュ〜!」

 「ブローたちは踊っただけっチュー!」

 「⋯⋯でしょうネ」

 三兄弟の言葉に、レキュー先生は頷いた。


 「アタシの渡した推薦状、上手く使ったじゃない。まあ、確かにタロス単独じゃ難しいだろうと思ってたケド」

 それって──初めからオレっちに期待してなかったという意味ですよね?


 「じゃあ、なんでオレに推薦状を渡したんですか⋯⋯?」

 「それがネ〜。今年の推薦枠、ワタシも貰えると思ってなかったノヨ〜。アメジオスに行く直前だったし、ムダにするのもなんだし⋯⋯だからキミに渡したんだケド──結果、オーライね!」

 「決勝戦までとかいう、あの条件は!?」

 「発破をかけたのヨ☆」


 はあ!?推薦状は捨てるよりはマシだと思って渡し、決勝云々は煽ったってか!?オレっちの苦悩は、一体!?


 《あ~⋯⋯そういやオメー、玉砕覚悟だったもんなぁ》

 ですよ!!オレっちはオレっちなりにレキュー先生の期待に応えようとしてたのに!まさかの投げ捨て!!キイィィイッ!!






 ◇◇◇◇◇ 


 数日後、オレっちは11歳になった。身長も、120センチに⋯まであと1センチだが。地味に成長している。


 《おい、タロス!とっとと第5とやらに上がれ!》

 『無理ですよ。第4になってからまだ一年と数ヶ月だし。それに、第5は13歳以上ぐらいが普通ですし』


 そもそもオレっち、他の子よりも上がるスピードが速いから、第3でも第4でも、クラスで最年少だもんね。少なくてもあと一年は、第4のままでいたい。


 《⋯⋯》

 カガリス様、去年の誕生日は祝ってくれたのに、今年はスルーするし、なんかイラついているっつーか、焦ってるっていうか──どうしたんだろ?


 《チクッとすんだよ。何かイヤな予感がするというか⋯⋯》

 『神様のイヤな予感って──確実になんか悪いことが起こる⋯いや、起こってるってことですか!?』


 パッと頭に浮かぶ悪いことと言えば、地震とか津波とか戦争とか──ん?戦争?⋯⋯もしかして、パールアリアとネーヴァの決着が着いたとか!?


 《人間同士の争いなんて、どーでもいい。う~ん⋯⋯でもなぁ。なんというか──》

 カガリス様の困惑した感情が伝わるだけに、オレっちまでもが不安な気持ちになる。そうするうちに、モブラン先生が教室へと入ってきた。




 「どうやら、ネーヴァがパールアリアに勝ったようだよ。今はまだ詳細はわからないが、パールアリアの首都が占領されたのは確かなようだね」

 一時間目の授業が始まる直前、モブラン先生が淡々と言った。

 クラスメートも一瞬ザワッとはなったが、それだけだった。皆、人間の国にはさほど興味がないらしい。


 「モブラン先生!パールアリアはどうして国力で劣るネーヴァに負けたんでしょうか!?」

 他のクラスメートとは違い、オレっちはものスゴ〜く気になる。


 「⋯⋯確定した情報じゃないけど、パールアリアは、元々、民の士気が低かったようなんだよね」

 キュ?国が攻められてるのに、士気が低い?


 「パールアリア内ではネーヴァとの開戦前から、とある噂があったらしいんだ。『ネーヴァには本当の自由と平等がある』って、噂がね。それに、開戦後の占領地では暴力も略奪もなく、それどころか破壊した街の復興作業も積極的だったそうなんだよ」


 自分たちが壊した街の復興って──いや、略奪も暴力も無いって──逆に変じゃない?

 どんなに上が厳しく言っても、戦時下じゃ下の連中は好き勝手やるもんだが⋯⋯


 《誓約魔法か罰を恐れているのか⋯⋯》

 『兵士全員は無理でしょう。処罰が怖いなら、極刑もありってことかな?いや、それでも無理?』


 範囲が狭く単純な奴隷用の契約魔法とは違い、誓約魔法は誓約の内容が複雑で、一人の術者では数人にしかかけられない。

 かと言って、魔導器を使用した大人数の誓約だと、例えば『一般市民に危害を加えてならない』と誓約させると、民間人のフリをした兵士に対処できなくなる。

 つまり、あんまり賢くないAIみたいな判別になってしまうのだ。どう考えても無理やね。

 

 そして、処罰をどんなに重くしても、人間はその場の感情で前後を忘れて暴走する生き物だ。極刑でも制御できるとは思えない。 


 ホントに、どーやって兵士たちを統率してるんだか。ナゾだ。

 ただ一つわかったのは、ネーヴァが開戦前から情報戦をしていたということ。

 人間の国はよく争っていたから、そうした戦術も発達していた?でも、それにしてはパールアリア側が無防備過ぎるしな⋯⋯もしかして、この世界では馴染みのない戦術だった⋯?

 

 《そうでもないぞ。俺たちの争いでも情報戦はあったからな。互いに偽情報を流しまくったから、余計に泥沼化したが》


 へー⋯⋯神様同士でもそんな小技を使ってたんだ。意外。


 《実際に戦っていたのは、眷属たちだけだったからな。俺たちは参戦を許されなかったんだ》


 ⋯⋯。⋯⋯つまり、代理戦争だったってこと?


 《仕方ねーだろ。俺たちがガチでやり合ったら、星が崩壊しちまうんだから⋯⋯魔素もアホほど消費するしな》

 『あ~⋯⋯なるほど』

 《何より、俺たちの神族関係がさらに悪化するのも嫌だったしな》


 だったら、ケンカなんかしなきゃよかったのに。神々も人間と変わらない愚かさを持ってるんだな。


 《バーカ。お遊び程度はした方がイイんだよ。オメーら下位世界は、上位世界の影響を受けて──おっと、ヤベェ!!》

 『え、今なんて──』

 《なんだったかな〜?っと、それより今年の夏休みとやらは、人間の国に行くぞ!!》

 『キュ!?人間の国!??』


 戦争が終わったとはいえ、戦後処理で混乱しているのでは!?

 《だからだよ。何、心配すんな。今回は、遊び場に隠してたアイテムがある。色々と便利な物がな⋯⋯ククク!》


 安心感のカケラも無い、嫌な笑い声──余計に、不安なんですが!?

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