第百二十九話 思ってもいない結末
ダンス大会の本戦まで、あと一ヶ月──この間に、お屋敷の冬パーティーと獣学校の年末イベントが続く。
お屋敷の冬パーティーは、夏と同じく映像魔導器によるお芝居──短編映画撮影となった。
夏の教訓を活かし、撮影は秋頃から少しづつ撮っていたのでドタバタすることもなく、映画は無事、完成した。
タイトルは──『ある半神姫の物語』
その昔、まだ数多くの半神血族がいた頃、ある半神の姫が単身で旅に出た。今では考えられないが、当時はそれほど珍しくなかったそうだ。
人数が多い分、いい意味でも悪い意味でも個性的な方々も多く、ウルドラム大陸を自由気ままに旅していたとか。
この物語の元ネタのお姫様もその一人で、旅の間にダンジョンに入り冒険者と恋をしたり、他の半神とケンカしたり、悪人どもを成敗したり──後世に物語として残されてるぐらいだから、当時でも有名だったのだろう。
ただ、彼女が古き神々の半神なのか、竜の神々の半神なのかはハッキリとしていない。
尤も『物語』なので、その辺はどーでもいいのかもしれないが。
オレっちの役は、村人A。村人Bのエイベル、村人Cのクルルスと共に、ならず者たちに村を襲われ、偶然、通りかかった姫に命を救われる役だった。
セリフは『なんてお強い方なのだろう!貴女はもしかして──』⋯だけである。超脇役。
ただ、編集された映像をパーティ会場で観た時、なぜかオレっちだけズームインされていてビックリした。
白い毛を煤で汚したオレっちの涙顔が、どアップ!マホロン、オレっちになんか恨みでもあんの⋯⋯?
多少の疑念を抱きながらも、冬パーティーは何事もなく終了した。
それからしばらくして始まった、獣学校の年末イベント。
去年までとは違い、レキュー先生の推薦が無かったのでダンス学科の公演には出演できなかったが、その分、チュネミ三兄弟たちとダンス大会本戦に向けての特訓ができたので、結果的には助かった。
そして、恒例となった服飾学科と農業学科の売り子。今年は、リリアンから日給一万一千ベルビー(最初から残業代込み)で雇われ、ついでにチュネミ三兄弟の中で一番器用なブローを、同じ条件で雇ってもらった。
オレっちは売り子、ブローは裁断作業。適材適所で、去年のようなトラブルを回避できた。
農業学科では、商品の袋詰めをゴルー、売り子をシルーが担当し、報酬として高級卵と米と小麦粉を渡すことにした。
セーラもメビー先輩も三兄弟の経済的な事情に同情したのだろう。農業学科専用の魔法鞄を貸し出し、かなりの量を詰め込んでいた。これで、少しは食費が浮くといいのだが。
◇◇◇◇◇
年が明け、いよいよダンス大会本戦の時がきた。決戦の場所は、マルガナ中央公園の大ホール。予選の小ホールの三倍はある広さなので、余計に緊張する。
予選でも観客はいたけど、疎らだったし、ほとんどが出場チームの関係者だったから、一般の観客とは違ってたもんね。
「よし、衣装も完璧だな!行くぞ、お前たち!」
「「「イエっチュー!!!」」」
エイベルとアレイムに頼んでおいた本戦用の衣装を身に着けたチュネミ三兄弟たちが、元気よく返事をする。
今回の衣装は、アランから一年の分割払いで買った魔素鉱石素材のグリッター布を使ったベストだ。光魔法とはまた違った輝きを放つから目新しいハズ。色もスカイブルーからミントグリーンへと変更した。
構成も少しばかり変えた。ジョ◯ョ立ちではなく、霧の中からの阿修羅ポーズで始めることにしたのだ。
三面六臂のゴルー、シルー、ブローが、ドライアイスならぬ霧の中から登場するというインパクトのある演出。
前世の昭和時代の演出っぽいが、意外とこの世界ではそうした発想がなかったらしく、試しに見せたところ、エイベルもメロスも、ライブルのアニキも驚いていた。
ちなみに、この霧──オレっちの複合魔法なの。
水と風がいつの間にか同レベルの3になってて、嬉しくて氷を作ろうと思ったら、なぜか薄っすい霧吹きのような霧ができて──って、なんでやねん!?氷をイメージして霧が出るって──おかしいやろ!?
⋯⋯どうやらオレっちは、どこまでもチートから遠ざかる運命にあるらしい。
《いいじゃねぇか。レベルが上がれば、逃走用に役立つ濃い霧も作れるだろうしな》
煙幕ならぬ、霧幕──泣くわ!
どっちにしても今のレベルじゃ役たたずなので、本番ではカガリス様と入れ代わり、濃い霧で舞台を覆ってもらった。
《オメー、俺が神だってこと忘れてねぇか?こんなチンケなことに神力を使わせやがって!》
『申し訳ありません!でも、ここは体の使用料ということで精算して下せぇ!!』
困った時の神頼み──オレっちとしても安易には使いたくはないが、この大会、なんとしても結果を残してやりたい!!
頑張れ、ゴルー、シルー、ブロー!!
ワーッ!ワァァアー!!パチパチパチ、パチパチパチ!
それまでの出場チームよりも多くの声援と拍手をもらった。
これ、いけるんじゃない?いや、でも、他のチームもスゴいし⋯⋯まだ8組もチームが残ってるし──
手応えを感じながらも結果が出るまで不安だった。ゴルーたちは、『やるだけやったチュから、結果はもういいチュ!』⋯と、言っていたが⋯⋯でも、でも、どんな賞でもいいから入賞したい!神よ!!
《いや、さすがの俺でも、こーいうのは──》
『カガリス様とは違う神様に祈ってるので、お気になさらず!!』
《違う神って⋯⋯オメー⋯⋯》
全てのダンスチームが演技を終え、審査も終了した。そして、幾つかの部門の勝者チームの名が、呼ばれる。
本戦へと出たチームは、計26組──その半数は、前回、前々回からの常連チームだ。
もはや優勝はあり得ないだろうとはわかっている。ダンスパフォーマンスがレベル違いのチームが何組かいたからだ。
それでも、一つだけ、一つだけでもいいから──!
「新人賞──チュネミーズ!!」
え。エエエエエッ!?初っ端から──入賞!?
口を大きく開けて驚愕する。
そりゃあ、少しは期待してたけど──まさか、最初に呼ばれるとは!!
「タロスの兄貴!俺たち⋯⋯」
「う、嬉しいっチュ~!」
「賞なんて⋯⋯生まれて初めてチュー!」
「──よくやったな、お前ら!これで優勝できなくても──」
「一般観客賞──チュネミーズ!!」
ん?ンンンンン!?
「ダンス構成賞──チュネミーズ!!」
⋯⋯。⋯⋯。
確かに優勝はできなかった。しかし、六部門のうちの三部門でトップだったため、賞金額は総額で150万ベルビーとなった。(50万ベルビー✕3)
え~と⋯⋯これは⋯夢かな??
チュネミ三兄弟たちが壇上に上がり、ゴルーが代表として、賞状と賞金入りの封筒を受け取る。
夢うつつのまま、その姿を観客席からボ〜っと観ているオレっち。
《これまた──意外な結果だな。俺も驚いたぜ》
カガリス様が何かした訳ではなかったらしい。というか、そうでもしないとこの結果はあり得ないと思っていたが⋯⋯
「やっぱり、タロスの兄貴はスゴいっチュ!」
「斬新な演出の連続で、印象が強かったっチュ~!」
「審査員も『大胆な発想、目新しさの連発!』って、褒めてたっチュー!」
「ああ、うん。でも、一番は、お前たちのダンスだから⋯⋯」
帰り際、大ホール前で、チュネミ三兄弟がオレっちを称賛してくれる。なんだかこそばくて、嬉しいような恥ずかしいような──
「ボフフ。キミたちスゴいね⋯⋯三部門のトップなんて、初めての快挙だったらしいじゃないか」
んっ!?この声、どこかで聞いた覚えが──
「キュ!?お、お前は──!」
後ろを振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
カピバラ似のボサッとした前毛──この声。間違いない!あの時の睡眠魔法薬入りの飴のヤロウだ!てめぇ、よくもノコノコと姿を現しやがったな!!
「やはりキミたちは只者ではなかったようだね⋯⋯この前もアレを見破り、食べなかったようだし」
「お前、よくもそのツラ出せたな!許せん!!」
「おっと。ボフフ。暴力はいけないよ──それに、キミたち食べてなかったし、証拠だって残って──」
ドゴッ!
オレっちは最後まで言わせず、ヤツの腹に蹴りを入れた。
「ゴルー、シルー、ブロー!こいつ、獣警団につき出すぞ!」
「「「イエっチュー!!!」」」
四人でボコボコにした。
「またお前か!これで何度目だ!?」
「スミマセン⋯⋯どーしてもヤメられなくて⋯⋯」
獣警団の団員がヤツを怒鳴りつけ、首根っこを押さえた。
オレっちはコイツのステータスを視て、ボコった上で獣警団の出張所に突き出した。
コイツの名はズニー。ステータス画面には、何度も度が過ぎたイタズラをして逮捕されてる常習犯だと書かれていた。
オレっちたちがコイツに飴をもらった日、他のチームにも同じことをして、結果、彼らは眠ってしまい予選には出られなかったのだ。当然、獣警団に被害届が出されていた。
このズニー、住所不定の流れ者なので、獣警団も捜すのに手間取っていたらしい。オレっちたちは、大いに感謝された。
そうして一定の時間が過ぎると、先程までの現実とは思えない出来事が、本当に現実だったんだと思えてきた。
嬉しい。本当に嬉しい──!
前世のダンスをパクったとはいえ、部分部分だったから、一本に繋ぐのが大変だった。何度も何度も考え直して──
今回、オレっちは裏方で主役じゃなかったケド、物凄く満足してる。
根本的な救いにはならなくても、チュネミ三兄弟も自信を持ったハズだ。オレっちもまた、努力したことが報われて、今なら何でもできそうな気がする。そう。チートじゃなくったって、イイのだ!
《脳内錯覚ってヤツだな。チートありの方がいいに決まってんじゃねーか》
⋯⋯錯覚したままにしといて欲しかった。意気消沈。
☆ 補足 ☆
実はズニーは、第12レベルクラスを卒業したエリートです。
しかも、レアスキルである光スキル──ただの雑草を薬草に変えてしまう『特定物変換』の能力持ちたったのです。しかし、彼は最初の就職先だった国営企業で人間関係に疲れ、辞めた後は自由に生きるようと決意しました。
特定の職には就かず、手持ちのベルビーが尽きると働くスタイルです。
よって、ストレス解消のためにイタズラしている訳ではなく、娯楽として迷惑行為をしているおバカさんなのです。
これまでは示談で済ましてきましたが、余りにも回数が多いため、とうとう国の監視下に置かれることになってしまいました。強制的な就職先は、国営の製薬企業です。(出戻り)
めでたし、めでたし☆




