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第百二十八話 反転する認識

 「ボロ屋だけど、庭だけは広いんでチュ!」

 ゴルーが、庭に面した部屋へと案内してくれる。そう言われると、家自体も広いような気がするな。老朽化が激しくて、床もギシギシいってるケド。


 その部屋の縁側に出ると、確かに広い庭が見えた。でも、庭というよりは畑にしか見えない。

 ポピーに似た青い花が咲いている。しかし、庭の隅に追いやられている感がなんとも物悲しい。

 代わりにドーンとメインに置かれているのは、野菜畑だ。エンドウ豆にカボチャ、トウモロコシ、白菜──様々な野菜が、()()を問わず実っている。


 「こ、これって、もしかして、スキルか!?」

 「ハイっチュ〜!うちのかーちゃんは、豊穣スキル持ちなんでチュ〜!」


 シルーの言葉に驚く。

 豊穣スキルは、農業系の最上スキルだ。種植えの季節を選ばず、その上、必ず豊作となる。何が一番スゴいのかというと、天候に左右されないということだ。

 よくある干害や冷害、そして嵐──それらはスキルの効果で無効化され、まったく被害を受けないのだそうだ。


 《それはそうだろう。育つ次元が違うんだから。簡易空間栽培──オメーらにその認識はねぇだろうが、これも立派な空間スキルだぞ》


 ビックリの新事実。そうか。考えてみれば、スキルもまた、神々の能力のコピー(劣化版)なんだっけ。

 それはともかく、このスキル、セーラが羨ましがるだろうなぁ。

 それはそうだろう。農業に従事している者なら、誰もが欲しがるスキルなんだから。


 「お母さん、パートに出てるらしいけど、やっぱ、このスキル関係?」

 「違うっチュー。近くのパン工場っチュー!美味しいチーズパンー!」

 ブローが、嬉しそうに答える。美味しいチーズパンって⋯⋯


 「従業員は、パンを安く買えるんだっチュ。ブローは、チーズパンが大好きなんだっチュ!俺は、ジャムパンが一番好きなんだっチュけど!」

 ゴルーのいらん補足情報はスルーして、今度は、わかりやすく直球で訊いてみるか。


 「お母さんの豊穣スキルって、レアスキルだろ?農業関係の方がお金にならないか?」

 「かーちゃんのスキルは、範囲が狭いっチュ〜。この庭程度ぐらいの面積しか維持できないのチュ〜」

 シルーの返答に、オレっちは納得した。

 そうか⋯⋯範囲が狭すぎて、広い農場では使えないのか。残念。


 「あ~!!お前たチュ、タロスの兄貴のクッキーを食ったチュね!!」

 庭から居間へと戻ると、テーブルの上にあった手作りクッキーは、一つ残らず無くなっていた。


 「だって」「お腹が」「空いてたもん!」

 三人のポメっ娘たちは、叱られながら、それでもクッキーをかじっていた。


 「いいよ、いいよ。お腹が空いてたんだろ?」

 「兄貴は甘いっチュ」

 「コイツらは昨日もそう言って、庭のダイコンをかじってたっチュ〜」

 「毎日、間食してるチュー!ブローたちより、食い意地が張ってるチュー!」


 このチュネミ三兄弟より食い意地が張ってるって⋯⋯これは、食費がかなりかかるとみた。お姉さんも三人の子連れではどうにもならず、仕方なく実家に戻ったのだろう。


 「ところで、お姉さんは仕事?」

 「ねーちゃんは奥の部屋で寝てるっチュ!」

 「夜のお仕事だから、昼夜逆転なんでチュー!」

 「帰ってきたの、朝だっチュ〜!」


 え。夜のお仕事って、まさかの──


 「ねーちゃんも食品工場に勤めてるでチュー!」

 「オニギリ作ってるチュ!」

 「明太子オニギリ〜、美味しいっチュ〜!」


 なんだ⋯⋯食品工場の深夜勤務か。日勤より時給高いし、お母さんと交代で働いてるんだろうな。お父さんも冒険者だし、これで子供が一人、二人なら余裕だったのになぁ。六人はキツいわ。





 ◇◇◇◇◇ 


 「コイツらが自分たち以外の話をするのは珍しくてねぇ⋯⋯ダンス学科でも浮いてるんじゃねぇかと心配してたんだ」

 「でも、最近はタロスさんの話ばかりで⋯⋯やっと他人に興味を持ってくれて、安心したんです」


 父母というよりは祖父母的な年齢だから、余計に心配していたのだろう。チュネミ三兄弟たちの父親と母親は、ともに少し潤んだ瞳でオレっちを見つめた。


 「いえ。チュネミ⋯ゴルー、シルー、ブローにはダンスの才能があるので、ダンス学科でも評判はイイんですよ!」

 実際、レキュー先生だけじゃなくて他の教師からもアレコレ教わっている。とにかく、ダンスのセンスがバツグンなのだ。いつも動くだけで精一杯のオレっちとは大違い。


 「そこは安心したよ。コイツらには、冒険者にしか向いてなかった俺のような人生は歩ませたくなかったからな」

 「冒険者に向いてるって、羨ましいですけど?」

 「やめときな。若い時はいいかもしれんが、歳をとると体がキツいだけじゃなく、精神的にも辛い。特に馴染みのパーティーメンバーが解散しちまうと、次のパーティーには入れてもらえねぇんだ」


 やっぱ、暗黙の年齢制限みたいなのがあるんだ。じゃあ今、お父さんはソロなのか。この歳で一人で魔物と戦うのは、確かにキツいよな。


 「それでも長年の経験とカンがあるから、まだ十年はやれる」

 十年。長い!でもそれって、ゴルーたちを休学させたくないんだろうな。切ない親心。


 はぁ。なんとかしてあげたいけど、ライブルのアニキのようなお店持ちじゃないし、宝箱フォローもできないしなぁ。


 《何でだ?》

 『そもそも、オレは冒険者登録してないし、一度お試ししちゃったから、ダンジョンに入れないんですよ』


 次にダンジョンに入る時は、正式な冒険者登録をしなくてはならない。でもそうすると、実績を積まなければならないワケで──要するに、休学する必要があるのだ。


 《めんどくせーな》

 まったくで。






 ◇◇◇◇◇ 


 「タロスの兄貴!本戦もよろしくお願いしますっチュ!」

 帰り際、家の前でゴルーたちが頭を下げてきた。


 「なんでも踊りますっチュ〜!」

 「ドンとこいっチュー!」

 「そうだな。でも、基本構成は変えないから、心配しなくてもいいぞ」

 ただ、ラスト前に派手な新技は入れたいが──

 「とにかく!ここまできたら、優勝あるのみだ!」

 「「「⋯⋯」」」

 アレレ?ここは『オー!!!』だろ!?


 「タロスの兄貴──俺たち賞金目当てでここまできたけど」

 「ホントは、もし優勝できたとしても一時凌ぎなのは解ってるっチュ〜」

 「だから、ブローたち──来年」


 「「「神殿の保護施設に入るっチュ!!!」」」


 キュッ!?保護施設ですと!?い、いや、確かに経済的な問題で預けられる子はいるけど──


 「もう覚悟はできてるチュ!とーちゃんは冒険者としては限界だし、かーちゃんもねーちゃんも仕事だけじゃなくて、育児にも疲れてるチュ!」

 「ねーちゃんは、姪っ子たちを預けるつもりみたいでチュけど──」

 「姪っ子たちは、まだ幼いっチュー!だから、ブローたちが施設に行くのでチュー!」

 「ちょ⋯待て、待て!!なにも全員で入る必要はないだろ!!」


 「「「大丈夫だチュ!!!」」」

 「ん?」

 何が大丈夫なの!?


 「三人で施設に入っても、半分は家に帰るのチュ!」

 「はあ!?」

 「保護施設は、一時的な避難場所なんだっチュ〜!」

 「ちょこっとだけ世話になるっチュー!」


 「なんの話だ!?」

 前置きがないから、さっぱりわからん!


 ゴルーたちの断片的な話を聞くと、どうやら神殿は、親を亡くしたり劣悪な環境の子だと無条件で保護するようだが、まっとうな親がいて経済的な問題だけの保護は、週に1日から最大4日までの一時的な預かりになるらしい。

 ただ、8歳以上だと保護施設内の清掃やそれより年少の子供たちの世話をしなければならないらしいが。


 「俺たち、第4レベルクラスで休学して、お金を稼ぐつもりだっチュ!」

 「お金が貯まったら、学校に戻るっチュ〜!」

 「しばらくは、毎日、家族全員では暮らせないっチュけど、我慢するっチュー!!」

 

 三兄弟の覚悟は、ドーンとオレっちの胸に響いた。

 空気が読めない図々しい奴らだと思ってたけど、つき合ってみれば、努力家だし家族想いだし──オレっちよりも我慢強く、キチンと将来を見据えてる。


 やっぱり、最初の印象(第四十四話参照)だけじゃ人の本質なんてわからないものなんだな。オレっちがイラついていた図太い無邪気さも、家庭内を明るくするための後天的な性格だったのかもしれない。


 《それは無い。アレは、生まれ持った気質だ!》

 ⋯⋯。ですよね⋯⋯。

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