第百二十六話 ドギュ〜ン!なポーズ
「ダンス大会予選用のプログラム──最初と最後に、とあるポーズを入れる!予選の持ち時間は、三分!あまりにも短い!だから、このポーズで強い印象を残すことにした!!」
基礎学科のテストが終わり、ダンス学科の第一教室へと入ったオレっちは、すぐさま駆け寄ってきたチュネミ三兄弟に向かって宣言した。
「「「イエッチュー!!!」」」
三人揃っての張りのある返事に満足する。よしよし、三人ともやる気満々だな!
オレっちは、少し落ち込んでるケド。
今回のテスト──勉強に集中できなかったせいか、暗記系の問題に苦戦してしまった。そして、ウンウンと記憶を引っ張り出そうとしていたところ──
《馬鹿め。ここの文章の空白は『南西のボッタクリナ市』だ。次は『北東のオレオレサギ市』、最後は──》
カンニングならぬ、カガリス様からのダイレクト解答。
どうしよう!?誰にも知られないとはいえ、明らかに不正なんですケド!?
一瞬、躊躇したオレっちだが、すでに聞いてしまった答えを無視することもできず──結局、解答欄に書いてしまった。
しかし、本音で言えば助かった。今回だけ──そう、今回だけだっ!!
さて、気を取り直して──
「まずは──ゴルーはこう!シルーはこう!ブローはこうだっ!!」
オレっちは、まず見本を見せた。前世でも写真や動画なんかで何回かやってみたことがあるから、完璧にコピーできるのだっ!⋯⋯難易度にもよるが。
ドドドド!ドギュ〜ン!!バアァァン!!!
「⋯⋯た、タロスさん⋯⋯コレ、体が辛いんでチュけど⋯!?」
「脚が⋯吊るっチュ〜!」
「首と腰の角度が──ヤバいチュー!!」
⋯⋯だろうな。このポーズ、意味不明な見栄えはするが、人体の構造的に無理な体勢が多いから。獣人だから少しは負担が少ないと思ったが⋯⋯やっぱ、キツいか。ジョ◯ョ立ち。
さほど難しくないポーズもあるが、インパクトも小になるので、ここはインパクト大の難易度高めで頑張ってもらおう。
なぜなら、予選の審査員たちは、応募者の数の多さに辟易して、流れ作業的に観ることが予想されるからだ。
なんと奇妙なダンスなんだ!?⋯と、困惑されてもいい。とにかく、この三兄弟たちのダンスをしっかり観てさえいてくれば⋯!
「最後と最後だけの決めポーズだから、我慢しろ!次は──」
オレっちが考えたダンスは、前世の古今東西の有名なダンス技を取り入れたものだ。オリジナルと言えるのは、チュネミ三兄弟の跳躍を活かした獣人ジャンプだけ。
実際やってみると、三分は長かった。一技一技が、一瞬で終わるからだ。ちなみに魔楽音は、小獣戦隊シリーズの有名な主題歌でやってみた。コレは単にノリがよかったからだが──
ダダダ〜ダダダーン♪ダンダダン♫タッタ〜♪ドドドドドドン♬チャラチャラ〜ン♫
「シルー!回転が遅い!ブローは脚が上がってないぞ!」
「「イエッチュ〜!!」」
練習初日だから当たり前だけど、ズレが多い。ゴルーは──ちゃんと音楽に合わせてるな。ダンスのセンスは、ゴルーが一番か?
「シルー、ブロー!ゴルーに動きを合わせろ!!」
「「イエッチュー!!」」
やっぱ、長男中心の兄弟なんだよなぁ。精神的な要、とも言えるだろう。
◇◇◇◇◇
年末イベントに向けて小獣学校全体が慌ただしくなり始めた頃──ついに、ダンス大会の予選日が来た。
獣人感覚的に、少し肌寒いかな?⋯という朝の空気を感じながら、チュネミ三兄弟たちと共に、マルガナ中央公園へと向かう。
予選はビスケス・モビルケ内のアチコチで行われているが、首都であるこのマルガナでの予選が一番出場者が多く、予選会場も複数に分けられていた。
「距離的には近場の中央公園での予選だが──一番の激戦地に当たってしまったな⋯⋯」
周囲のもふダンサーたちの数の多さよ。会場前では、体をほぐすためか、すでに踊っている者たちもいた。土曜日の早朝なので一般の人々は少ないが、その数少ない人たちから拍手をもらっている者たちもいる。
⋯⋯やはりな。5人から8人のチームが多いか。
この大会は、チーム部門しか無い。しかし、1人からでもチームとして参加できる。何故かというと、魔法やスキルで分身できたりするからだ。
まあ、実際に単独出場する者は、ほぼいないが。それを考えると、なんでレキュー先生がオレっちに推薦枠をくれたのか⋯⋯謎だ。まあ、それはまた今度訊くことにして、チームの人数のことだが──
三人だけのチームだと、どうしてもボリューム不足にはなってしまう。そういった意味では不利なのだが──コイツらには、なんというか⋯⋯天性の悪目立ち⋯ではなく、妙な存在感がある。それに、まったく緊張してないしな。
「チュっとばかし、地味だチュ!」
「シンプル過ぎるっチュ〜!」
「もっとキラキラした方がよかったチュー!!」
「仕方ないだろ!時間も金も無かったんだから!大丈夫だ!その空色の服は、お前たちの金、銀、銅の体毛に映えるから似合ってる!それより、少しは緊張感を持て!」
舞台に立たない裏方のオレっちの方が、ヤキモキしてるとは。
「緊張はしないっチュけど、やる気はあるっチュよ!」
「目指せ、500万ベルビー!チュ〜!」
「絶対、頂くっチュー!!」
そうか。緊張より金なのか。それより──周囲の目が気になるんだが。
これって、敵意だよな。どっかのマンガみたいに、『ダンスが好きだから!!』⋯なんて純粋な動機持ちの少ないことよ──オレっちたちも含めて。
「⋯⋯キミたち、随分と元気だね。そんな大声で叫ぶなんて」
突然、カピバラ似の小獣人から話しかけられた。前髪──というか、額の体毛が異様に長い、ボサッと垢抜けない風貌の青年だ。
「ボフフ。キミたち初参加かい?⋯⋯気をつけた方がいいよ。ここのみんなは、大半が常連だからね。中にはタチの悪い奴らもいてね。妨害工作をしてくるんだ」
「そ、そうなんですね⋯⋯それは、どうも⋯⋯」
「ボフフ。そうだ⋯⋯飴をあげるよ。これから体力を使うからね。糖分は取っておいた方がいい」
そう言って、オレっちに数個の飴を握らせる。
「じゃあね⋯⋯次は、予選会場で会おう。ボフフ」
「はあ⋯⋯ありがとうございます⋯⋯?」
何だろう?常連のダンサーさんにしては、雰囲気が暗いんだけど⋯⋯
「アメ?」
「飴?」
「アメー!」
意地汚く手を差し出す三兄弟に、オレっちはもらった飴を手渡そうとした。
《やめとけ。それは魔法薬入りの飴だ。食ったら夜まで寝ちまうぞ》
な、なんですと──!!?
「どうしたチュ、タロスさん?」
「⋯⋯アイツの言った通りだ。ここにいる奴らは全てライバル!⋯⋯この飴には、なんかヤバイもんが入っている可能性がある!!」
かなり無理のあるセリフだが、睡眠薬入りの飴なんぞ食べさせるわけにはいかない!
「そ、そうなんでチュか!?」
「あ、危なかったチュ〜!」
「見抜くなんてスゴいでチュねー、タロスさん!」
スゴいのは、オレっちの中の人⋯ならぬ、神だが。
《ついでに言うとな。さっきのアイツ、出場者じゃねーぞ。単に面白がってやってるだけだ》
はあ⋯!?オイ、こちとら真剣にダンスやっとるんだぞ!?それをイタズラで台無しにする気だったのか!?
《タロス、オメーも少しは考えろ。何のためのステータス画面だ?無防備すぎるぞ》
「⋯⋯」
カガリス様の言う通りだ。アイツの怪しげな雰囲気からして、警戒すべきだった。クソッ!今度見かけたら、ステータス画面の端から端まで読んで弱みを握ってやるっ!
だが今、集中すべきは予選だ!
「よし、会場内に入るぞ!ゴルー、シルー、ブロー!!」




