第百二十五話 己を捨てて
「この小獣〜ダンス・ダンスの⋯⋯決勝戦?」
無理でしょ。レキュー先生、オレっちを第二教室に行かせる気、まったく無いでしょ!?
だって、去年の応募人数が、三万人って書いてあるんだもん。
さすがにプロは除外されてるけど、参加年齢の制限が無いから、当然、年季の入ったアマチュアの方々もいるワケで⋯⋯まあ、大半は書類選考で落とされるんだろうケド。どっちにしても、予選から激戦じゃん。
「500万ベルビー⋯⋯」
ゴルーが、オレっち以上に紙をガン見していた。
「⋯⋯ゴルー、お前の考えてることもわかるけど、さすがにコレは⋯⋯」
「タロスさんは参加しないっチュ?」
「オレは、レキュー先生の出した課題だから出るケド」
玉砕覚悟で。
「だったら、俺たちと組まないでチュか!?」
「え⋯?」
「前のダンスでも、タロスさんはザンシンなダンスを踊ってたっチュ。今回も、アレと似たようなダンスにしてみたらいいっチュ!」
前のダンスというと、ブレイキン?⋯⋯そうか。前世のダンスなら腐るほどあるな。
しかもチュネミ三兄弟には、ダンスの才能がある。この際、それを利用してオレっちのバックダンサーとして使うのもアリか。
オレっちは、第二教室への推薦のために。チュネミたちは賞金のために。
「⋯⋯とりあえず、組んでみるか⋯⋯?」
◇◇◇◇◇
《それで⋯⋯どうするんだ?勝算はあるのか?》
『前世のダンスをパクリまくります!チュネミたちだったら、すぐに踊れますしね。ただ問題は──』
オレっちがメインとなるため、構成がひじょ〜に難しいということだ。
存在感のある動きをしなけば、バックダンサーであるチュネミ三兄弟に喰われてしまう。
それにしても、なんというタイミングの悪さ。
基礎学科テストと並行してダンスの構想を練るという、脳内が大変忙しい状況になってしまった。
ダンス大会本戦は年明けだが、地区予選は1ヶ月後だったから、焦る。とにかく、早くダンスプログラムを完成させて、練習しないと⋯⋯
「タロス〜、ますます〜痩せたんじゃない〜?」
「あ~、ちょっと、考えることが多過ぎて⋯⋯」
恒例となったエイベルやアニキたちとの、放課後勉強会──余裕だった今までとは違い、勉強に集中できない。それより、ダンスのことで頭がいっぱいなんよ。
いかに目立って他との差をつけるのか──考え過ぎてストレスになり、毛並みまでもが荒れ始めた。特に抜け毛がスゴい。
先程のエイベルが言う『痩せた』は、正しくは、『抜け毛のせいで体のボリュームが減った』なのだ。
本来なら段々と寒くなってくるこの時期は、ボア毛へと換毛してモフッとするのに。
「ダンス大会か。ワイにはようわからんが、大変なんだな」
「だけど、今はテストを優先した方がいいぞ、タロス。第4だと、まだ基礎学科の方が専門学科よりも大事だからな!」
「⋯⋯うん」
ライブルのアニキとメロスの言葉に、頷くオレっち。
でもな〜⋯⋯オレっちの推薦だけならもう少し軽く考えられるんだけど、なんだかチュネミ三兄弟の期待が重くて⋯⋯
あれからゴルーが他の兄弟⋯シルーとブローを連れてきて、三人でお願いされちゃったしな。いつも元気で図々しいアイツらが頭を下げまくって、ずーっと低姿勢だった様子を見ると、ホントに困ってるんだなぁ⋯と、肌で感じた。
⋯⋯少し、頭を切り替えてみよう。そもそもダンスなんだから、体を動かしながら考えた方がいいかも。
とりあえず、ワン・ツー体操をしてみた。
ワン・ツー、ワン・ツー!
次は、旋回してみる。
クルクルクル!
んー、まずは魔楽音だよなぁ。それから振り付け。オレっちメインって言っても、正直、チュネミ三兄弟の方がダンス上手いから──うーん、う〜ん⋯⋯
《こう言っちゃあなんだが⋯⋯オメー無しの方が良くねーか?》
ハイ。その通りデス。無理にオレっちを入れようとするから、こんなに悩んでるんデス。
チュネミ三兄弟のみの構成だと、前世のパクリダンスもやりやすい。ハァ⋯⋯こうなったら、オレっちの第二教室行きは諦めますか。
この推薦枠だって、オレっち限定じゃなくて、レキュー先生の魔法印があるこの紙さえあれば誰でもいいみたいだし。
そもそも、レキュー先生だってこの条件をクリアできるとは思ってないだろう。⋯⋯そう思うと腹立つな、オイ。
◇◇◇◇◇
「とまあ、そーいうワケで、オレは、お前たちのサポートにまわることにした!」
「でも⋯⋯それじゃあ、タロスさんは第二教室に推薦されないチュよ!?」
「申し訳ないでチュ〜!」
「チューです!」
あれほど空気を読まない奴らが、本当に申し訳なさそうなスナネズミ顔をしている。成長したんだな、お前たち!
「フッ、気にするな!オレにはまだ時間がある!それにオレのダンスプログラムは、難度が高い!練習は厳しいぞ!!」
「「「イエッチュー!!!」」」
「ところで⋯⋯前から気になっていたことがあるんだが⋯⋯お前たち、テストの時ってどうしてんの?心話禁止の魔導器でも使われてんの?」
こんなタイミングでなんだが、テスト勉強している時にふと気づいたのだ。心話⋯テレパシーって、カンニングみたいなモンじゃない?と、いうことに。
これで三人共が同レベルなら自滅だが、一人でも勉強好きがいたら、そいつから答えを聞けばいいワケで──
「俺たちの教室は、心話不可の特殊な魔導器があるんでチュ!」
「だから、心話持ちは、同じクラスに集められるのでチュ〜!」
「クラスメイトは、み~んな双子か三つ子なんチュー!」
そうなんだ!!どーりで、オレっちたちのクラスには、双子や三つ子がいないワケだ!
⋯⋯第4レベルクラスでも、どこかの組にはそういった連中が集められてるんだろうな〜。今の今まで知らなかったオレっちって⋯⋯
「ちなみに、俺たちの中で一番頭がイイのは、シルーだっチュよ!」
「ブローだって、一番絵が上手いっチュー!」
「でもって、ゴルーが一番──」
そりゃ、長男だもんな。どうせ、行動力とか統率力とか──その辺だろう。
「「子守が上手いチュー!!」」
めっさ、予想外!!⋯って、子守!?
「ねーちゃんの子供たち──姪っ子たちは、ゴルーに、一番懐いているのでチュ~」
「三人ともオテンバさんなので、大変なんだっチュー!」
「さ、三人!?」
子連れ離婚だとは聞いてはいたが、三人とは聞いてなかった!!そりゃあ、生活が困窮するハズだ!!