第百二十四話 なんですと!?
今年の秋の大祭は、例年通りの流れで終わった。ただ一つ違うのは、賢者様が大祭会場に姿を現さなかったということだ。
チルルーさんもアレイムも不安そうだったが、去年、カガリス様からもう限界だろうと聞かされていたオレっちは、いよいよなのか⋯と思っていた。
賢者様が亡くなったからといって、国が混迷するわけでも日常生活が困るわけでもないが、ビスケス・モビルケの象徴となる方がいなくなるわけで──
《精神的な不安はあるだろうな》
『はい。前世持ちのオレでさえ感じるぐらいですからね』
この世界で賢者様──半神血族が存在しないのは、人間の国だけだからだ。一応、現人間たちも元竜人だということで、ウルドラの三賢者を竜の神々の代理としてはいるが、だからといってアチラから何かを応じるということは無い。
もし、間接的にでも繋がっていれば、三国に分裂することもなかっただろう。しかし、現実はそうではなく、ネーヴァはパールアリアへと攻め込んでいる。
他所の国とはいえ、戦争なんてして欲しく無いんだけどなぁ。
それに、たとえネーヴァが勝ったとしても、上手くパールアリアの地を統治できるんだろうか?テロリストだとかに悩まされて混沌とした社会になると、周辺国も大変なんだが。
《それでも、俺たちが去った後よりは遥かにマシだろう。なんせ、大喧嘩の最中に主たる俺たちが離脱して、それでも眷属たちは戦い続けたんだからな》
古き神々の争いのこと!?
『前から訊きたかったんですが、なんで戦ってたんですか!?』
《⋯⋯単純な二柱の大神の対立だよ》
『その対立の理由とは!?』
《オメーらには関係ないことだ。ってか、ヘタな情報を持つな!》
『ヒッ!は、ハイ!!』
カガリス様の圧に、怒気が混じっていた。ホントにヤバい理由らしい。好奇心よりも本能が警鐘を鳴らす。触らぬ神に祟りなし!ですな!
◇◇◇◇◇
タッタッタラリララーン♬タン♪タン♪タタターン♫タカタカタカ♪ダーン♪ダーン♬
スリムになったからか、体が軽い。ターンも速いし、回転数が多くても回りきれるようになった。
今年の秋の大祭の舞でも、あのミンフェア先輩が何一つ文句をつけなかったんだから。あ、一つだけ難癖をつけられたんだっけ。
『痩せ過ぎて、アンタの持ち味のKAWAIIが、半減した気がするわ!』⋯と。
オイ、去年までの強制ダイエットを忘れたのか!?ホントにミンフェア先輩って、勝手だよね。
でもね。確かに体はシュッとなったけど、顔はそうでもないんよ?ぷっくらモチモチのままだもん。特に、頬袋が。
ちなみにレキュー先生は、大祭前の練習時期になっても姿を見せなかった。
どうしたんだろ?とか思ってたら、ミンフェア先輩から衝撃的な情報を聞かされた。
案の定、アメジオスの子供向けの映画に出演していたレキュー先生は、映画の主人公にダンスを教える教師の役をしていたそうなのだが、その演技がとても良かったらしい。
なんでも、オネェ言葉の上にダンスに関してはカワイイのに厳しくて──そうした独特の個性が、多くの加護人にウケたのだとか。
あ~⋯⋯、多分、アドリブなんかも多かったんだろうな〜。ダンスに関しては本当のプロだし、ツッコミも上手いから。
これは当分の間、帰ってきそうにないなぁ⋯⋯。第二ダンス教室への推薦、来年以降になるかも。この絶好調の時に、肝心の担当教師が居ないとは⋯⋯トホホ。
「タロスさん⋯⋯相談したいことがあるのでチュが⋯⋯」
「ん?んん~!?」
突然、トビネズミ三兄弟──じゃなくて、チュネミ三兄弟の長男、ゴルーから話しかけられたオレっちは、ビックリした。そして同時に、強烈な違和感を覚えた。
何だろう?この変な感じは──あっ!
そうか!一人だからだっ!!
チュネミ三兄弟と言えば、普段の生活だけでなく、このダンス学科でも三位一体が当たり前だったから、一人だとこう⋯⋯なんつーか、三色団子の串に一つしか団子が刺さってないような⋯⋯残念な物足りなさを感じるんだよなぁ。(要するに、単独だと存在感がとっても薄い)
「とある噂で、タロスさんと親しいクラスの人が、ダンジョンで宝箱を見つけたという話を聞きまチュて⋯⋯」
「あー、ライブルのアニキの話ね〜」
「えっ、タロスさんのお兄さんなんでチュか!?」
「違う、違う!年上だし尊敬してるから、アニキって呼んでるだけだよ!」
思考が単純過ぎるだろ。
「⋯⋯そうでチュか。それで訊きたいのでチュが⋯⋯その人は、どの階層で宝箱を見つけたチュか?」
「いや、階層は関係ないと思うぞ?アニキだって、今までに二回だけだったらしいしな。しかも一つは、古代人が使ってた昔の武器だったって話だ」
しかし、アニキとは相性の悪い長剣で、即、売り飛ばしたそうだが。
「やっぱり、そうでチュよね⋯⋯」
「なんでそんなに宝箱に興味があるんだ?」
ダンジョン=冒険ではなく、ダンジョン=宝箱的な考えに聞こえるんだが?
「実は⋯⋯俺たちのとーちゃんが冒険者で」
え⋯まさか、まさか──ライブルのアニキのオヤジさんと同じパターン!?亡くなったの!?
「歳も歳だし、ホントならとっくに引退しててもおかしくなかったっチュが、俺たちが生まれて、辞めるに辞められなくなって⋯⋯もう、ボロボロなんでチュ。かーちゃんもパートに出てるけど、ねーちゃんが離婚して子連れで出戻ってるから、最近、特に生活が苦しくなチュって──」
⋯⋯。え~と⋯⋯ある意味、ライブルのアニキよりもややこしくて、切羽詰まってる⋯?
「宝箱のことは、とーちゃんも運次第だって言ってたチュが、見つけやすい階層とか、コツを訊きたくて」
「コツなんて無いと思うけど⋯⋯」
だってあの宝箱──カガリス様の仕込みだもん。
「え~と、お前たちテレパシーが使えるんだから、何かバイトとか──あ、まだ無理か!」
オレっちより歳下だもんな。せめて12歳ぐらいだったら職業お試し名目でバイトができるんだが。
三者間のテレパシー持ちだから、将来的に就職先には困らなくても、今はなぁ⋯⋯。
《ライブルに金を借りたらどうだ?アイツ、今、余裕があるだろ》
確かに。でも、この歳で借金を背負わせるのは⋯⋯
「あら。だったら、コレに出てみたら?」
オレっちとゴルーの会話を聞いていたらしいミンフェア先輩が、一枚の紙を見せてきた。
あれ?ミンフェア先輩、なんでまだ第一教室にいるの!?
「レキュー先生の言付けをアンタに伝えるの忘れてたわ。第二教室への推薦の条件として、このダンス大会の決勝戦までいくこと──ですって!」
なんですと!?
ミンフェア先輩に渡された紙をガン見すると、そこには──
【ビスケス・モビルケ最大のダンスイベント〜小獣ダンス・ダンス!今年も華やかに開催!ダンスなら何でもあり!賞金はなんと──】
一位なら──500万ベルビー!?マジで!?
このチュネミ三兄弟編が終わると、少しシリアス展開になっていきます。




