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第百十八話 撮影と冒険者講習

 マホロンの脚本が出来上がった。ひねりも何も無い、本家本元の映画そのもののストーリーだった。


 「だって⋯⋯そもそも、食べるだけの話だからね。でも、食堂のドキュメンタリー風の方は、皆が出演できるように工夫してるから、ウケると思うんだ」


 つまり、そっちをメインにするから、オレっちの出演する方は前座だということですかい?

 まあ、美味しいものが食べられるから、それでもイイけどね。


 監督は、映像学科を選択している第6レベルクラスのマホロンの同級生、ワオキツネザル似の小獣人、アザネルさんだ。まさかの女性監督。

 いや、この世界じゃ普通かな。今までオレっちが観てきた映画の半数は、女性監督の作品だったしね。






 ◇◇◇◇◇


 「タロス君。一心不乱に食べるのはいいんだけど、ちょっと早食い過ぎるわ。こう⋯⋯少し間を置いて、食べられない?」

 アザネルさんの紫色の瞳が、レンゲを持ったままコテンと首を傾げるオレっちの姿を映す。


 「間を置く⋯⋯」


 チャーハンと餃子を前に、オレっちは考えた。いや、もうほとんど残ってないから意味がないけど。

 オレっちの出番は、飲食店風セットの中で、山盛りチャーハンと餃子を食べるシーン。

 ちょうどお昼だったのでガツガツと本気で食べてしまい、演技というものを忘れていた。失敗。


 「編集用の映像記録は制限がないから何度でも撮り直せるけど、キミのお腹はそうじゃないから、死ぬ気で演技しないと、何度でも食べることになるわよ?」


 凄まれた。そして、当然のように気づく。お腹がいっぱいになっても、食べなきゃならないんだと。

 再度、新たなチャーハンと餃子が用意される。レンゲを持つ手が、小刻みに震えた──





 ◇◇◇◇◇ 


 チャーハンと餃子は、しばらく食べたくない⋯⋯。

 食べすぎて消化しきれず苦しんでいたオレっちは、心配したエイベルに付きそってもらいながらなんとか家へと戻り、二時間ほど寝込んだ。オレっちの自己治癒は、消化不良には効かないらしい。そりゃそうか。毒ならともかく、ただの食べ過ぎだもんね。


 過酷(?)な撮影がなんとか終わり、次の出番であるドキュメンタリーまで間があったので、ライブルのアニキに言われた、初心者向けの冒険者講習を受けに行った。


 てっきり冒険者ギルド内で受けるもんだと思っていたら、講習会場は近場の獣神殿だった。

 そもそもダンジョンは、超古代の神々と古き神々が造った聖遺物だから、冒険者ギルドと神殿は連携しているのだとか。

 担当神官様は、ダンジョン内に入る前の心構えと、最低限の情報を、オレっちを含めた初心者たちに与えてくれた。


 ダンジョン街がある一階層の説明から始まり、階層ごとの休息所、そこにある一階層へと戻る内部転移システム、24時間内なら進んだ階層までセーブできる魔刻石──特に重要だったのは、魔物はある特徴を持った岩の辺りには絶対に近づかないから、その場所を必ず確認しておくこと──だった。


 休息所や転移システム、セーブ機能──これらを設けてくれた超古代の神々の優しさが身に染みる。それに比べて、古き神々の無慈悲なことよ。

 あるのは、セーブ機能のみ。後は、弱き者は去れとばかりの塩対応。


 それもそうか。旧ダンジョンと違って、新ダンジョンは自分たちの遊び場であって、オレっちたち下僕用じゃないんだから。

 そう思ったら、数少ないとはいえ(いにしえ)の冒険者たちは、神々の遊び場の中間層まで攻略できたっていうからスゴいよな。まあ、半神様中心のパーティーばかりだったとは聞くけど。

 とにかく、旧ダンジョンの浅い階層だって危険なことに変わりない。




 「──また、魔物から逃げるために立ち止まって身を隠してはいけません。とにかく、全力で走るか飛ぶかして、その場を離れて下さい」

 コアラ似の神官様が、受講者全員を見回しながらそう言った。


 ダンジョンの魔物の眼は、普通に物を映すだけじゃなく魔力も映すんだそうだ。だから、魔力をゼロにしない限りは、姿を隠しても意味がないらしい。なるほど。ライブルのアニキが、逃げ方を最初に学ぶと言っていたのは、そういう理由からなんだ。


 「それから。観光記念のように、ダンジョン内部の土を持ち帰りる方もいますが、土はダンジョンの外に持ち出されると燃えますので、絶対にやめておきなさい」


 甲◯園の土みたいな感じ?どの世界でも、似たような発想はあるんだな。


 「あの~、ダンジョンにはレアな魔素鉱物がありますよね?アレは大丈夫なんですか?」

 あ、そこはオレっちも気になる。


 「ええ。あれは魔物素材と同じような扱いになっているので大丈夫なんです。そもそも、ダンジョンの土は、靴や服にも付着しないし、外にある普通の土とは別物で──そう。土に見える別の何か、として認識しておくとよいでしょう」


 コアラ神官様は、そう言って講習用の本を閉じた。


 「次回の講習では、神殿地下の疑似ダンジョンでテストをさせてもらいます。戦闘ありきのテストではないので、講習内容をきちんと聴いていれば、大丈夫です」

 え。神殿の地下にダンジョンがあるの?あ、でも大きな神殿って、元々は半神様の宮殿跡だから、親神様がダンジョンを造っていてもおかしくはないのか。


 《馬鹿め。疑似と言ってただろう。おそらく、少しばかり大きな簡易空間だ》

 『ダンジョンとは違うんですか?』

 《まったく違う。竪穴住居と城ぐらいな》

 めっさ分かりやすい例え。そこにある岩壁を掘るのと、城を建てる労力と技術の差ってことやね。


 《俺たちが旧ダンジョンの下の階層に新たなダンジョンを造ったのは、そっちの方が楽だったからだ》

 『そうなんですね。もしかすると、超古代の神々の方が、スペックお高めだったんですか?』

 《違うな。どっちかというと、俺達の方が格上。ただ、あのダンジョンは神力に統一感があったから、抜きん出た能力を持つ一柱が、単独で造った作品のようだが》


 ⋯⋯つまり、マニアックな力ある御方が一人で設計し、一人で造ったと?マジで!?


 《そうだ。うちのラモグランに似ているが、アイツのは、ただ単に穴を掘っただけの単純作業。だが、ダンジョンを造ったソイツは、その神族でも別格の異端神だったんだろう。時々、いるのさ。そういう規格外がな》

 

 キュ?カガリス様の感情が、ちょっと乱れてる?


 それはともかく『テスト』ってのが気になるな。戦闘はないけど、学んだ事をできるかどうかの確認って──よくわからんなぁ。これなら、筆記試験の方がまだ楽だったかも。






 ◇◇◇◇◇


 最終講習日。

 一回目と同じコアラ神官様と新顔のワラビー似の女性神官様に、神殿奥の部屋を案内された。


 扉には二重の魔法印がかけられており、一つ目の魔法印をコアラ神官様が解除し、二つ目の魔法印をワラビー神官様が解いた。ものすごく厳重。

 そして、開いた扉から他の初心者たちと共に、下へと続く階段を下りていった。




 着いた場所は、見晴らしのいい草原だった。空は白く、とても明るい。

 少し離れた場所に森がある。かなり広そうなフィールドだが、全体的に不自然な造りだった。

 太陽が無ければ、風も無い。これだけの草原なのに、草の匂いもしない。なんというか⋯⋯ジオラマっぽい?


 「これから30分後に、魔物モドキを放ちますなの。そして、この魔物モドキは魔法水を吐き、その水に濡れた方は、緑に染まりますなの」


 ワラビー似の女性神官様が説明すると、周囲がザワッとなり、「え⋯⋯どういうこと?」「魔物モドキと戦うのか?」「装備も無いのに?」などと、不安気な声が上がった。


 「要するに、逃げる訓練です。30分の間に、前回で学んだことを実践して欲しいのです」

 コアラ神官様の言葉に、ようやく皆が試験内容を理解する。


 「本来ならダンジョン内で指導する補助役の冒険者が付き添って現地で行うべきことなのですが、彼らは浅い層だと、反射的に魔物を倒すばかりで、逃げたりはしません。頭では理解していても、結局、避難場所を案内するだけで終わってしまいます」

 コアラ神官様が、ふうーっとため息を吐いた。


 「かと言って、彼らが本気で逃げ出すような場面だとね、自分のことだけで精一杯になるから、最悪、見捨てられますなの」

 続けて補足説明するワラビー神官様を、皆が信じられないといった表情で見つめた。

 見捨てられるって、つまり、置いていかれて──囮にされるってこと!?


 「それはさすがに大昔の話だけど、それなら別で教えた方がいいってことになったんだよ」

 「実際、冒険者さんたちも面倒なことが無くなって、楽だしなの。じゃあ、スタートするから、頑張ってなの!」


 心の準備が──って、考えてる時間もないから、すぐに空を見て瞬時に判断し、ダーッと駆け出す。


 なんで空を見上げるかといえば、避難場所の特殊な岩の真上の空には、赤い光が必ずあるからだ。

 赤い光が激しく点滅していると、魔物が近くにいるから要注意、ゆっくり点滅だと少し遠くにいるから今なら大丈夫、まったく点滅せずだと、絶対に安全。


 赤い光は、三つあった。一つはめっちゃ近いが、激しく点滅している。もう一つはそれより遠いが、ゆっくり点滅していた。最後の一つは、点滅無し。

 多くの受講者たちは、最短距離以外の二つに向かって行った。オレっちもだ。だけど、絶対に安全な光の方は遠すぎる。鳥獣人じゃないオレっちには、30分じゃ無理だ。

 でも、その鳥獣人たちも二手に分かれていた。半数は、遠くの安全な赤い光を目指し、残る半数は、オレっちと同じゆっくり点滅へと向かっている。

 僅か三人だけが、近場の激しい点滅へと向かっていた。

 彼らをチラ見した後、オレっちは全力で走った──





 ◇◇◇◇◇


 結果、絶対に安全な光を目指した鳥獣人たちと、スピードに自信があった者たちは、全滅した。


 彼らは、30分後に放たれた魔物モドキではなく、元々疑似ダンジョン内にいた魔物モドキに、緑色の水をかけられたのだ。そりゃ、フツーに空を飛んでたら的にされるわな。それに、距離が長い分、魔物モドキに発見されやすいから、いくら速くても数でやられちゃうし。


 このテストは、単純な引っ掛け問題だったのだ。


 まず、神官様たちは、魔物モドキが30分後に放たれるもの()()だと誤認させた。赤い光が点滅している=魔物モドキがすでにいる⋯という事を忘れさせたのだ。


 もう一つは、点滅が時間によって変化するということ。

 最初から激しく点滅していた赤い光に行った三人は、急いで行かず、三十分ギリギリまで様子見していたそうだ。そして、光が点滅しなくなった瞬間に激走したとか。


 鳥獣人たちの半分程は、すでに魔物モドキがいることに気づいて、遠くの点滅しない赤い光へは行かなかった。

 オレっちがゆっくり点滅を選んだのは、時間内に行ける場所であることと、すでに魔物がいるから光が点滅しているなんだな、と気づいたからだ。だけど、点滅変化までは考えなかったから、近場へは行かなかった。

 ゆっくり考えたり、誰かと話し合ったりする間を与えずに開始したから、受講者の半分は騙されたのだ。


 とはいえ、実はオレっちもヤバかった。風魔法を付与したスピードでも30分どころか40分でも辿り着けず、追ってきた鳥魔物モドキに見つかったのだ。


 《このノロマ!!》


 苛立ったカガリス様がオレっちと入れ代わり、転移して事なきを得た。

 失敗の原因は、地形だった。岩は見えたが、直前に湖があったのだ。

 鳥獣人はもとより、跳躍持ちや水に特化したスキル持ちがサッサと先に行ってしまった後、オレっちは遠回りで回り込み、大幅に時間をロスしてしまった。


 神官様曰く、この試験に正解はないとのこと。とにかく、瞬時の判断と慎重さを求めたものだったらしい。しかも、ここで失敗しても本番で活かされたらそれで良いのです。⋯などと、言われてしまった。

 

 ⋯⋯実際のダンジョンは、こんなもんじゃないんだろうな。逃げるだけでもこんなに大変だとは⋯⋯ダンジョン、恐るべし!!

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