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第百十七話 小獣グルメと小獣食堂

 「おめぇらのおかげで、今回のテストもなんとかなった。ありがとな。で、コレは、仮の冒険者になるための講習の申し込み用紙だ」


 クラスの皆がテスト結果で悲喜こもごもしていた時、オレっちは一枚の紙を、ライブルのアニキに手渡されていた。


 「ド素人はダンジョンに入る前に、二日間、この講習を受けねーとならねぇ。都合のいい日に予約しておけ」

 「ハイ!い、いよいよですね⋯!」

 「いや、まだ一ヶ月以上も先だが?」

 「そ、そうですね。とにかく講習を受けて、準備をしてからでないと⋯⋯」

 「まあ、気持ちはわかるがな。初めての時は、ワイもそうだった。オヤジに何回も予定日を確認して、まとわりついてたかンな」


 あ。オヤジさんのことを思い出させちゃった。⋯ん?そーいえば、アニキって⋯⋯


 「アニキは何歳の時に、お試しダンジョンしたんですか?」

 「ワイは8歳の時だな。オヤジに似てスジがいいってんで、連れて行ってもらった。そんで、初めて魔物を倒した」

 「た、戦ったんですか、魔物と!?」

 「ワイはすでに戦闘用のスキルを持たとったからな。体毛でザックリ刺してやった。⋯⋯最低級の魔物だったけどな」


 いやいや、8歳で魔物を倒すなんて、スゴいよ。最初はレベル0だったハズだし。やっば、戦闘用スキル持ちって時点で、冒険者の才能ありだったんだろうな。それに比べて、オレっちは⋯⋯いや、もうそこは仕方ないから諦めるとして、それよりも今悩ましいのは、毎年恒例のお屋敷の夏パーティだ。


 そう、あれは先週のテスト前のこと──





 ◇◇◇◇◇ 


 「キュ!?今年の夏パーティ、また、劇なの!?雰囲気が殺伐とするからやめましょうよ!!」


 オレっちは必死だった。

 ペルティナさんだけじゃなく他の女の子たちも、きっと配役等で揉めるに決まってる。仮装とか、ダンスとかの方がまだマシ。ホントは、歌唱大会が一番いいんだけど。小獣魂、歌いたいし。


 「今回は大丈夫よ〜。二本立てになる予定だけど、一本は『皆の小獣グルメ』だから〜!」


 秋田犬似の犬獣人お姉さんが、年末に第5レベルクラスを卒業し、休学して就職(適正職業選びのお試し体験)してしまったため、今年からお屋敷の子供たちの新たなまとめ役となったマルチーズ似の犬獣人お姉さん──ロゼさんが、間延びした声でそう言った。


 「み、皆の⋯!?」

 去年、小獣映画界を騒がせた、あの異色作か!!


 ふらりフラリとそこらの飲食店に立ち寄り、飲み食いしていくだけの映画なのだが、一食ごとに加護種が入れ代わり、食を堪能する様がなぜか人気を呼び、大ヒットしたのだ。

 オレっちもマリスの出演シーンで八宝菜を食べてるシーンを観て、映画館を出た後、即行でかーちゃんと二人で食べに行ったっけ。


 「ん?でも、アレを劇にするのは、無理があるのでは⋯?」

 オレっちたちが舞台の上で入れ代わりながら食べるだけで終わりですよ?あの映画みたいな、美味しそうな料理のズームインなんて無理でしょ。


 「ふふ。それが今回はね〜、映像化した劇──つまり、映画を撮るのよ〜!!」


 な──なんですと!?


 ロゼ姉さんの話によると、旦那様がネーヴァから小型の映像記録魔導器を幾つか取り寄せて、機能テストをしているのだそうだ。そのテストを兼ねて、今回、映画を撮ろうということになったらしい。


 「でも、映像魔導器って、確か規制されてませんでしたっけ?」

 「それがね〜。ネーヴァの映像記録魔導器は、わざと映写回数に制限を付けたものなの〜。決められた回数以上に映すと、映像が消えちゃうのよ〜。だから、商業目的の映像は撮れないし、ギリで規制には引っ掛からないし、お値段もお手頃なの〜♪」

 

 あ~、なるほど。法の網をかいくぐるため、わざと使い捨て映像にしてるんだ。

 商売には使えないけど、素人の映画撮りだとか、今回みたいな一度きりのイベントには使えるもんね。


 「それでね、君に声をかけたのは、出演者として映画に出てもらいたいからなの〜。タロス君って、グルメなんでしょ?エイベル君が言ってたわ〜。しかも、食のアイデアも出せるぐらいのこだわり派だとか?」


 違うぜ、エイベル!オレっち、ど素人のなんちゃって食通なの!


 「こだわり派っていうか⋯⋯その、美味しいものが好きだから、どーしてもチェックが厳しくなるというか⋯⋯」

 「うん、うん。グルメのイメージ通りよね〜。もちろん本物の料理を食べてもらうから、ドンドン意見を言ってくれてもイイわよ〜。あ、料理はここの料理長が作ってくれるから、味は保証するわ〜」


 料理長──マホロンのお祖父ちゃんのフラミンゴ鳥獣人、ユペロンさんか。そーいや、マホロンは休学せずに、今年、第6レベルクラスに上がったって聞いたけど⋯⋯


 「⋯⋯それで、もう一本のタイトルの方は、何なんですか?」

 「『皆の小獣食堂』よ。お屋敷の食堂のドキュメンタリーなの〜。あ、脚本と構成はどっちもマホロン君だから、苦情はそっちの方に直接言ってね〜」


 ロゼさんは、段取りだけで、後は丸投げスタイルらしい。責任感の強かった秋田犬姉さんとは真逆なんやね。まあ、ストレスをため込んで胃がキリキリするよりはいいのか?


 さて、マホロン。この二本立てをどうやって料理する気だ?いや、それもあるが、映画なんだから監督がいるハズだよね。一体、誰?







 ☆ カガリス視点〜神のグルメ ☆


 タロスは、夜の8時過ぎには寝床に入る。そして、即寝する。とにかく寝つきがいいのだ。だが、かと言って早起きな訳でもない。どんだけ寝とんだ、コイツ。

 ま、だからこそ、俺がこの体をそこそこの時間使える訳だが。

 それとは別に、時々──主に休日だが、コイツの眠気を誘って、昼間に体を借りこともある。

 そして、変身し、街中へと出ていくのだ。


 「ヒヒーン!」ドドド!

 「モォ゙ー」カタカタカタ!

 「⋯でね」「あの映画がさ〜」「お母さん、お腹すいたよー!」「はぁ⋯しんど⋯⋯」

 馬の嘶きと爆走音、牛の鳴き声と車輪の音、そして、数多くの加護種たちの話し声──うるせえ。


 マルガナという街は、俺たちの時代の街に比べると魔法文化レベルが低く、規模も小さい。しかし、数多の加護種が行き交うところだけは、かつての大神直轄地並みの賑わいがある。

 俺たちの多くは、自分の眷属のみのコミュニティとして独立してたから、こういった雑多な雰囲気じゃなかった。特に俺の眷属であるカリスのコミュニティは、人口が少なかったしな。



 「おまたせしましたー!」

 シュワシュワっと、緑色の甘~い炭酸水がテーブルに置かれる。

 次に、肉と野菜の炒め物。そして、セットのご飯とスープ。それらが次々に並べられる。

 このメニューを選んだのは、メニュー表の転写真の中で、一番美味しそうに見えたからだ。


 俺は酒だけじゃなく、食にもうるさい。かつての俺専用の料理人は、カリスのコミュニティの中でも一番の料理の腕を持つ、筆頭料理人ばかりだった。

 正直、下位世界の食べ物は、栄養とはならない。ただ、嗜好品として楽しむだけなのだ。


 さて。まずは、スープを飲んでみるか。

 うむ。アッサリした味付けだが、鳥魔獣を長時間煮詰めた出汁らしく、濃い旨味がある。

 次に、メインの炒め物を食べてみる。

 ほう。こちらは、牛魔獣の肉か。キャベツやタマネギともよく合う少し甘めのソースが美味い。ご飯が進む。


 モグモグモグ。完食。

 

 チュー、とストローでメロンソーダーを飲む。俺は、このシュワシュワ感が好きなのだ。

 ズズズっと最後まで飲むと、席を立ち、会計を済ませる。 


 フラリと何気なく立ち寄った店だが、そこそこよかったな。以前、大通りの別の店に入ったが、内装がオシャレなだけで肝心の料理の味は微妙だった。


 人通りが多い通りの店ほどハズレが多いと、前にタロスが言っていたが、当たってるかもしれない。

 まあ、だからといって人通りの少ない寂れた通りに行っても、店も汚え、サービスも悪い、料理も不味いっていう店も少なからずあるから、案外、難しいんだが。


 実は、店を鑑定することもできる。だが、鑑定したからといって、味の美味い、不味いがわかるわけじゃねえ。なぜなら、鑑定で出てくる情報は、創業からの歴史とメニュー、料理人の名前ぐらいしかないからだ。

 たま~に、一番人気のメニューや店の経営状態の記載があるぐらいで、味云々は、ほぼ書いてない。多分、多次元アーカイブを管理している疑似思念が、そういったものにはまったく興味を持っていないからなのだろう。


 アタリとハズレ。飲食店巡りは、博打に似ているのかもしれない。故に、毎回美味い店にアタルという例の映画は、謎である。

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