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第百十四話 微かな兆し

 今年の春の大祭は、ダンス学科の選抜メンバーに選ばれなかったので、エイベルやかーちゃんと共に、沿道でパレードを観ていた。


 ビスケス・モビルケは、今日も平和だ。しかし、隣国であるネーヴァは、先週からパールアリアと戦争を始めたらしい。


 小獣新聞によると、ここ百年は小競り合いさえなかった二国だが、突然、ネーヴァ側から宣戦布告してきたという。

 人間の国とはいえ、ネーヴァは隣国だから、ビスケス・モビルケの人々もさぞかし驚いた⋯事はなかった。少なくても、百歳以上の小獣人たちは。


 『百年以上前にもあったけど、所詮、人間の内輪揉めだから俺たちには関係ないもんね〜』⋯ってな感じ。


 二千年前の海の呪い、そして、人間の国の最後の竜賢者の死からの数百年で、元竜人たちの領土は、パールアリアとマリアベルの二国に分裂し、さらにパールアリアからネーヴァが興り、現在の三国へとなった。

 それからは三国間のみで争っていたので、今まで一度たりとも加護種の国々へは飛び火したことがない。だから小獣国民は、今回もそうだと思っているらしい。


 《そりゃ、そうだろう。加護種にケンカを売っても、加護を持たない人間は、体力も魔力も──基本ステータスが、加護種の半分以下の数値だもんな。負けると解っていて攻め込む馬鹿はいねぇ》

 『ですよね。でも、ネーヴァって最近変なんですよ』

 《何が?》

 『なんというか⋯⋯え~と、魔法技術が急激にレベルアップしてる?って、感じで』

 《⋯⋯ふ~ん。だから、侵攻したってワケか。ま、どーせ毛の生えた程度の技術だろうさ。それより、今日はアチコチ歩け。もしかすると、あのお方に会えるかもしれねー!》


 確かに去年は、ニーブ君⋯⋯いや、ニーブさんに会えたけど──今年はどうだろう?


 なんだかんだと理由をつけて、エイベルやかーちゃんとは別行動で、パレードを追う。

 それにしても、沿道の人の数が多過ぎて移動がし辛い。オレっち、背が低いからパレードさえ見えないし──


 《ああ!ったくウゼーな!代われ!》

 『は、ハイっ!』


 あわてて意識の入れ替えをする。


 《これでよし!行くぞ!!》

 『え!?』


 カガリス様は、ズンズンと人混みをかき分けていった。めっちゃ強引。

 すると不思議なことに、沿道の小獣人たちは皆、カガリス様に道を譲った。旧約聖書のモーゼの海割りのように、サーッと道が拓けていく。


 《俺が神力をホンの少し漏らしただけで、体が勝手に反応するのさ。加護種とはそういうモンだ》

 『⋯⋯』


 オレっちは中の人だからわかんないケド、本能的にそうなるのか。便利だけど、つくづく、自分たちが神々の下僕であることを痛感する。ある意味、理不尽。






 ◇◇◇◇◇


 《無駄足だったか⋯⋯》


 カガリス様は、最後に空中浮遊で空からも見下ろしていたが、ニーブさんは見つからなかった。


 花の大祭中は、空も鳥獣人たちで混雑してるから、それより高い位置にまで上昇していた。

 見つけるというより、感知するといったカガリス様のやり方でも、僅かな気配さえ感じなかったと言ってたから、今回は観に来ていなかったのかもしれない。いや、ビスケス・モビルケにさえ、いなかったのかも。


 オレっちの(えにし)とやらも、連続で続くものでもないのだろう。百年、あるいは二百年以上もかかるかもしれない。そうなると、カガリス様にとり憑かれる期間が長くなるということで──なんだかな。


 《⋯⋯眠い。返すぞ!》

 『え!?』

 パッと意識が入れ替わる。


 「って、ここ、どこ!?」

 まったく見覚えのない場所で佇むオレっち。

 カガリス様、ひどい!と、とにかく、魔牛車乗り場を見つけなきゃ!!






 ◇◇◇◇◇ 


 「やっと⋯⋯帰れた⋯⋯」


 ようやく家へと辿り着いたのは、辺りがかなり暗くなってきた時間だった。

 マルガナの中心部からかなり離れた場所の魔牛車は、普段から一時間に二本しか運行しておらず、しかも春の大祭で大通りが規制され迂回ルートになっていたことで、戻ってくるのに二時間近くも掛かった。


 クソモフ神め⋯⋯!


 コノウラミハラサデ⋯⋯いや、無理だな。そこはわかっちゃいるけど、腹が立つ。ホントにオレっちの扱いって酷い。というか、軽い。


 せっかくの春の大祭だというのに、カガリス様に体を乗っ取られ、結局、オレっちは今日という日を楽しむことができなかった。

 りんご飴や綿菓子、花びらのソフトクリーム──とにかく甘〜い物が食べたかったのに。

 仕方ないので、家にあったドライフルーツを噛じる。これはこれで美味しいケド。


 花の大祭用のスペシャルメニューが用意されているお屋敷の食堂で、かーちゃんやエイベルたちと夕飯を食べた。賑やかな食堂の雰囲気が、心地良い。

 かーちゃんと共にアパートへと戻ると、まだ20時にもなっていなかった。


 ⋯⋯どうしよう。今からでも夜のパレードを観に行こうかな。でも、夜はお酒中心の屋台が多いし、年齢的に一人じゃ出歩けない。


 《⋯⋯なんだ?》

 『あれ、起きたんですか?』


 そうだ!カガリス様に頼めばいいんだ!


 『あの、カガリス様、今から夜の──』

 《今さっき、大きな魔力を感じた。どデカい魔法でも使ったのか!?遠すぎて、正確に分析できん!》

 ⋯⋯カガリス様が動揺するなんて、珍しいな。


 『何かあったんですか?』

 《この大陸の何処かで、強力な魔法が使われたんだ。弾けてから大量の魔素が消費された感じからして、大規模な魔法攻撃っぽい。おそらく魔導器だろうが⋯⋯》


 魔法攻撃用の魔導器⋯⋯あっ!?


 『多分、隣のネーヴァかパールアリアですよ!』

 攻撃したのがどちらかは分からないが、魔導兵器が使われたのだろう。


 《人間が造れるレベルの魔導器じゃねぇぞ?劣化版とはいえ、俺たちの時代の物に近い》

 『そ、そんなレベルなんですか!?』

 《街ごと破壊できる兵器だ。だが、火と風魔法、それに土魔法のレベルが低い上に、魔素の無駄が多いことを考えると、過去の兵器が使用された訳じゃねえのか⋯?》


 ⋯⋯聖遺物じゃないケド、それに近い物?それが実際に使われた!?ヤバくない!?特に攻撃したのがネーヴァだったら──


 《安心しろ。確かに強力な兵器ではあるが、これだけのブツを作るには、今の魔素が薄い世なら大量の魔石が必要となる。つまり、量産はできねぇってことだ》

 『あ~、お金がかかるから⋯⋯つまり、ここぞという時の一発だと?』

 《うむ。しかし、あれだけの大量破壊兵器だと、魔力が高い者にはまる分かりだから、明日ぐれぇには大騒ぎになってるんじゃねぇのか?》


 オレっちは魔力が低いから感知できなかったけど、国家魔導師や高位神官クラスだとカガリス様のように分かるのか。


 《俺ほど詳細にはわからねぇが、ヤバいもんだと気づく筈だ。他とはケタが違うからな》


 対岸の火事だと思ってた人間の国の争いが、場合によっては、小獣国にも及ぶのだろうか?

 でも、いくらカガリス様がオレっちの中にいるとはいえ、国家間の問題に関与することはできない。結局、一市民として情報の公開を待たなければならないのか⋯⋯


 どの世界でも、兵器と名のつく物はろくなモンじゃない。百害あって一利なし。

 前世では武器や兵器の開発で文明レベルが上がるとも言われていたが、古き神々や竜の神々の遺した文化があるこの世界じゃ、もう必要無い。

 そもそも、大事なエネルギーである魔石を兵器なんかに使わないで欲しい。資源の無駄だ!


 ⋯って、ここでオレっちが憤慨しても、意味ないか。

 《それもそうだな。考えるだけ無駄だ。寝ろ!》


 そんなハッキリ言わんでも。どーせオレっちは、モブですよっ!チートがあったらビューンと戦場に跳んでいけるのに!

 あれ?カガリス様、チートなのに行かないんだ。なんで?


 《魔素が薄い上に本体じゃねーからな。とにかく、寝ろ!》





 ☆ カガリス視点 ☆ 


 先程の爆発を、分析してみる。

 魔素変換魔法量は膨大だが、無駄が多い。それに、火魔法よりも風魔法が強く、土魔法のレベルが低いこともあって、想定の半分以下の破壊力だったハズだ。

 しかも、竜神たちが遺したと思われる遺物の防御結界で、八割は防がれている。残りの二割は、範囲が広すぎてカバーできなかったのだろう。

 だが、あの程度の爆発なら上級魔導師が数人いれば、遺物なんぞが発動しなくても半分は防げたとは思うが⋯⋯ああ、人間じゃ無理だったか。


 とにかく、光と闇系統じゃなければ、どうとでもなる。こっちの方だと物質は無になるし、魂魄にも被害が及ぶからな。

 さすがの俺たちも、この系統だけは絶対に造らなかった。魂魄の大量消滅は、上位世界でも下位世界でも禁忌だからだ。

 かつてそれをやっちまって自滅した神族があった。奴らの二の舞いはゴメンだ。


 クソ!『眼』があれば現場を視れたのに!竜神の奴らめ!

 海の呪いとやらは、俺たちからすればどーでもいいことだったが、一つ気になることがある。

 竜神たちがこの異変に関して、未だに反応していないのだ。俺にとっては、人間の兵器よりも、そっちの方が不気味なんだが。

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