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第百十話 カガリス様からのプレゼント

 氷獣祭の期間中でもあり、冬の寒さのピークとも言える季節が、オレっちの誕生日である。早いもので、もう十歳になるのだ。


 子供時代の誕生日は、特別な日でもある。特に今世は、大勢で賑やかだしね。


 「誕生日 おめでとう!!」

 お屋敷の食堂で、使用人さんたちやその子供たちが祝ってくれた。

 続いて、皆からの合同プレゼントと旦那様からのプレゼントが渡される。さらには、かーちゃんやエイベル、アレイムからのプレゼント(例のハギレで作った小物入れ&巾着袋)もある。最後のプレゼントは、神殿からの秋の大祭の転写真だ。


 今回は三枚で、そのうちの一枚は、大祭後の打ち上げパーティでのチルルーさんとアレイムとのスリーショットだった。前回はミンフェア先輩が写り込んだ転写真だったので、余計に嬉しい。


 さて、誕生日といえば、前世と大きく違うところがある。それは、小獣学校のクラスメートを自宅に招かないことだ。さらに、祝いの言葉もなければ、プレゼントも無い。


 クラスメートといえど年齢にバラツキがあるから、自然と誕生日などはスルーするようになっているのだ。

 会話の中でお互いの年齢の話が出ることもあるが、十歳だろうと二十歳だろうと、気にする者はいない。最長、五十歳までに卒業できれば、後は同じなのだから。


 《そうか。オメー、まだ十歳だったな》

 『いまさら何です?』

 お屋敷の誕生日パーティが終了した途端、カガリス様が話しかけてきた。


 《オメーは前世持ちだから、あんまりガキって気がしねぇんだよ》

 『大人思考ですから!でも、時々子供っぽくなっちゃうこともありますケド!』


 外見に引きずられるというか、キレた時なんかもろに子供感情で、キイィィ!⋯って、なっちゃうのよ。あと、嬉しい時なんかも。


 誕生日プレゼントだって、旦那様や皆からの品にはそれほど嬉しい感情が爆発しなかったけど、かーちゃんのプレゼントには、舞い上がったもんね。


 「キュキュッ!あ、ありがとう、かーちゃん!!」


 かーちゃんからのプレゼントは、なんと補助魔法具付きのキックボードだった。

 前々から『移動用の乗り物が欲しいな〜!』と、ねだっていたが、かーちゃん曰く『危ないから、まだダメよ!』という理由で買ってもらえなかったのだ。

 それが何で今年の誕生日に買ってもらえたかというと、オレっちの身長がようやく1メートル超え(5センチ程だが)になったから。

 小獣人の身長1メートル超えは、ちょっとした基準でもあって、魔法とは別の意味での半大人を意味するのだ。


 そもそも小獣人の大人の平均身長は、他国の加護種に比べるとダントツに低い。

 しかも、小獣人と一括りにされても加護種の違いによっての平均身長も幅が広く、上が180センチ、下が130センチまであるのだ。


 カリスは、男だと155センチぐらいまでが限界で、あの父という名のカモはそれより少し低いぐらいだったから、オレっちも最終的には150センチ程度で頭打ちになるかもしれない。ちなみにかーちゃんは、138センチある。


 ま、前世とは違って、恋愛や結婚に身長は重視されていないから、別に気にしてないケドね。



 《ふむ。じゃあ俺からオメーに誕生祝いをくれてやるか──まあ、楽しみにしてろ》


 カガリス様からのプレゼント?なんか怖いな⋯⋯。





 ◇◇◇◇◇ 


 「お休み、タロス。暖房魔導器の充魔石は、予備もセットしておくのよ。私たちの自己治療は、風邪には効きにくいから」

 「うん。わかってるよ、かーちゃん!」


 効きにくいと言っても、十数分間だけ熱が出るだけなんだが。


 《よし、頃合いだな。タロス。オメー、夜の街に出たことはあるか?》

 『⋯⋯無いですね』


 前世はともかく、今世は無い。普段の生活でも旅行でも、夜間は移動することはあっても、出歩くことはなかった。まだ子供だから当たり前なんだけど。

 いくらビスケス・モビルケの治安が良くても、マルガナのような大都市はさすがに危険だ。しかも、夜間に出掛ける理由がない。でも──興味はあるんだけどね。


 《俺が連れて行ってやるよ。そもそもオメー、昼間でも決まったルートでしか街中を移動してないだろう?》


 それは⋯⋯確かに。お屋敷の周辺と獣学校への通学ルート、それに魔牛車乗り場の周りぐらいしか──公園やプールなんかも近場だしな。


 《じゃあ、俺に交代しな。そうだな──まずは横になって目を瞑れ》


 オレっちは言われるがままにベッドに横になり、目を瞑った。

 ⋯⋯。⋯⋯。




 《おい、タロス。起きろ!》

 『⋯⋯あれ?』


 ベッドの上にいたハズなのに、なぜか立って──って、ここ、どこ!?


 前世同様に明るい──照明魔導器やネオン代わりの発光魔導器が、街を明るく照らしていた。

 呆然としたが、すぐに、オレっちの視界がおかしいことに気づいた。勝手に風景が移り変わる⋯⋯って、体が勝手に動いてる!?


 《今は俺がメインだからな。つーか、オメー、本当に寝てんじゃねーよ!》

 『いや〜、冬場は寝付きが良くって!やっぱ、リスだから冬眠体質なんですかね?』

 《いや、そもそも、オメーらは冬眠しねぇだろう。何でもかんでも無理にそっち方向に持っていこうとすんな!》

 『ハイ⋯⋯』


 ところで──ここはどこなんだろう?発光魔導器の看板が派手な建物ばっかだ。少なくても、お屋敷の周辺──メインストリート沿いではない。


 《ここは、歓楽街だ。まだ宵の口だから人は多くないがな》


 馴染みのない通りだからか、ヤケに怪しく見える。道行く小獣人でさえカタギではないように思えたオレっちは、ドキドキしっぱなっしだった。


 《びびりカリス。心配しなくても今の姿は大人の獣人だから、安心しろ》

 『そう言われても⋯⋯』


 雰囲気が──明らかに怪しい店構えの建物が多いし、女性も水商売っぽい感じだし⋯⋯オレっちとしては、もっと一般向けの繁華街の方がいいんだけど。

 しかも、ここはいわゆる、裏通りってやつなのでは?


 《コッチの方が安いし、面白い。返り討ちにする力がある者なら、フツーの店と変わらねぇ》

 『それって、結構、危ないってことじゃないですか⋯⋯』

 《たまに過大請求でボッタくる店もあるからな。それでも神力をホンの少し出しただけで、そういった輩は、尻尾を巻いて土下座する》


 逃げるんじゃなくて、土下座なんだ。さすがは腐っても古き神々の一柱。加護種は本能的に、神には逆らえないもんな。


 《敬愛と畏怖──眷属とは、そーいうモンだ。そういった意味では、慇懃無礼なオメーは、例外だが》

 『もちろん、加護の感謝はしてますよ?でも、カガリス様、イロイロとやらかしてくれるから⋯⋯』

 《⋯⋯まあ、それはもういい》


 はぐらかしたな。でも、オレっち、カガリス様に敬愛だとか畏怖だとかをあまり感じないんだが。異世界の転生者だからか?


 《よし、上からこの街を見せてやろう!》

 『上って⋯⋯まさか空から!?えっ!?』


 オレっちの返答よりも先に、周りの景色が変わる。たくさんの星々が見える闇の世界──夜空だ。それからすぐに、カガリス様の視線が下げられた。


 『うわぁ⋯⋯!』


 眼下に広がる夜のマルガナは、圧巻だった。

 魔導器の魔素光は、前世の電気光よりもフワッとした感じで、眩しさが抑えられている。だからか、どことなく品がある優しい光なのだ。しかも、ウルドラシルの木々の大きな隙間から輝く光だから、幻想的な美しさがハンパない。


 ああ⋯⋯こーいうのを見ると、本当に異世界⋯⋯ファンタジーの世界なんだなって、実感する。

 日々の暮らしは前世と変わらないが、こうして改めて見ると──本当にこの世界は、いや、この国は美しい。


 『カガリス様、ありがとう。最高の贈り物だよ!』

 《そうか、そうか。そりゃあ、よかった》



 今世のオレっちの故郷、小獣人の国、ビスケス・モビルケ。そして、ウルドラシルに覆われた自然豊かな美しい街、マルガナ。

 魔素光の、どこか懐かしい優しい光が、オレっちの胸を締め付ける。


 どうか、どうか、この平和な風景が、永遠のものでありますように──

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