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第百八話 集大成のダンジョンはクソゲー?

 今回のダンス学科による年末イベントのミュージカルは、思っていたよりも忙しかった。なぜなら、民衆モブが使い回されているからだ。


 「くそ〜♫竜人め〜♪毛玉税なんかとりやがって〜♫」

 統一国時代の理不尽を憤慨するモブ。


 「立てよ、小獣人〜♪今こそ独立の時〜♫」

 独立運動を盛り上げるモブ。


 「ビスケス・モビルケに栄光あれ〜♫賢者様〜♪バンザ〜イ♫」

  国が安定したことを喜ぶモブ。


 「巨星墜つ〜♪その名は、英雄♪ビスケス〜♫♪」

 そして、ビスケスがその生涯を閉じた時に嘆き悲しむモブ!⋯⋯前回よりもダンスの踊り分けが大変なんですケド!!


 しかし、ここで弱音を吐くワケにはいかない。年末イベントに出演すると、ダンス学科での評価が高くなり、履修終了に必要な点数稼ぎになるのだ。

 専門学科を一つでも終了させておきたい。頑張らねば!





 「おめぇも大変だな。ワイは、自作の魔法具展示だけで済んだが」

 「キュ?魔法具の販売はしないんですか?」

 自分で言っといてなんだけど、ライブルのアニキが売り子をする姿なんて想像がつかんな。


 「ワイは、他の連中みてぇに一年かけて魔法具を大量に作ってねぇから、売るもんがねぇの。それに、年末イベント前には休んでダンジョンに潜る予定だかンな。ちょっとでも稼いでおかねーと」


 おお。アニキ、冒険者業に戻るのか!


 「も少し休みが長けりゃ、よかったんだが」

 「でも、ここのダンジョンは近場ですから、すぐに入れますよ」

 「まぁな。だが、こっちのダンジョンは久しぶりだからなぁ⋯⋯移動は楽だが、ダンジョン内には苦戦するかもしれねぇ」

 「もしかして──アニキ、()()()の方のダンジョンを冒険してたんですか!?」

 「D級になってからはな。あそこは階層が多い分、財宝や古代のアイテムが多いかンな」


 ビスケス・モビルケには、二つのダンジョンがある。


 一つは、かつて見学に行ったマルガナ内のダンジョン。もう一つは、南方の海辺の断崖にあるダンジョンだ。

 実は、この断崖ダンジョンの方が、冒険者には人気が高い。理由は単純に、ダンジョンの階層が多いからだ。

 大陸の旧ダンジョンのほとんどは十五階層までだが、なんとここの階層は、今のところ二十三階層まで確認されている。そのせいなのか、神々の遊び場は造られていない。


 でも、そもそも神々の遊び場は難易度が高すぎて一般冒険者向けじゃないし、正直、無くても困らないんだよな。


 《困る!旧ダンジョンじゃ面白くねーんだよ!!》

 ハイ、ハイ。中のお方にはね。


 《大体、あそこは前々回の過剰魔素末期に造られた迷走ダンジョンだぞ?しかも、残留思念による無限階層で、千年ごとに層が増えてやがるんだ!》


 『残留思念による無限階層⋯⋯』


 神様の人格コピーのAIか。千年ごとに層が新しく造られるんだな。え⋯⋯ということは──めっちゃ深いんじゃないの!?


 《だがそのせいで、空間環境や魔物、階層ボスが単調になってきて、五階層からは降りる気も無くなる。他のダンジョンのコピー階層みてーな造りだからな》


 五階層からクソゲー仕様なのか。しかも無限階層だから、当然、無限クソゲーってことで⋯⋯地獄?


 『で、でも、冒険者には人気があるみたいですけど!?』

 《だろうな。やたらにアイテムや宝箱が多い。俺たちからすれば、中身はゴミ同然だが。しかも、魔物の個性が無くなって攻略しやすくなってる。加護種どもにはイイんだろうが⋯⋯その代わり、得られる経験値が少なくて、レベルがなかなか上がらねーみてーだぞ》


 そんなマイナス要素があるんかいっ!いや、でもライブルのアニキにはボーナス経験値スキルがあったっけ。だから他の冒険者よりは──けど、元が少ないと意味ないか。きっとアニキは、レベル上げよりも宝箱を選んだんだな。

 それにしても、最後のダンジョンって普通は集大成みたいなモンなのに、なんでまたそんなクソゲーにしたんだか。


 《だから迷走したんだよ。アレを造った奴は、他とは違う斬新なダンジョンを造ろうとしてたんだ。だが、結果的に時間切れになっちまった。だからこの世界を去る時に、己の残留思念を遺していったんだ。⋯⋯もしかしたらそいつは、前回の過剰魔素にも気づいていたかもしれねーが、俺たちとは揉めたくなかったから諦めたんだろう》


 さすがは神の検索システム。そんなことまで解るんだ。ふんふん。諦めた上に、神々の遊び場まで造られたと。⋯⋯なんか気の毒な神様だな。


 《気の毒も何も⋯⋯こーいうのは早いもん勝ちなんだから仕方ねぇ。逆に、俺たちだって、ちょっとの差で先を越されることもあったんだ》


 ⋯⋯。なんか⋯⋯神様の世界って、思ってたんと違うな⋯⋯。

 前世のスーパーのタイムセールを思い出す。事前に知らないで店内に入った途端に聴こえてくる、セールの声。あわてて行ったら、すでに完売。あと少し早く入店していれば⋯売り場の近くにいれば!──って感じ?


 《んなもんと、一緒にすんな!》





 ◇◇◇◇◇


 今年は、去年とは違い、二日目と最終目にミュージカルを公演することになった。

 それとは別に、オレっち──今回は助っ人として農業学科の売り子を初日に担当することになっていた。今はまだ学科の生徒ではないが、いずれ入る予定なので、今から顔なじみになっておこうというワケ。


 ということで、初日、二日目、最終日は予定有りだが、三日目だけは暇だった。

 それを聞きつけたリリアンが、日給一万ベルビーで、服飾学科の売り子をして欲しいと頼んできた。今年は、イベント期間中でも商品を作ることにしたらしい。なんでも細部にまでこだわり過ぎて、ノルマ分の商品が完成しなかったのだと。


 どうしようか悩んだが、ミュージカルは二日間とも午後からなので、他の学科ブースは午前中に見学できるし、ここはダンジョンへと旅立ったライブルのアニキを見習い、小銭を稼ぐことにした。




 そして迎えた、年末イベントの初日──


 農業学科ブースでは、米や麦、そして野菜や花が飛ぶように売れた。

 マルガナ市内の店の半額近い値段と新鮮さ、珍しい品種のものもあるので大量買いが多い。学生たちは、親から借りてきただろう魔法鞄(マジックバッグ)に、ドンドン詰めていく。


 特に、農業学科の作物を食べさせて大事に育ててきた鳥魔獣の卵なんかは、市販じゃ高級鶏卵だから、ここぞとばかりに買われていく。

 生徒の買い物というより、親に頼まれての買い物って感じだな。


 「いや~、売れたな〜!売り込みトーク無しでも売れるから、ほとんど会計だけだったし!」

 「そうね。タロス君、計算が速いから助かったわ〜」

 「お疲れ様!交代するね!」

 メビー先輩&セーラに売り場を任せ、う〜んと背伸びする。


 そりゃあ数が多くても、所詮、足し算と引き算だからね。あと、忙しくて大体の数で大雑把に計算していた時もあったから──って、これは言わんとこ!

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