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第百六話 ダンジョンのレベルは別なんです

ライブルのアニキの話し方は、方言っぽい標準語です。

 「⋯で、タロス。おめぇ、農業学科に入んのか?」


 次の日、ヤマアラシ⋯ではなく、ライブルのアニキがオレっちに声を掛けてきた。

 アニキは、全然怖い人ではなかった。むしろ、つぶらな瞳のなかなかのイケメンで、気さくな人だった。


 『ワイの後ろに立つんじゃねぇ!』発言は、冒険者時代(三ヶ月前まで)の名残りらしい。

 なんでも、ダンジョンの魔物の中には人に擬態して背後から襲ってくるモノもいるそうなので、地上に戻っても、過敏に反応してしまうのだとか。

 そんなとこも含めて尊敬しているライブルさんを、オレっちは『アニキ』呼びしている。

 最初はヤメロと言われたが、丸一日呼び続けると普通になった。


 最初は先輩呼びがいいかと思ったが、レベルクラスは同じで専門学科も別──そうなると、先輩とは定義が違うので、歳上=兄貴にした。そういう意味ではアランも該当するが、尊敬の『そ』の字も無いので、コッチは常にタメである。


 「それが、その⋯⋯思っていたよりも大変な作業だったので、時間的にも体力的にも無理でした⋯⋯」


 オレっちは、農業をなめていた。

 畑を耕す→種を植える→水を撒く→収穫する⋯などと、単純な考えで学べる学科ではなかった。


 なんというか⋯⋯広い畑を動き回る体力も必要だが、知力の方もかなり必要だったのだ。

 セーラから農業用の魔法具や魔導器だけでなく、肥料や作物の種などを見せてもらったが、どれも種類が多過ぎて、名称を覚えるだけでも大変だったのである。

 つまりオレっちは、基礎の基礎から始めないといけないワケで──


 めっさヘコんだ。セーラからは『初心者だから仕方ないわよ』と慰められた。ついでに、まずは本で勉強することから始めたら?と助言され、とりあえず、図書館で農業の専門書を借りることにした。


 「だろうな。ワイも運動学科と魔法具学科に入ったが、一週間で運動学科の方は休止にした。今は体力が落ちないよう、自主練だけしとる」

 「アニキは、魔法具学科なんですね」

 意外だな。魔法具作りは魔導回路は単純だけど、結構、チマチマした細かい作業なのに。


 「魔法具は魔導器より複雑じゃねぇかンな。構造さえ解れば自分一人でも作れるし、何より、費用が浮く」

 「なるほど!」

 ベルビーの節約ためか!


 「いいか。冒険者の装備は、劣化が激しい。魔導器はともかく、魔法具なんかはほぼ使い捨てになる。新しい物を買うのが一番だが、それなり値段はする。そうするとダンジョンで稼いだ金も、実質、半分しか残らん。だから自分で修理できるだけでも、かなり節約できる」


 だよね。どんな装備品でも、新品は高いし。ん?装備品?


 「アニキの装備って、どんなのなんですか?」

 「ワイは、腹や手足に、魔法具で軽くした魔素金属製の蛇腹装甲を着けとる。頭や背は自前でエエが、他は弱いかンな」


 ⋯⋯ということは、オレっちだと全身装備が必要だから──尻尾まで入れると、ヤバイくらいの装備費用がかかるのでは!?


 《いらねーだろ。少なくとも旧ダンジョンなら俺がダメージを無効にしてやれるしな》


 それもそうか。⋯って、そもそも、カガリス様が憑依した状態でもオレっちのレベルが上がるの?それに、レベルだけ上がってもカガリス様がいなくなった後は──ヤバくない!?


 《あ~、確かに経験値がカウントされねぇかもな。だったら、俺が魔物を残り僅かなHPで生かしておくから、オメーがトドメを刺せ》

 『⋯⋯』


 え~と──なんか、前世の有名ゲームの主人公を思い出すなぁ。

 あんまりにも非力すぎて単独で敵を倒せず、周りの強いキャラが敵のHPをギリで残してトドメだけ主人公にさせて、地味に経験値を稼いでたっけ。

 そうそう、ドーピング的なアイテムも、ほとんどそいつにつぎ込んだ。

 だってそうしないと、ファ◯シ◯ン使えなかったし⋯⋯

 アレと一緒か。


 そう考えると、なけなしのプライドが傷つく。しかも、オレっちのステータス画面のレベルが上がるワケじゃないし。

 上がるのは、ダンジョン内での()()()()()()()レベルだけだ。この世界、レベルつーのは、本来、ダンジョン内だけの仕様だから。


 ウルドラム大陸各地のダンジョンは、獣神殿とは別の特殊なステータスを出すシステムがある。

 通常のステータス画面では出ない冒険者レベルが、表記されるのだ。(通常のステータスでもレベルが表記されてるオレっちは、例外)


 最初は皆、レベル0からのスタートになる。だからこそ、初心者(Gランク)はレベル3までギルド職員に補佐してもらえるのだ。

 ちなみに、この補佐専門のギルド職員とは、短期契約で臨時職員になった元冒険者やEランクから上の現役冒険者たちのことである。


 ダンジョン二階層は、レベル0でも倒せる魔物がいる一方、レベル6ぐらいでないと倒せない魔物もいるから、まず逃げることから学ぶらしい。

 ライブルのアニキも、最初は強い魔物の見分け方とその場での対処、逃げる場所などを教え込まれたという。


 臨時職員が補佐してくれるうちはいいが、それが終われば、自分自身とパーティーメンバーを頼るしかない。それを解らせるために、初っ端からわざと強い魔物のエリアに連れて行き、自信ありげな初心者の心を折ることもあるという。


 アニキは、お父さんが冒険者だったから、その点は最初から理解していたつもりだったらしい。でも、そのお父さんに直で学んで体を鍛えていたから、そこそこの自信があったそうだ。

 しかし、実際に強い魔物を目の前にした時、それは一瞬で吹き飛んだという。


 魔物からの大きな一撃がきた時、魔法防御が役に立たず、あっけなく吹き飛ばされたのだ。

 お父さんのスキルで事なきを得たが、実際に段違いの力ってものを体験した時、頭の中が真っ白になったそうだ。

 『あれほど聞いたオヤジの教えの一つも思い出せンかった』──と、アニキは苦笑していた。


 メロス姉のニオさんも、冒険者が一番怖くて、それでいて記憶に残る階は、二階層だって言ってたっけ。

 激弱な魔物ばかりの二階層が?⋯って、オレっちは不思議だったけど、よく考えてみれば、それはゲームの話であって、実際には二階層から命のやり取りになるんだから、当たり前なんだよな。装備だって貧弱だし。


 オマケに、体力があり魔力が高い者でも浅い階のダンジョンで苦戦するのは、低レベルの魔物でも個性があるからだと言われている。ステータスは同じでも個別にクセがあると、同じように倒せない時があるからだ。

 あの圧倒的な戦闘能力を持つ竜人でさえ、時には浅い階層で殺られることもある。しかも、竜体化した後の状態で。


 腐っても神であるカガリス様には、ダメージゼロの、ただ通り過ぎるだけの旧ダンジョンかも知れないが、オレっちたちには、階層が深くなる度に死が近くなる地獄なんだよな。

 魔物素材やたま〜に宝箱や聖遺物が見つかるから、その地獄巡りをやめられないんだけど。

 神々の聖遺物はともかく、魔物から逃げ込んだ先で宝箱を見つけた冒険者の話もあるから、つい庶民は、夢見ちゃうんだよ。


 今のオレっちは、金よりも自分を鍛えたいって願望の方が強いけど、もしライブルのアニキのように家が困窮することがあったら──

 そう考えると、学校を休学してまで冒険者にならざるを得なかったアニキには、是非とも宝箱を見つけて欲しい。



 《俺なら今すぐにでも金を用意できるぜ?そいつの枕元にでも置いておこうか?ククク⋯⋯》


 ⋯⋯カガリス様って、案外、単純だよなぁ。

 フツーに考えて、朝起きたらいきなり枕元に金があるって、ホラーなんだけど。しかも、出処のわからない金なんて、怖くて使えんわ。

 実際、どこからか盗んでくるんだろうし。


 うん。第5を卒業したら休学して、冒険者になる!そして、アニキと一緒にダンジョンに入って──偶然を装い、カガリス様の持ってきた宝箱を発見する!実に自然な流れ!──完璧だ!!


 《単なる仕込みだろ。オメーって、本当にプライドねぇのな。まず、普通に冒険しながら魔物を倒せや⋯⋯》

 ごもっとも!

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