第百五話 農業学科の見学
カガリス様視点→タロス視点です。
☆ カガリス視点 ☆
初っ端から怒鳴られたのに、タロスのヤツは嬉々として、ヤマス・トームの眷属──ライブルっつーヤツに、ダンジョンの話を訊きまくっていた。
わざわざ他人に訊かずとも、自分でダンジョンに入ればいいだけの話なのにな。そう言うと、年齢だとか冒険者登録だとか、面倒な手続きがあるとかで、無理なんですっ!と、叫んでいた。
⋯⋯俺たちがこの世界にいた時代じゃ、普通の娯楽場だったんだがな。特に旧ダンジョンなんかは準備運動ぐらいの難易度で、最下層のラスボスでさえ、ヌルかった。
アレを造った奴らは、さほど名のある神族ではなかったらしい。ダンジョンを見る限り、どこの層も実験的な部分が多く、試行錯誤の痕が多数あった。造り慣れてないのがバレバレだ。
しかも、魔物の戦闘能力の低さから考えると、人間用に造ったものらしい。素人が趣味で造ったって感じか?
そもそもダンジョンと呼ばれる多層亜空間を発明し、最初に造ったのは、✕✕✕✕✕の奴らだ。
先行的に繁栄していた奴らは、下位世界に降りた際、神力による再構成だけでなく、恒久的魔素循環システムや大規模亜空間維持なんかを、星ごと実験場にして開発していた。
だが、それらの研究は、結果的に多くの星を消滅させることになった。
特に亜空間の実験は、次元の歪みを誘発してしまうからな。さすがに神族間で問題視され始めた頃、奴らは、ある出来事でアッサリと自滅した。アレには、さすがの俺も驚いた。
その後、俺たちを含めた他神族が、奴らの研究成果をパク⋯いや、参考にしてダンジョンと呼ばれる多層亜空間を下位世界に造り始めた訳だが⋯⋯
まあ、そんな昔話はどーでもいいか。問題は、前は自由に出入りできたダンジョンが、加護種どもによって管理され、面倒くさくなっちまったっていう事だ。
さすがの俺でも、この通常次元からダンジョン内の亜空間まではダイレクトに転移できない。イラッとするが、タロスがギルドとやらで冒険者になるまでは、我慢するしかないだろう。
それに今のところ、肝心のあの方に関しての情報がまったく掴めていない。焦って他の連中に知られるのもマズイしな。時間は掛かるが、確実な方法としては、これがベストなんだろう。
それに、意外なことにタロスの学力レベルは、思ったよりも高かったようだ。第4とやらの授業がさほど難しいとは思わなかったようで、本人も驚いていた。
だったら早く上に行け!っと言うと『基礎はしっかり身に着けないと!』⋯などと、ぬかしやがった。どーせ、友人とやらと学生生活を長く楽しみたいだけだろうが。
ま、俺も毎晩、酒蔵で楽しんでるがな。
「──であるからして、古き神々のお姿は、多様性の象徴でもあり──」
お。神獣学とやらか。ククク。また随分とイロイロと改変されてるな。そもそも俺たちの姿は、自由自在に変えれるし、固定されてないんだぜ?
だから獣型や人型、極端な話、最近じゃ◯とか☆だとかの記号型の姿のイカれたヤツらもいる。サイズも大小様々だしな。その時々の流行ってのもある。その際、参考にするのが、下位世界の進化した多種多様な生物たちだ。
俺のこの姿も、少し前に流行った動物型の一種を参考にして造った。なんつーか⋯⋯尻尾が気に入ったんだよな。このクルンとしたとこが。
花は、たまたま長寝してた時、俺たちの世界の花の種が根付いちまって、起きたら頭の天辺に花が咲いてたんだよなぁ。それもなんとなく気に入って、アレコレ種を付けて神力で改良したら、いつの間にかこうなって──
『また随分と派手になったものね、カガリス。でも、少し盛り過ぎじゃない?私なんかオシャレだけど、スッキリしてるでしょ?シンプルこそが最先端──そう、思わない?』
⋯⋯シィーマ・リースめ。何がオシャレだ。タダの縞模様じゃねーか。完全な手抜きだろ。
俺はもう若くねーから最先端なんて、どーでもいいんだよ。
おっと、話が脱線しちまったな。ん?何だ?タロスのヤツ、外に出るのか?
◇◇◇◇◇
「農業学科の花の栽培場所?花でも野菜でも、魔牛車で移動することになるけど⋯⋯」
「田畑は、獣学校の奥の奥だもんな」
オレっちは専門学科へと向うセーラを呼び止め、農業学科の見学をさせてもらおうとした。すぐに入るよりも、まずは実際に見てそれから判断しようと思ったからだ。
「見学だけならいいけど⋯⋯今の時期に入っても、作物の収穫しかさせてもらえないわよ?年末イベントが近くて忙しいからね」
あっ!そうだった!野菜や花の大売り出しがあった!
前は買う方だったけど、農業学科に入ったら売る方になるんだ!それはそれで面白そうだけど⋯⋯野菜の収穫って、スゴい重労働だったような⋯⋯
「まあ、収穫から覚えてもいいかもね。タロスは風と土の属性持ちだし。あ、水もあったっけ?」
「うん。⋯⋯ショボいけどな」
風はともかく、土と水はレベル2だもん。(最新ステータス)
「それは大丈夫。魔法具や魔導器で補強できるから」
農業用の魔法具と魔導器!そうか、前世みたいな農業専門の機械があるんだ!!トラクター?まさかの自動収穫マシン??
なんか、ワクワクしてきたな!
『ブモー!』
ドキドキ、ワクワクしながら、セーラや他の農業学科の先輩たちと魔牛車に乗り込むこと十五分──これ、徒歩だと三倍ぐらいの時間になるよね?
もはや学校の敷地内というよりも、一つの独立した町の中に学校があるって感じだな。
魔牛車を降りて、大きな木造の建物の中に入って行くセーラの後を追う。
魔牛車から見えた外の風景は、水田や野菜の畑ばかりで、花畑は見えなかったんだけど⋯⋯。
「あらぁ、セーラ。その子は?」
最初に入った部屋には、すでに数人の生徒たちがいた。その中で一番手前にいたスズメ似の鳥獣人の女性が、セーラに声を掛ける。
「お疲れ様です、メビーさん。彼はタロスといって、見学希望者なんです」
「お、お疲れ様です!オレは第4レベルクラスのタロス・カリスです。今はダンス学科に在籍していて、専門学科を増やすかどうか悩んでおりまして⋯⋯」
「あたしはメビー・チュン。よろしくねぇ。だけど第4だと、基礎学科が昼まであるからねぇ。第5まで待った方が、良くない?」
あ~、やっぱそうだよね〜。どうしても時間が足りないもんね〜。
第5は、統一国語の学科が無くなって、数学、歴史、地理、神獣学の4教科のみになり、三時間授業となる。だから、専門学科も最低二つは入らないといけない。
ちなみに、第6からは数学と地理も無くなる。そして、基礎学科は二時間に短縮。この頃になると、三つぐらいは専門学科に在籍する者が多くなる。
第8からは、残りの歴史と神獣学も無くなり、結局、最後は専門学科だけになるのだ。
神獣学が最後まで残るのは加護種の性だが、歴史の方の理由は、古き神々の時代から現代に至るまでの歴史が、数万年にも及ぶからだ。とにかく長い。それにしても、よくできたカリキュラムだよな。
《そりゃ、某世界のとある国のシステムをパク⋯いや、参考にしたものだからな!》
『え!?カガリス様の時代にも、学校ってあったんですか!?』
古き神々の時代って、遊んでばっかか、戦ってるイメージしかなかったんだけど!!
《旧世界の文化の幾つかは残したからな。今も昔も、眷属どもは真面目だよなぁ。実際の生活に役に立つかどうかも分からない知識を、何年もかけて学ぶんだから》
⋯⋯これだから、高位世界のお方は⋯⋯そりゃ、神様は全員チートだからね。チマチマ学ばなくても、自然に知識を得る方々だし!!
でも、いいんだ。その反面、神様は学生生活という輝かしい青春を送れないモンね。
オレっちの青春は、これから本番!──と、その前に、見学、見学っと!




