第百四話 ワイの後ろに立つな!
「あれ⋯?えっ、モブラン先生!??」
進級初日、オレっちは自分でも驚くほどの大声で叫んでしまった。だって、だって──
「ちょうどリブライト先生に第2か第3を任せる話が出ていたから、私も異動しようと思ってね。それで今回、第4レベルクラス、13組の担任になったというわけだ」
「そ、そうでしたか⋯!」
進級申請してから約三週間──年末まであと一ヶ月と半月時点での進級だった。
エイベルたちと新しいクラス前で先生を待っていたら、まさかのモブラン先生の登場──不意打ちのような再会に、皆、目を見開いて先生を凝視してしまった。そして、すぐさま叫んじゃったオレっち。
「事前に言ってなかったから驚いたよね?それとも、新しい先生の方がよかったかな?」
「いえ!驚いたけど──モブラン先生でいいです!!」
「う、うん〜!よかったです〜!」
「安心しました〜!」
「私もッ!」
「俺も」
他の皆もモブラン先生を取り囲んで、歓喜した。
「うん。僕も、今回進級してよかったよ。また、お世話になります、モブラン先生」
「君もせっかく第4レベルクラスに上がれたんだから、居眠りしないようにね、アラン君」
そう。モブラン先生の前に驚いたのが、このアランの進級だった。アランは誰にも言わずに、こっそりと申請していたらしい。
これは推測だが、おそらく進級できる確率が半々だったからだろう。こればかりは本人の希望通りにはいかないからな。
結局、オレっち、エイベル、メロス、ボビン、セーラ、ニジー、リリアン、アランの八名が、第4レベルクラス、13組へとまとめて編入された。
第3に残してきたアレイムとヒンガー⋯⋯いや、その他のクラスメイトたちも、アランの進級にはさぞかし驚いた事だろう。そして、ヒンガーは安心したはずだ。
アランが進級できるなら、自分にもできると!
◇◇◇◇◇
「ふむ。一通り、自己紹介は終えたね。では、各自、空いている席に座りなさい」
モブラン先生自身の自己紹介も含めての挨拶が終わると、オレっちたちは空いている席──一番先頭の三席にセーラたち女の子組の三人、中間の三席にオレっち、エイベル、ボビンが。一番後ろの席の左右に、メロス(窓際)とアラン(廊下側)が着席した。
ふ~ん。これが新しいクラスメイトか。そーいや、結局、フェンリーやエメアとは同じ組になれなかったな。残念。
食堂では顔を合わせることもあるけど、向こうも第4の新しいクラスメイトたちと一緒だから、もう挨拶ぐらいしか交わせないし。
まあ、オレっちたちも新しい友人ができるだろうから、そっち優先なのは仕方ないケドね。
13組にはすでに20名ほどいたが、その年齢は第3レベルよりも幅広かった。
さすがにオレっちよりも歳下はいなかったが、アランと同じ歳ぐらいや、それよりももっと上の子もいた。
最年長は、ヤマアラシっぽい見た目の男子。ステータス画面だと、すでに19歳だった。14歳から五年近くも休学していたらしい。
名前は、ライブル。加護種名は──ヤマスか。えっ、すでにD級下位の冒険者なの!?
初心者は、冒険者ギルドの職員がサポートするG級からスタートだから、F級とE級をたった四年で通過したって事だよね?早過ぎない!?しかも、二人だけのパーティー⋯⋯いや、コンビか。
HPとMPは平均的だけど、スキルが多い。
体毛硬化はもちろんだけど、攻撃系の技が──ん?このボーナス経験値って何!?
《ランダムに発生するプラスアルファの経験値の事だ。ほとんどは僅かなプラスだが、まれに倍になる時もあるようだな。もちろんダンジョン内のみでの、特殊スキルだが》
⋯⋯どうも気を引き締めないと、カガリス様に聴こえちゃうみたいだな。今みたいな時は助かるけど。
それはともかく、だからライブルは短期間でD級になれたんだな。お?相方がB級の冒険者!?あ、そっちのサポートもあったんだ!
ふむふむ。B級上位の冒険者であった父親が、五年前にダンジョンの九階層で死亡──それ以降、母が一人でライブルと幼い弟、そして祖母を養っている。しかし、家計は苦しく、見かねたライブルが冒険者になった──と。⋯⋯結構、重いな。
相方は父のパーティーメンバーの一人で、ライブルがD級に上がった時点で、コンビを解消。せめて第5レベルクラスを卒業しろと、獣学校に復学するよう促す⋯か。実際は、母親に頼まれたみたいだけど。
え~と、今回も長い記載だな⋯⋯ほう。本人は早く第5を卒業したいと思っているが、前回のテストで惨敗。進級どころか第3レベルクラスへの降格が濃厚──アカンやんけ!
唯一の救いは、獣学校に戻ってる間はD級保持が許されているって、とこか。それだったら、夏休みにダンジョンに潜ることもできるしな。
ライブルが冒険者として稼いだベルビーの残高は──約一年分ぐらいの生活費か。そりゃあ、焦るわな。
でも、ライブルとは仲良くなりたい。現役の冒険者だし、体験談とかも面白そう。まずは声掛けだな。
オレっちは、最初の授業が終わって窓際のメロスと少し話した後に、ソロ〜と最後列中央の席のライブルの後ろに回り込んで背後から声を掛けようとした。その瞬間──
「ワイの後ろに立つんじゃねぇ!!」
ライブルの首周りと背の灰色毛が逆立ち、鋭利なトゲと化した。
そ、そのセリフ──まさかの、デューク◯郷!?
《誰だ、それ?》




