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第百二話 いつもと違う秋の大祭

後半、ミンフェア視点です。

 「チルルーさん!」

 「タロス君!」


 ガシッと両手で握手する。秋の大祭の一番手と二番手の真っ白コンビの、約一年ぶりの再会だ。

 そして、この日だけは、ノー、カガリス様デイ。絶対に話しかけないと約束させた。


 「ふわぁ⋯⋯マルガナの遊園地は、大きいっチ!」

 マルガナ最大の遊園地は、ウルドラシルの森でもある。巨木の群生地だから、当然、広い。遊具などもこのウルドラシルを利用した乗り物が大半だ。


 「一応、首都内ですから。今は秋の大祭前の閑散期だから、そんなに混んでないと思うけど⋯⋯」

 「そうっチ?ところで⋯⋯タロス君、太ったっチ?」


 ギクッ!!


 「⋯⋯ちょっと⋯⋯夏休みに食べ過ぎたみたいで⋯⋯」


 そう。今年の夏も、オレっちは太った。当然、ダンスのキレも悪い。しかし、今回は誰にもダイエットを強制されなかった。

 レキュー先生は本業でお休み。ミンフェア先輩は──何故か夏休みが明けても、ダンス学科に姿を現さなかった。


 よって、痩せろコールは何処からも聞こえてこない。しかし、外野がうるさくない分、自主的にダイエットしようと決意した。結局、最終的に困るのは自分だしな。

 実はダイエット二日目なのだが、今日だけはサボろうと思う。ちなみに獣学校もサボった。秋の大祭前の猛特訓ということで。

 同じ大祭仲間であるアレイムも誘ったが、『ボクは、授業についていくのが精一杯だから⋯⋯』と、やんわり断られた。真面目やね。


 ちなみに、いつもなら誘うハズのエイベルには言えなかった。何故なら『大祭の猛特訓〜、頑張ってね〜!』と、先に言われてしまったからだ。めっちゃ、後ろめたい。

 さて、それはともかく。


 「今日は、二人で思いっきり楽しみましょう!」

 「は〜、どれから乗ろうか迷うっチ!」


 意外と乗り物好きなチルルーさんと共に、園内の遊具を乗りまくった。

 観覧車、空中ブランコ、メリーゴーランド、パイレーツ──厳密にいうと、どれも魔導器なので、前世の物とは微妙に違う。

 例えばジェットコースターぽい魔導器なんかは、レールが無く、宙に浮いた魔素金属の板の上に座席を置いただけの高速移動する乗り物なので、近いような遠いような⋯⋯ただ、ウルドラシルとウルドラシルの間を通り抜け 、時折、下から上、上から下へと太い幹周りを螺旋状に高速旋回するところは似てるかも。


 「楽しかったっチ!でも⋯⋯明日からは、秋の大祭の練習だっチ!」

 「舞い方は憶えてても(大雑把になんとなく)、皆とのタイミングの合わせ方が、いつも大変なんですよね〜」

 「メンバーの入れ替えもあるっチ。⋯⋯ボッチたち一番手と二番手は無いけど⋯⋯」


 うん、無いな。オレっちたちは、確実に消えゆく加護種だもんね。──ハッ!?

 もしかしたら⋯⋯ミンフェア先輩は──引退!?新たなるフェアリー獣人の若手と交代したのか!?


 そうか。だから、姿を見なかったんだ!⋯ということは、ダンス学科でも会わないということで⋯⋯。ま、そもそもミンフェア先輩は、第二ダンス教室の生徒だもんね。ちょいサボり気味だったけど。


 そうか、そうか。いやー、めでたい、めでたい!


 「じゃあタロス君、また明日っチね!」

 「うん!また明日!」


 オレっちは、ニヤニヤ⋯ではなく、ニコニコと笑顔でチルルーさんとお別れした。

 ミンフェア先輩⋯⋯イロイロあったけど、いざ疎遠になると思うと少し寂しい気が──しないな!まったく!!






 ◇◇◇◇◇


 「何よ、その顔?」


 いた。ミンフェア先輩とフランシアさんが。え⋯引退してなかったの!?


 獣神殿内での練習前、オレっちは、チルルーさんにアレイムを紹介をしていた。そこにミンフェア先輩たちが登場したのだ。


 「え、え~と⋯⋯いつもの顔ですケド!?それよりミンフェアさん⋯⋯髪が⋯⋯」

 練習場所に現れたことにも驚いたが、ふわふわロングだったミンフェア先輩のローズピンク髪が、バッサリと肩の上辺りで切られていたことにも驚いた。


 「ああ、コレね。ちょっとした気分転換よ!」


 気分転換で髪を切る⋯⋯もしかして、失恋したから?いや、でもそれは数ヶ月前の話だし⋯⋯う~ん、夏休みの間に、再度、高速恋愛→瞬間破局でもしたんだろうか?


 《なんだ?この翅持ち女に気でもあんのか?》

 『あるか!!』

 死んでも無いわ!!


 《ふ~ん。しかし、アムルダリアとハルワダルトの眷属がまだいたとは。驚いたな。アイツらはとっくに──》

 『とっくに?なんです?』

 《いや、いい》


 それっきりカガリス様は黙ってしまった。なんだかモヤッとしたセリフなんですけど。


 「それよりタロス。アンタ、また太ったのね。毎年、毎年──一体、どんな夏休みを過ごしてんのよ!?」

 「え~と⋯⋯旅行太りってヤツでして」


 暴飲暴食ではないんだけど、カロリー高めの食事が多かったから⋯⋯


 「もう今からじゃダイエットしても間に合わないわね。⋯⋯まあ、ある程度踊れればいいんじゃない?」

 アレ?なんだかいつもと違うな。死ぬ気でダイエットしろって言わないなんて⋯⋯逆に怖い!


 




 ◇◇◇◇◇


 ☆ ミンフェア視点 ☆


 タロスは、あいかわらずタロスだった。あのコはどうして夏休みが終わると、一回りお肉が増えるのか⋯⋯。

 いつもならレキュー先生と一緒に強制ダイエットをさせるところだけど、今回はその気にならない。


 例年通り、私は夏休みに入ると、加護人の国──アメジオスのおばあ様の家へと向かった。アメジオスは、私の生まれ故郷でもある国だ。

 ビスケス・モビルケ生まれのフランシアとは違って、私は物心つく前に画家であるパパと美容師であるママに連れられ、アメジオスからこの国へと移住したのだ。


 幼い頃は、周囲と自分の姿があまりにも違うことに衝撃を受けた。

 小獣人の愛らしいモフっとした体は、どれも素晴らしく見えたものだ。それと同時に、ツルツルの自分の白い腕や足を見て『私って⋯⋯もしかして不細工!?』⋯⋯な〜んて、悩んだ時期もあったっけ。


 でも、獣学校に入学する前にアメジオスのおばあ様の家に滞在した時、多くの加護人と自分を比べて、平均より上──エルフ並の美しさがあると自覚したのよね。

 自惚れじゃないわよ。だって、私の顔とそっくりな同じアムールの加護種であるおばあ様は、加護人やエルフの男性から、とても愛されていたもの。


 『モテすぎて、結局、一人だけを選べず、誰とも結婚はしなかったのよ。アナタのおじい様は、リマリア(ミンフェアのママ)の顔からして、あの人だとは思うんだけど⋯⋯』


 母と変わらぬ⋯⋯いや、母よりも若く見える顔で、おばあさまはそう言った。

 そうだ。私は美しい。美しくモテモテのおばあ様と同じ顔なのだから。

 小獣人のような愛らしさは無いが、人目を引く美しさはある!


 初めて秋の大祭の舞い手に選ばれた時は、嬉しかったけれど、とても緊張した。小獣国中に生中継されるんだから。

 でも、そこでフランシアとも出会えたし、数少ない希少種たちを間近で見ることもできた。

 そして、回数を重ねるごとに緊張はなくなって、それどころか、目立つことが段々と楽しくなってきた。

 本当は先頭の一番手になりたかったけど、チルルーとかいう白くて丸い鳥獣人の子が常に一番手。私は二番手だった。

 こればかりは仕方がないと思ったけれど、ある年、頭に花を生やしたカリスという加護名の子が、一番手になった。


 正直、一番手じゃなかったら二番手でも三番手でも変わらないから、それはどうでも良かったのだけど──このカリス⋯⋯

 真っ白な毛に黒い大きな瞳──クルンとした尻尾。そして、見たことのない珍しい花の花冠──外見は素晴らしく愛らしかった。だけど⋯⋯中身がね。


 初参加で、しかも一番手なのに不安そうな顔もしてないし、緊張もしてない様子が不気味だった。何より本番で魔笏を落とすだとかコケそうになってるとか──あり得ない!!

 だから、その一年後、そのあり得ない子に舞を教えることになるとは、思いもしなかった。


 まあ、それはもういいとして。

 タロスは所詮、格下の弟子。好みとかいう以前の守備範囲外。

 そう、好みと言えば──私は今年の春、初恋だと思った人に告白し、約一ヶ月後にフラれた。

 その人はアメジオスからの留学生で、今年、私と同じ第5レベルクラス、6組へと編入してきた加護人だった。


 『ミンフェア。君は、僕が思ってたイメージとは違うみたいだ。──さようなら』

 サラサラの直毛黒髪に紫の瞳の──完璧に整った美しい顔を無表情にしたまま、一方的に別れを告げられた。


 ショックだった。でも──確かに彼とは性格が合わないかも⋯とは、私も薄々思っていたのだ。

 所詮は顔だけの一目惚れ。

 なんせ、話題は常にこちらから振らねばならなかったし、流行のファッションの話をしても無反応。何より決定的だったのは、彼は犬獣人派で、私が猫獣人派だった事だろう。


 そして、今回の夏休み──アメジオスで知り合ったエルフにも速攻でフラれた。


 『ミンフェア。君は、自分本位過ぎるね』

 長い白金髪に翠の瞳の──エルフらしい怜悧な美しい顔を曇らせて、彼はそう言った。


 どっちが!!っと叫びそうになったが、冷静さを装い、『そう⋯』とだけ答えて別れた。

 エルフだけあって尊大で上から目線な性格も含めて好みだったが、我の強い私はそれに負けじと、強引に振り回した結果、こうなった。


 ⋯⋯二回ともタイミング的に失敗した。私から別れを告げるべきだったのに、相手に先手を取られた感じだ。

 なんだか悔しくて、思いきって髪を切ってみた。切りすぎて、少し⋯いや、かなり短くなってしまったけれど。

 しばらく、誰ともつき合わないでいよう。どうやら今年は、恋愛運が最悪な年みたいだから。



 それにしても──タロスとチルルーと⋯⋯アレイム?だったかしら。いつの間にか、三人仲良くなっちゃって──カワイイじゃない。さすがは希少な子たちね。

 そうそう希少種といえば──去年、パパがタロスをモデルにした絵をたくさん描いて、アメジオスの画商がそれを全部買取っていったっけ。あっちやウルドラなんかじゃ小獣人の絵は人気があるし、パパは基本、小獣人しか描かないから⋯⋯

 まあ、私とママの絵は、別だけどね!

 






 ☆ 補足 ☆


 ミンフェアのパパは、幻妖系の加護人です。小獣人専門の画家で、様々な小モフたちを描きまくっています。瞬間記憶保存スキルを持っているので、過去に見たものをそっくりそのまま描くことができ、当然、映像で観ただけのタロスも、ササッと描いていました。


 ミンフェアのママは、第三の眼を持つ加護人です。

 エルフ並に魔力が高く、かなりの長命。ビスケス・モビルケでは小獣人がお客様なので、彼女の仕事風景は、美容師というよりもトリマーっぽいです。

 ミンフェアママの母親──ミンフェアの祖母は、アメジオスの映画女優です。蝶の翅を持つアムールの華やかな見た目を活かした、年齢不詳の美魔女。


 ミンフェアは、自分のことをしっかり者の面倒見のいい性格だと思っています。しかし、自分の悪い面、ワガママで短気なところは自覚していません。ちょっと気が強くておしゃべり好きだと思っている程度です。

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