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第百一話 強引な神様

 「⋯⋯なんだか寝ても、まだ眠たい⋯⋯でも、お腹減った⋯⋯」

 起きて感じたのは、強い眠気と空腹だった。まだ夏休み中なので昼過ぎまで寝ていたのだが、それでもお腹を満たすと、すぐに眠くなった。

 花冠のポピタンが咲いてからは自己治癒のおかげで、体調を崩すということもなかったのだが──眠さだけはどうしようもない。仕方ないので二度寝した。





 「──無い!オレのベルビーが無い!!」


 夕方になって再度起き上がった時、旅費の残りである1000ベルビーをリス型貯金箱に入れようと持ち上げた瞬間、あまりの軽さに驚き、ケツの穴──ではなく、底の蓋を開けてみた。

 ベルビー消失──ショックの余り、貯金箱を床に落としてしまう。樹脂製なので割ればしないが、リスの顔がうつ伏せになり、なにかの殺人事件のような絵面になってしまった。⋯って、いや、それどころじゃないやん!!


 「なんで!?4000ベルビー以上はあったはずなのに!?」


 無駄遣い防止ということで、先々月からギルド便りでさえボビンに借りることで節約してたのに⋯⋯ハッ!?まさか!!


 『カガリス様!!オレのベルビー、いや、お金を盗みましたね!!』


 オレっちは疑いではなく確信を持って、半泣きしながら叫んだ。だって、あれは、あれは──!


 今年の秋の大祭前に家族でマルガナへとやって来るシマエナガ鳥獣人のチルルーさんと首都内の遊園地で遊ぶための、大事なベルビーだったんだ!

 入園料は半大人料金の800ベルビーだけど、乗り物代はどれも500ベルビーからだし、園内のレストランもそれなりにするから、5000ベルビーでもギリだと思ってたのに!(魔牛車代も含めて)

 ──許せん!!


 《あ~、借りたな。安酒数杯分しか飲めなかったが》


 キイイイィ!!


 しれっと言いやがった!借りた!?盗んだの間違いだろ!?しかも──

 『オレの体を使って、酒場に行ったの!?』

 昨夜、オレっちがベッドで横になってからだから、それから行ったのか!?


 《そこは安心しろ。変身したからな。しかも、その辺のどこにでもいる犬獣人をコピーしたから、カリスでさえねえ》


 なーんだ、よかっ⋯⋯よくねーわ!!体はオレっち、酒代はオレっちのベルビー⋯⋯全部まとめてアウトやんけ!!


 『遊園地が〜!チルルーさんと約束したのに〜!!』


 メロスたちとポラリス・スタージャーにいく前の手紙で、再会の日時と場所──マルガナの遊園地入り口前で会う約束をしていたのだ。今さらお金が無いからとキャンセルする訳にはいかない。

 こうなったら、かーちゃんに──でも、ポラリス・スタージャー旅行から帰ったばかりで、また、お金を無心するのは──


 『このドロボー神!飲んだくれ!!アル中リス!!!』


 オレっちは罵倒した。いくら神様でも許せない。あと、安酒数杯分ってのもムカつく。カガリス様にとってははした金でも、オレっちが節約して貯めた、大事な⋯大事なベルビーだったんだぞ!!


 《⋯⋯オメー、神に対して⋯⋯ま、俺も悪かったかもな。ふむ。じゃあ、金を返してやるよ。しかも、倍返しでな》

 『⋯⋯倍返し?どうやって??』

 カガリス様の言葉に、首を傾げる。


 《そうだな⋯⋯明日には来るだろう。俺が合図したら、裏門に出な》

 『来る?誰が?』

 《俺の下僕だよ。とにかく明日だ》

 『ちょ、ちょっと、カガリス様!?』


 ⋯⋯退室したな。圧が消えた。それにしても下僕って⋯⋯まさか⋯⋯いや、多分、そうだろうけど。


 でも、カガリス様、ちゃんとお金を払ってお酒を飲んだんだな。神力チートでドロボーしまくりだと思ったけど(前科あり)ちょっとは反省してるのか?いや、してたらオレっちのベルビーを盗まなかったはずだし⋯⋯神様の世界の倫理観も気になるけど、アッチではそうした物の売買はどうしてるんだろ?そっちの方が気になる。






 ◇◇◇◇◇


 ☆ カガリス視点 ☆


 何処かで見たようなキノコ型の魔導器照明が、淡い光で店内を照らす。カウンター席の──高級品ではないがセンスのいい脚の長い丸椅子へと腰掛ける。


 「おや。初めて見るお顔ですね?」

 「まあな。今日、ここに着いたばかりなんだ。とりあえず、これで何杯か飲める酒を出してくれ」


 俺は、アイツの貯金箱から拝借した金を店主に見せた。盗みが駄目なら、借りるしか無い──そういうことだ。

 マスターに金を見せたのは、この国の酒の相場がわからないからだ。


 「これは⋯⋯え~と、一、二、三⋯⋯全部で4200ベルビーですか」

 魔法紙が二枚と多くの魔素金属の玉を数えたマスターは、少し考えて、一杯目の酒を出してくれた。


 「このお酒は値段の割には美味しいですよ。マルガナでの最初の一杯記念に、どうぞ」


 おっ⋯安酒──にしては旨いな。ふむ。この黒猫獣人のマスターは、利益よりも客との会話を楽しむ方が好きなのか⋯⋯ほう⋯元C級冒険者で、ダンジョンで運良く当たりの宝箱を手に入れ、それを期に冒険者を引退して店をオープンさせたと⋯⋯なるほどな。


 目の前の酒場のマスターのステータスを一読し、ぐっと酒を飲む。プハー⋯⋯こういう刺激的な感覚は久しぶりだ。


 俺たちの界では物質的な物はなく、全てが神力で構成された形だけのエネルギー疑似物だからだな。ちなみに、その最たるものが俺たち『神』だが。

 神と言っても、下位世界の人間たちの概念とは異なる意味での神──よーするに『自我のあるエネルギー体』なんだが、めんどくせぇから『神』という名称にしただけだ。まあ、上位世界の意思体だから、確かに格上の存在ではあるが。


 カラン⋯

 グラスの中の氷が、音をたてる。ガラス窓に映る俺の今の姿は、何処にでもいそうな赤毛の犬獣人──タロスの肉体を基本とする、神力で再構築した──つまり変身した体だ。


 神力とは、魔力よりも混沌に近い力──完全な無から創造することはできないが、魔素や生物の肉体を含める物質さえあれば、幾らでも造り替えることができる。

 しかし、これだけ魔素が薄い世界だと、多くを造り替えることはできない。この体だって借り物だから、神力をコントロールしにくいしな。


 そうだ。せっかくだから、ダンジョンの詳しい情報でも聞くか。

 タロスの情報だと基礎的なことしかわからねぇ。ダンジョン内は普遍的なモンだからいいとして、ギルドとやらのシステム──特に裏側の方を聞いておく必要がある。



 「⋯⋯なるほどな」

 「お国柄によってそこはね⋯⋯」


 どう見ても冒険者風ではない俺を見てマスターは訝しんでいたが、当たり障りのない表面的な裏情報ならいいかと判断したようだ。

 金のない田舎者が無謀にもダンジョンに挑戦しにきたのかとでも思ったのだろう。ま、俺は酒が飲めればそれでいいがな。

 

 酒か──昔は一番旨い酒といえば、猿王のヤツとその眷属が提供してくる酒だったが⋯⋯今はその眷属も居ねぇんだっけ。アイツは主を持たない派だったからな。

 成り上がりだけあって我も強かったし、戦闘能力も高かったし──まあ、今でも()()()()()で若いもんな。俺は混沌末期に近い生まれの一柱だったから──と、そろそろ戻らないとヤバイな。


 「じゃあ、またな、マスター!」


 少しギイっと軋む戸を開けて、外へ出る。⋯⋯夜明けが近い。俺はすぐさまマヌケなカリスの部屋へと転移した。




 ⋯⋯怒られた。しかも、泣いてやがる。盗みも駄目。借りるのも駄目。どーせぇちゅーんじゃ。






 ◇◇◇◇◇ 


 「⋯⋯夢枕にカガリス様が立たれてな。お前に、小遣いを渡せとおっしゃるんだ。しかも、一万ベルビーだと指定されてな」

 「⋯⋯そう」


 久しぶりの父というカモが来た。

 困惑したカモの顔が面白い。よく分からない神のお告げに、戸惑っているのだろう。

 案の定、下僕=カモだったな。確かに倍返し(以上)だけど⋯⋯なんか素直に喜べんな。つーか、さらに嫌な予感がするのだが。





 ◇◇◇◇◇


 深夜──俺は、この屋敷のある蔵の中に転移していた。ここの主は酒の輸出入だけでなく、自前の酒蔵も持っていたのだ。

 別に盗もうって訳じゃない。少しばかり樽から試飲するだけだ。そう。このズラッと並んだ多くの樽から、少しずつ⋯⋯ククククク。

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