閑話 雨の日のモフは作家を目指す
百話記念閑話です。
タロスが八歳の時の梅雨時設定。塵も積もれば山となる。地味に百話到達。
旧統一国歴✕✕✕✕✕年。
小獣国最後の賢者が亡くなった直後、獣神殿と各有力者の権力争いが勃発し、ビスケス・モビルケは、混迷の時代へと突入した。
獣神殿側はビスケス派と呼ばれ、有力市民側はモビルケ派と呼ばれるようになってから半世紀──モビルケ派に過激な思想家が台頭し、それはやがて、ある独裁者を生み出した。
デメキン・ザービー。すでに志半ばで亡くなった思想家、ジメンノ・ダイコンの遺志を継ぐ土佐犬似の犬獣人である。
『私、デメキン・ザービーは、古き神々への信仰を盾にし、人々を搾取するビスケス派を倒すことを、ここに宣言する!我々は、神殿の奴隷では無い!古き神々の民なのだ!!』
『おおーっ!』
『ジーク・モビルケ!ジーク・モビルケ!!』
犬獣人や猫獣人、鳥獣人──様々な小モフたちが掛け声とともに、拳を突き上げる。
モビルケ派は、この熱狂的な支持者が多い集会を、立体映像で小獣国各地に配信した。これにはどっちつかずのマルガナ派(中立派)も、衝撃を受ける。
これに驚いた獣神殿──ビスケス派は、危機感を募らせ、より強硬な姿勢をとった。そして、モビルケ派が大量の巨人型ゴーレムを生成している情報を掴むと、それに対抗して、ある一体の新型ゴーレムを造り出した。
その名は──ガ⋯⋯
「──アカン!この内容だと、神殿に禁書指定されるやんけ!」
外は雨。ここ二日ばかり、連続で降り続いている。部屋の中でゴロゴロするのも飽きて、なんとな〜く、小説でも書いてみるかと筆をとったが⋯⋯
前世のマンガ、アニメ、小説ネタを活かし(パクり)、アレコレと考えてみたが、何かと規制ラインに引っかかる。
王侯貴族による専制政治じゃなくても神殿の影響力が大きいから、神殿ネタは使えない。かと言ってまるっきり世界観を変えても、この世界の人々の共感を得にくい。
なんせ妄想⋯じゃなく、想像の産物的なマンガやアニメの下地が無いからな。(現実的な冒険者や恋愛物のマンガっぽいものはあるけど)
小説も映画も写実的な内容ばっかだし。ちょっと毛色が変わったゴッドゴーレムなんかも、実際にあるゴーレムを使ってるだけだしなぁ。
でも、一番の問題は、魔法があるから独自設定しにくい、ってことにある。
チート主人公の能力は、どー考えても神のそれだし、ダンジョンだって実際にあるからゲーム的な要素は必要ないし、魔女っ娘だって、極端な話、その辺のオバさんなんかも魔法使いだから、意味がない。
魔法球技なんかのスポーツ系は商業的なものがないから、話の展開が難しいし。
そもそもこの世界でのスポーツは、純粋な娯楽、またはダンジョン冒険者が身体を鍛えるための訓練的感覚でやってるから、前世とは土台が違うんだよね。オリンピック的な国際競技も無いし。
それもそのはず。なぜなら、加護種間の体力値の差があり過ぎるからだ。
小獣人のチームと大獣人のチームでガチンコ勝負したら──当然、小モフは負けるわな。大獣人と竜人なら、竜人が勝利。魔法競技だから勝機ありなんて夢見ちゃいけない。みんな、魔法持ちなんだから。
ハッ!母をたずねて◯千里なんかはどうだろう?
不況のビスケス・モビルケからウルドラへと出稼ぎに行く、かーちゃん──そして、オレっちはかーちゃんが病気になったと手紙をもらい、ウルドラを目指して旅をする──かーちゃんが病気⋯⋯アカン。想像しただけで、涙が⋯⋯ウッ!それに、フツーの動物もおらんからア◯ディオも無理。
あとは⋯⋯恋愛系とホラー系?
恋愛は無理だな。前世を含めて経験値がほぼ無い。しかも恋愛向きな頭じゃないから、ストーリー自体がカケラも思い浮かばん。
ホラーは──この世界、フツーに幽霊いるしな。オレっちも時々、幽体を見ることがある。でも、彼らとは会話できないし、ただフラフラしてるだけなので誰も気にしない。そのうち消えるし。
なかには強い負の残留思念と残存魔力を持つ悪霊もいるんだけど、神官が人海戦術でボコる。一体の悪霊を十数人掛かりで除霊する姿は、まさに集団暴行。バトルマンガ的に一人か二人で対峙して欲しいところだが、現実はこんなもん。
詰んだな。
いや、フツーに冒険モノやダンジョンモノを書けばいいんだが、他の小説と似たりよったりなるから、逆に難しいんだよ。
そうだ!魔海を舞台にした海賊モノなんてどうだろう!?⋯⋯いや、この世界、島はあっても、海魔獣のせいで航行海域が限られるから海賊自体いなかったっけ。まあ、いたとしても、人魚たちにボコられるだけだが。
格闘モノは──小獣人の気質からしてウケないな、きっと。
探偵モノや刑事モノ──アカン。推理小説って、めっちゃ難しかった。トリックとか考えるの無理。
それ以外だとアングラ系⋯⋯でも、オレっち、この国の闇組織の構成とか成り立ちとか、全然知らないんだよな。前世の知識だと、チグハグになるし。
最後は禁じ手のエロ。コレは恋愛以上にハードルが高い。っていうか、この歳でそんなモン書いたら、かーちゃんがぶっ倒れるわ。
オレっちの人間性(獣人性?)も疑われるしな。でも、この世界でもエロ本はあるし、裏で取り引きされてる映画映像もある。マルガナの一画には歓楽街もあるしね。この手のモノはどの世界でも同じなんですな〜。どっちにしても、使えんジャンルではあるけど。
う〜ん、う〜ん──あ、そうだ!ダンスがあったやんけ!それに、ダンスと音楽には国際大会もあった!
主人公は⋯⋯ドジでマヌケだがダンスの才能だけはある!⋯な、定番設定でいいか。それとも、才能はないけど、努力で成り上がる?そんでもってライバルは天才肌のイケメンで──脇役にはレキュー先生やミンフェア先輩ぽいのを出して──でも、ダンスシーンの書き方がわかんねーな⋯⋯マンガならともかく、小説で書くのはキツイか?
⋯⋯詰んだな。
前世のサブカルチャー知識が役に立たんとは⋯⋯結局、この世界は、神あり魔法あり魔獣あり、ダンジョンあり魔物ありだから、ファンタジー系は全滅。
無いのは宇宙関係ぐらいだが、この世界の人々は基本的に、太陽、月、星の三つだけの認識で、夜空に輝く星々などは『キラキラしててキレイだな〜』ぐらいにしか思ってない。天文学も無いしな。
古き神々は宇宙を『死の空』と呼び、それが加護種たちに伝わって、天文学の発展を妨げてしまったのだ。
『宇宙モフ物語』なんて書いても、『死の空になにしに行くねん?』と、ツッコまれるだけで終わりそう。
ペンを置いて、ゴロっとベッドに寝転がる。ゴロゴロゴロ。
⋯⋯考え過ぎて、なんか疲れちゃったな〜⋯⋯
ふわぁ⋯⋯眠い。雨の日はダルいし、体毛も湿気でやられちゃうし⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
グゥ。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。恋愛要素もザマァ要素も無いマイナー小説ですが、これからもどうかよろしくお願い致します。




