表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/182

第九十九話 四人と一柱の帰国

 結局、シカトされた。間違いない──酒泥棒は、カガリス様だ。

 しかし、オレっちに二日酔いの症状は出ていない。カリスの自己治癒って、アルコールの分解も含むんだ。我スキルながら、恐るべし!





 ◇◇◇◇◇


 帰りは、メロス祖父の自家用魔馬車で送ってもらった。ニオさんとは夏の陣の観戦後にお別れしたから、五人での帰路となる。


 魔馬車に乗る間際、メロス祖父は号泣していた。娘のカチェーリナさんと孫のメロスとの別れが辛かったのか、はたまた秘蔵の酒の盗難が辛かったのか──

 そっちの方だと、オレっちの心が痛い。スミマセン、うちの神様がご迷惑をお掛けしました!!



 ドドドドド!!

 爆走する魔馬車の窓から、王都の景色を眺める。

 あ、アッチには庭園があったな──コッチには王家ゆかりの獣神殿が──


 エカテボルガには有名な大庭園があって、オレっちたちも二日前にそこを訪れた。見事な⋯⋯()()()()だった。


 だって、枯山水だよ!?

 アレを見ると、古き神々が下界のいいとこ取りをしまくったのを実感する。他にもよく出来てるな〜と思う魔導器も社会システムも、きっと、どこかの世界を参考にしたものなんだろう。

 ぶっちゃけ、参考というよりは丸パクリ。神々って、フツーにソレをやってるんだな。まあ、下界の人間がソレを知ったところで、どうなるもんでもないが。





 ◇◇◇◇◇


 さすがは、メロス祖父ご自慢のエリート馬魔獣。心なしか行きよりも速い気がする。その上、馬車内は広く内装も豪華で、鳥魔獣の羽毛が入ったふかふかクッションを背に、のんびりと帰り道を楽しむ。

 途中下車する町々は、行きとは違う場所を選び、より多くの景色を見て回った。行きはほぼ寝泊まりするだけの旅程だったから、ホテル内とその近くしか出歩けなかったもんね。


 メロスの家に到着後、カチェーリナさんとルブロスさん、ミオちゃんと父方の祖父母さんたちと昼食をとった後に、神トンネルへと出発した。


 「これからもメロスをよろしくね」


 出発前、カチェーリナさんがオレっちたちに向かって、頭を下げる。

 「ハ、ハイッ!」「いえ、こちらこそ!」「え~と、はい〜!」と、三人同時に返事をしたが、今のメロスなら普通に(ツンデレ猫だけど)学校生活を送れそうなんだがな。





 夏の長〜い昼間が終わり夜の帳が深く下りた時間に、アナナグラに到着。

 今度はメロスとセーラも一緒に、モグランのラモンとミーナによる別ルート観光を楽しんだ。


 特に、前回は覗くだけで済ましたモグランの大食堂での食事は、メニューも豊富で、何よりも美味しかった。

 この地下都市は物資の物流拠点の一つなので、珍しい食材なんかも手に入りやすいようだ。

 野菜や肉──食糧は地上ほど安値ではないが、神トンネルの管理費用という名目で国からお金をもらっているし、洞窟住居の観光収入は無税なので、物価の高さは、差し引きでトントンと言ったところだろうか。


 ちなみに、あれからカガリス様の声は聴こえない。神といえど、さすがに酒泥棒した後では気まずいのだろう。





 ◇◇◇◇◇ 


 「はい、どうぞ。ねえ──出来はどうかな?」


 白熊姉さんが、オレっちの注文したカガリス様像を渡してくれた。


 「タロスに〜そっくり〜!!」

 「ホントね!」

 「タロスを少し大人にした感じだな!」


 皆の言う通り、二十センチほどのその像の姿は、オレっちによく似ていた。違うのは、全身に花が彫り込まれているっていうことだけだ。

 え~と、頭の後ろ──あ、あった!オレっちのポピタン!

 ここだけこの花にしてくれって、頼んだんだよね。どうして、そんなところに?って言われたけど、そこはやっぱり本人に似せるべきかな〜、っと思ったんだ。


 「ありがとうございます!スゴくいいです!!」


 《ケッ!まったく似てねーじゃねぇか!俺はこんなマヌケ顔じゃねえ!》

 

 あ。カガリス様、ご降臨。


 『そりゃ、オレをモデルにしてますからね。それより、メロスのお祖父さんのお酒を、盗み──いや、飲みませんでしたか?』

 《飲んだな。久しぶりだったから、全部空けちまった!》

 しれっと言うな!!


 『⋯⋯いくら神様でも、それは犯罪──泥棒ですよ!しかもオレの体を使ってる訳だから、最悪、オレが犯人として捕まるとこでしたよ!?』

 《そんなヘマはしねぇ。見られたとしても、気絶させれば、問題はねえ》

 問題ありだよ!それに気絶って⋯⋯夢だった事にでもする気なのか!?古き神々の倫理観って、どーなっとんの!?


 《昔は、俺が飲みてぇなと思う前に、眷属どもが喜んで持ってきたもんだ》

 『それ、何万年前の話ですか?』

 《うるせー!それより、なんでそんな像を頼んだんだ?》

 『なんでって⋯⋯死ぬ時に必要なんでしょ?神様に会うための道しるべなんですから!』

 《はあ⋯?死んだら加護契約が切れるから、それまでだろ?》

 『えっ⋯』

 嫌な予感。


 『⋯⋯死んだ時にこれごと焼かれると、あの世──いえ、上位世界に立ち寄って、それぞれの加護神様に挨拶するという慣習があるんですけど?』

 《それはまた、おかしな話だな。始めたのは誰だ?そいつ、思い込みの激しいヤバイタイプの奴だろ!?》

 『⋯⋯』

 そうなんだろうか⋯?起源までは聞いてなかったから分からないけど⋯⋯


 何故か、ふと、前世のバレンタインデーを思い出した。お菓子会社の『チョコレート買え買え』の販促戦略──あれか?まさかのアレなのか!?


 『いえ。きっと始めたのは、腕も頭もいい木工彫刻家だったんでしょう⋯⋯』


 チーン!





 「おじいちゃん、喜んでくれるかな?神様の像が多ければ多いほど、確実に加護神様に会えるって話だし」

 買い置きしていたラブリット神の像を、セーラは大切そうに両手で抱えていた。


 「──いや、心のこもった像なら、一体だけでも効果があると思うよ?」

 正直、一体だけでも要らんのだが。


 「へー、タロス、いいこと言うな!」

 メロスが、前回と同じく木のステッキを手に持って、オレっちの側に来る。

 いや、無駄金を払わせたくないんだよ!ただでさえ、セーラは自分で稼いだお金で買い物してんのに!!


 《確かに無駄だが、本人や受け取る者が満足するなら、それでいいんじゃねぇのか?》

 『販促ってのが、嫌なんですよ!』

 《それは、オメーの勝手な思い込みだと思うんだが⋯⋯》


 いーや、絶対にそうだ!

 オレっちは憤慨しながら、かつてのバレンタインデーを思い出していた。

 モテ男とそれ以外──世の中が不景気になると、義理チョコさえもらえない奴だっていたんだぞ!!オレっちだって⋯⋯え~と、え~と⋯⋯モテ男ではなかったけど、ゼロでもなかったような⋯⋯あ、忘れちゃった⋯⋯





 「また、ポラリス・スタージャーに来ることがあったら、立ち寄ってねー!!」

 駆け出し彫刻家──白熊姉さんが、神トンネルへと引き返すオレっちたちに手を振ってくれた。

 今回の旅は、カガリス様のこともあって、予想外の展開が多かったけど、普段会うことのない人との出会いも多かった。うん。やっぱ、旅はいいな!


 《ふ~ん。これからラモグランのヤツが掘った穴に戻るのかよ?つまんねーな。おっ。そうか、俺が転移させれば──げっ!!》

 なんだか余計なことをしようとしたカガリス様が、おかしな声を上げる。


 《()が無ぇ!!チクショウ!竜神のヤローども、俺たちの眼を、全部処分しやがったな!!》

 『眼?眼って、なんです?』

 《この星の周りに配置してた、眼だよ!!》

 星の周り──つまり、宇宙か。


 『⋯⋯もしかして、衛星っぽいナニかですか?』

 《それだ!!それを通して、座標を決めてたんだ!くそっ!これじゃ、正確に転移できねぇ!⋯⋯ん?ということは──おい、タロス!転移装置はどうなった!?》

 『え~と、なんかイロイロ問題があって、使用不可になってますけど⋯⋯』

 《⋯⋯やっぱりそうか。つーことは、俺の昔の記憶とオメーの記憶で──駄目か。精度が低すぎる!》

 『ここは、今の時代に合わせて、地道に公共交通機関を使う方がいいと思いますけど?』


 あのクソギツネババァみたいな転移術を持ってる者もいるが、その使い手はごく僅かで、魔牛車や魔馬車、それに鳥浮船での移動が通常である現在では、転移は悪目立ち過ぎる。しかも、転移する先が定まらないなんて、不安しか無い。


 《随分と不便になったモンだなぁ⋯⋯》

 『そもそも神々の時代が便利過ぎたんでしょ?いいとこ取りの文明で』

 《それもそうか》


 それにしてもカガリス様──オレっちのポピタンの位置にはツッコまなかったな。やっぱり捜し人というのは──ニーブ君か。

 オレっちは、性別は違えどニーブ君とは二度会っている。だけど、神の能力ならなんとかなりそうなモンだが。


 『カガリス様。捜している人の魔力⋯いえ、神力を辿るとかはできないんですか?』

 《⋯⋯あの方は、完璧に神力を隠している。ある程度距離が近ければ、微妙な違和感で分かるんだが》

 『あちらから来ることは?』

 《わからねぇ。そもそもお前に憑依したところで大きな神力を出せる訳でもねぇし、できるだけ他の連中には知られたくねぇしな》


 二度あることは三度ある──なるほど、オレっちはまたニーブ君と会うことになるのか。けど、カガリス様──な~んかまだまだ隠してるぽいんだよな。でも、今一番の問題は⋯⋯かーちゃんだ。


 かーちゃんは、オレっちに関することには鋭い。少なくとも、おかしいとは思うだろう。

 さすがに神様憑きだとは思いもしないだろうが、それはそれで、オレっちが二重人格になったとか、頭がおかしくなったとか──そう思われるかもしれない。

 ヤバイ。本当にどうしよう⋯⋯ってか、眠い。考えなきゃいけないのに眠い。あ~⋯⋯こりゃもうダメだ。寝よう。


 神トンネル内を駆け抜けていく魔馬車の中、すでに即寝していたエイベルの隣で、オレっちは静かに瞼を下ろした。

 グ〜。






 ◇◇◇◇◇ 


 ☆ カガリス視点 ☆


 ⋯⋯コイツはマヌケだが、瞬間対応能力が恐ろしいほど優れている。これは、スキルへと転化するな。他にもストレス耐性(強)があるのか。ま、今のコイツのレベルじゃ、ステータス表記されていても、読めないのだろうが。


 さて。俺は使命を果たせるだろうか?***様から神聖器を貸し与えられ憑依対象の体とのシンクロ率を高めているとはいえ、休眠期直前の老いた心では、昔のような強い感情は持てない。

 喜怒哀楽──かつての感情を反復しているだけの今の俺には、あの方を何が何でも捜しだすっていう気骨と執念が薄い。だからこそ、コイツの持っている(えにし)に頼るしかないのだ。


 縁と言えば──コイツの花冠の花はあの方が見られた時は、後頭部にあったんだな。

 そもそも俺の花は種類が多いし、次から次へと新しい花に生え替わるから固定してるって訳じゃねーんだが⋯⋯同じ場所に何度も咲くこともあるからな。コイツの花の印象が強かったつーことは、やっぱり縁があるということなんだろう。うむ。



 あの頃──再構成した自分の身体で、この地上で活動していた時、俺はあの方のお守りの一人だった。まあ、実際に世話していたのは、ケルベル(スピンオフ参照)の子孫たちだったが。

 その稀なる強大な神力もそうだが、何よりも恐ろしいほど頭の良いお方だった。だからこそ、連絡を絶ち、こちらからの心話を完全にブロックしてしまったのだろうが⋯⋯


 さて、何処に居られるのか⋯⋯おっ?マヌケが目を覚ましたな。しかしコイツ、ホントに図太いな。少し前までは不安そうな心の揺らぎを感じたが、今はまったくそれが無いぞ?さすがはストレス耐性(強)!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ