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第九十七話 カガリス神

ようやく神様登場。ということで、スピンオフの短編として、タロスの先祖の話を、こことは別枠で投稿します。

 モフになった冒険者〜始まりのカリスというタイトルです。前編、後編予定なので、こちらの本編は、日曜日の更新になります。どうかよろしくお願いします!

 「オレ、ちょっとお腹が痛いかも⋯⋯トイレに行ってくる!」

 「はあ!?決勝戦が始まったのに!?」

 そりゃ、メロスからしたらあり得ないタイミングだろう。だが、こっちも必死なのだ。


 「ゴメン!!」

 特等観覧室を出て、ダーッと一番近くのトイレへと駆け込む。

 さすがに決勝が始まったこの時に、トイレに行く奴はいない。──オレっちを除いて。




 「オイ、お前誰やねん!?姿見せんかい!!」

 オレっちは、トイレのど真ん中で叫んだ。しかし、内からの声は返ってこない。


 「シカトすんなや、声だけ男ッ!!」

 《うるせぇ!この、ヘタレカリス!!》

 めっさ大音量で返事が返ってきた。


 「へ、ヘタレカリス⋯⋯ハッ!そーじゃなくて、アンタ、誰!?」

 誰もいないのに、トイレ内をぐるりと見回してしまう。


 《俺か?俺は──いや、吾は、カガリス!お前に加護を与えている神である!》

 フン!っといった鼻息さえ聞こえてきそうな権高な声が、頭の中に鳴り響いた。


 カ、カガリス⋯神──だと!?いや、まさか、そんな⋯⋯マジで!?


 《マジ。チッ、面倒くせーな⋯⋯そこの鏡を見てみな!》


 鏡──

 声に言われるがまま、オレっちは、一番端にある子供用の洗面台の鏡を見た。そこには、見慣れないカリスの上半身が映っていた。


 発光する銀毛の──頭も首も、肩も腕も──花だらけのカリス。顔だけには花がなく、その双眸は、あのパンケーキのハチミツのように、キラキラとした蜜色をしている。

 しかも、すんごい美青年。これだけの花を背負っても違和感のない、美麗さよ。

 まさか──


 「これがオレの⋯⋯真の姿!?」


 《──んな訳あるかっ!寝ぼけてんじゃねーぞ、このガキ!!》

 だよね!今さら、異世界特典なんてあるワケないよね!


 《オメー⋯⋯普通の加護種なら、そこは平伏するところだぞ?》

 「え~と⋯⋯はい、神様⋯いえ、カガリス様。それで、オレに何の御用でしょうか?」

 平伏って、こんなトイレの床なんぞに直座りしたくないわな。とりあえず、ペコっと頭を下げる。誰もいないけど。


 《恐ろしく切り替えが早ぇな!少しは動揺しろよ!》

 「いえ、驚いてはいますけど、魔法のある世界だし、神の声もアリかと。(宇宙人もいたしな)いや〜、幻聴とかじゃなくてよかったです!」

 ホントに。知らん間にラリってたら、そっちの方が怖いわ。


 《そんなもんか。⋯⋯まあ、それなら話は早い。オメーのその体を、吾に貸せってことだ》

 「貸す。それは、憑依するということですか?」

 《うむ。この世界でお会いしなければならないお方がいてな。とにかく、その方をお捜ししなければならないのだ》

 「それは、カリスでなければダメなんですね」

 《そうだ》


 ふむ。それなら──

 「ならば、オレの父親などはいかがでしょう?まだ若いし金持ち(実家が)なので、好きに使って下さっても結構です」

 《⋯⋯》

 「オレはまだ学生なので、人捜しの旅などできません。その点、花冠が再生途中の父は現在無職なので、自由がききます」

 うむ。我ながら、なかなかの売り込みトーク。⋯⋯あっ!でも、もしかして、花冠が無いと憑依できないとか!?


 《そこは問題ないが──どっちにしても駄目だな。奴には(えにし)が無い》


 縁?


 《吾の使命を全うするには、それを利用する必要がある。という訳で、オメーの体を借りるというのは、決定済みだ。何、時々だ。実際、ほんの僅かな時間しか、オメーの体は動かせない》


 「旅はできませんよ!?せめて、第5レベルクラスを卒業してからじゃないと!」

 《人の世界の縛りなんぞ知ったことか!神の意志の方が、重要だろうが!》

 「では、その旨を全加護種──もしくは賢者様に対してお告げ下さい!」

 つーか、人捜しなら、そっちの方が早くね?あっという間に見つかると思うけど。


 《それは駄目だ!他の奴らに知られると、()()()にも知られる!それは不味い!!》


 ⋯⋯そーいえば、神々にも派閥があったんだっけ?いや、それよりこの場はなんとか切り抜けないと⋯⋯


 「ゴホン!オレ──私たちカリスは、貴方の眷属と言う名の下僕ですが、無茶な要求は、加護種イジメじゃないですかね?」

 《⋯⋯加護種イジメ⋯⋯》

 「神たる者がイジメをするのは、いかがなものでしょうか?」

 《⋯⋯フン。オメー、前世の記憶持ちなだけに、弁がたつな。弱っちいクセに。その上、助けてやった恩も忘れる恩知らずだ》

 「ハイ⋯?」

 なんのこっちゃ?オレっちは首を傾げた。


 《オメーが二人組みに捕まって殴られて気を失った時、オメーの体を使って、彼奴等を叩きのめしてやったのに》


 ⋯⋯。そっか⋯⋯やっぱアレ、白昼夢じゃなかったんだ。


 「え~と⋯⋯その節はお世話になりまして⋯⋯」

 とりあえず、ヘコヘコモードで頭を下げる。


 《フン!それに、オメー⋯⋯ダンジョンに潜りたいんだろ?俺が連れて行ってやるよ。しかも、俺たちの『遊び場』にな!》


 息を呑んだ。旧ダンジョンをすっ飛ばして、新ダンジョン──『神々の遊び場』に!?マジで!?


 《おう。俺が昔放り込んだアイテムの回収ついでにな!》


 もはや素のままで『俺』呼びになっとるが、その発言は、実に魅力的だった。

 実際、半ば諦めてたんだよな。オレっちって、戦闘面が激弱だし。

 でもさ。せっかくダンジョンがある世界なのに、そこに挑戦できないのは、やっぱ悔しかったんだよね。他人頼み──いや、神頼みか。それで体験できるなら、悪い話じゃないかも。しかも、S級でさえ進めない『神々の遊び場』だし。


 「⋯⋯とにかく、第5レベルクラスを卒業したら、学校を休学できるんで、その後でなら⋯⋯」


 《⋯⋯それは、この世界でどれぐらいかかるんだ?》

 「え~と⋯⋯早くて3年、遅くて5年ぐらい⋯ですかね?」

 《ふ~ん。この世界を去ってから感覚的に時間ってもんがあやふやになってるが、その程度ならたいした時間でもなかった気がする。よし、まあ、いいだろう。それに、夏だったら長距離を移動できるようだしな》


 えっ!?これからの夏休み、全部、人捜しに使うの!?それはちょっと──


 《⋯⋯あふっ⋯⋯ヤベ、眠い。ちょっと寝るわ。ま、そう言うことで⋯⋯》


 「⋯⋯」


 どうしよう。この契約、メリットもあるがデメリットも大きい。でも、今さらできませんとは言えない。相手は神様だ。

 でもカガリス様、肝心な事を言わなかったな。そう、『誰を捜すのか』を。


 カガリス様は、(えにし)と言った。縁は、人と人とを運命的に繋ぐ糸だ。あのカモにはそれがなくオレっちにはあるのだとしたら、それは、多分──


 どっちにしても、オレっちの休学期間の職業体験は無理っぽいな。だけど、先立つものがないと旅はできないし──とにかく、後、数年は猶予を取りつけた。その間に状況が変わるかもしれないから、細かく考えるのはやめにしよう。





 ◇◇◇◇◇


 「ん?」

 オレっちが特等観覧室に戻ると、メロスたちがゾロゾロと扉から出てきた。


 「お前──もう、決勝戦は終わったぞ!トイレ、長過ぎだろ!!」

 「え~っ!?」

 メロスの言葉に、ショックを受ける。

 もう終わったの!?つーか、そんなに話し込んだつもりはなかったんだけど!?

 

 「タロス〜、お腹〜大丈夫〜?」

 「カリスの自己治癒って、腹痛には効かないものなの?」

 エイベルはともかく、セーラの言葉にはドキッとした。

 そういや前に怪我をした時、スキルの話をしたんだっけ。『オレには自己治癒があるから、大丈夫なんだ!』って。


 「あ~⋯⋯出さないと治らないから⋯⋯」

 「なるほど。それもそうね」


 自ら下痢男を印象付けるって、何の罰だよ。その上、決勝戦も観れなかった。特等室の意味ないやん!!(涙)

短編は、金曜日と土曜日に投稿する予定です。

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