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第九十六話 変な声

 あのガルー戦士は、見事、次の準々決勝をも勝ち抜き、二日後の準決勝へと進んだ。


 「タロス?どうかしたの?」

 セーラが、呆然としたまま席から立ち上がらないオレっちを見て、首を傾げた。

 「ウウン。ナンデモナイ」

 ブリキの人形のように、ギギギと立ち上がる。


 準々決勝はなんと、ガルー同士だった。もう一人のガルーは若く、俊敏さにおいては彼の方が上だった。

 ただ──実戦経験の違いからかフェイントを何度もかまされ、若いガルーは、呆気なく石床へと沈んだ。全身血まみれで。

 風魔法ってエグい。普通に刃物を振り回して斬る角度じゃあり得ない場所を、バッサリ斬っちゃう。風魔法を持ってればお互い様だけど、レベルの違いで大差がつく。こういう時は、違う属性で対処する方がまだマシなのだと学んだ。

 そう。学んだけど⋯⋯やっぱり生の闘いは、怖いし、思い出すだけでイタイ。


 《ヘタレ!》


 「えっ!?」

 突然、耳元で聴き慣れない男の声が聴こえた。

 だ、誰か、後ろにいるの!?

 あわてて振り返ったが、誰もいなかった。セーラやエイベル、メロスも席を立ってすでに移動している。


 「どうした、タロス?」

 メロスが扉前で立ち止まり、オレっちに声を掛けてきた。


 「え~と⋯⋯いや、ナンデモナイ⋯⋯」

 どうやら幻聴だったらしい。観戦疲れだろうか?とにかく、ずーっと緊張してたから。まだお昼なのに、やたらと眠いし⋯⋯






 ◇◇◇◇◇ 


 二日後──準決勝と決勝を観戦するために、試合会場である獣王闘技場へとやって来た、オレっち、エイベル、セーラ──そして、メロスとメロス祖父、カチェーリナさんとニオさんの、総勢七名。

 メロス祖父が貴族の特権で、闘技場の特等観覧席を用意してくれていたのだ。


 一般の観客は、スタジアム方式の段差のある観覧席だが、ここは、一室貸し切りの特等観覧室。しかも小型の冷却魔導器が設置されており、快適な温度に保たれていた。

 

 「あっ⋯⋯この魔素硝子、拡大魔法付きなんだ!」

 やけに試合場が近くに見えると思ったら、窓に拡大魔法が付与されていたとは!


 魔素を多く含んだ硝子は、強度が高いだけでなく、魔法付与効果の持続時間も長い。

 この部屋は獣人に優しい木の内装だけでなく、窓にまでこだわった造りなんだ。さすがは特等観覧室。お金かけてますな〜。


 まあ、この闘技場自体も基本は石造りなんだけど、一般の観覧席の間には低い木々が植えられていて、夏の強い陽射しを遮るようになってるし、獣人の国らしい設計なんだよね。

 この部屋の椅子も木製のロッキングチェアで、ゆったりユラユラしながらお昼寝──じゃなく、観戦できるし。喉が渇けば備え付けの冷蔵魔導器からドリンク取り放題だし──至れり尽くせりですな。さすがは、男爵様!


 「準決勝が始まるぞ!」

 メロスの高揚した声が、部屋に響き渡る。

 「あのガルーと──三年ほど前の準優勝者であるエルクじゃな。確か、A級冒険者で大会後にダンジョン内で大怪我を負って、ここ二年は出場しておらんかったが⋯⋯どうやら完全復帰したようじゃな」


 メロス祖父の視線の先には、ガルーと対峙するヘラジカ獣人がいた。四回戦でも準々決勝でもメロスがあのガルーの試合中継ばかり映していたので、彼の試合は観れずじまいだった。

 かつての準優勝者か──しかも、現A級冒険者。怖いけど興味ある!





 「おおっ!」


 開始早々、ヘラジカ獣人──エルクがガルーにパンチで猛攻した。今まではどちらかというとあのガルーの方が先に仕掛ける方だったんだけど、先手を取られた感じだ。

 ガルーはすぐさま防御したが、その瞬間、ガルーの腕とエルクの拳の間からバチッという音がした。エルクの雷魔法付与の攻撃が、ガルーの砂魔法の防御で弾かれたのだ。


 「互いに得意な魔法を知っているからな」

 ニオさんが、誰にともなく呟く。


 こうした大武闘会の常連闘士たちは、相手の得意魔法やスキルを把握済みだ。勝機が有るとしたら、それは──


 《大幅な魔法レベルのアップか、新しいスキルの覚醒だな》


 そう。相手の予測を超える新しい力が──ん?んん!?


 オレっちはビックリして、ロッキングチェアから立ち上がった。


 「タロス〜?どうしたの〜!?」

 左隣のエイベルが、目を丸くしてオレっちを見る。

 「今⋯⋯誰か」

 言いかけて、止めた。あの声は、ここにいる人達の声じゃない。

 「ううん。ちょっと喉が渇いたから、ジュースを飲もうかと思って!」

 オレっちはそそくさと冷蔵魔導器へと向かい、中に入っていた瓶ジュースを取り出した。


 はー⋯、どうしよう。幻聴が酷くなってるよ。霊体が視えないから幽霊でもないようだし。困ったな〜。


 ドドーン!バチバチッ!


 雷が落ちたような大きな音が聴こえたかと思うと、次の瞬間、ワーッ!!と、大きな歓声が上がった。

 えっ、何事!?


 「スゲー!あれ、最大級の雷撃だよな!?」

 「角が〜まだ光ってるよ〜!スゴイね〜!!」


 メロスとエイベルが興奮しながら、前を見ていた。メロス祖父とニオさんは呆気にとられた顔をしている。カチェーリナさんとセーラは──両手で顔を覆っていた。

 えっ、もしかしてオレっち、最大の見せ場を見過ごした!?でも、ジュースを取りに行った一、二分の間だよ!?


 「勝者!ブイレン・エルク!!」


 オオオッ!と雄叫びを上げたエルクの二本の大きな角が、バチバチッと光っていた。え、あの角、さっき見た時の三倍ぐらいの大きさになってるんだけど!?


 「キュッ!ガ、ガルーが!!」


 エルクの足下には、全身の体毛が焼かれたガルーの死体が──いや、一応、生きてるみたいだ。


 「⋯⋯残りのHPが、30⋯⋯29⋯28」

 ステータス画面では、視てる間にもHPが一づつ減り続けていた。ヤバイ!


 「急げ!!」

 治療スキルを持った救護の人たちが急いで駆け寄り、治療し始めると、残り15から今度は少しづつ増えていった。

 ⋯⋯よかった。

 でも、この大武闘会、死者が出るのが当たり前なんだっけ。

 ブルッとした。前世でも、人が死ぬ場面なんて見たことなかったから耐性がないんだよ⋯⋯。


 《甘ちゃん、ヘタレ、意気地なし!》


 だからお前、誰やねん!??





 確信した。この声は外からの声じゃない。オレっちの内側から聴こえてくる声だと。


 『オイ、お前、誰だ!?』

 心の音量を大にして問う。

 「⋯⋯」

 ──シカトされた。





 ◇◇◇◇◇


 準決勝の勝者たちが、特別な魔法薬と治療スキルで全回復するまでの二時間、椅子に座って歓談したりユラユラしながら、何度か心の中で呼びかけたが、返事はなかった。

 しかし、頭の中に何となく圧を感じる。そんでもって、どこか小馬鹿にしたような感情を受けるので、絶対にナニかがいる。

 オレっちは、イライラを抑えるため、トロピカルジュースをヤケ飲みしていた。


 「タロス、タロス!!」

 「ん?」

 メロスに名を呼ばれて、ストローから口を離す。


 「決勝戦前の王様の挨拶が始まるぞ!お前もコッチに並べ!」


 メロスたちは、すでに観覧室の窓際に整列していた。他国とはいえ礼儀として、ポラリス・スタージャーの王族には敬意を払わなければならない。あわてて、横並びの列に加わる。


 その数分後、浮遊した貴賓室(大きなゴンドラ)に乗った、王様と王妃様、そして王女様が現れた。


 宙に浮いた貴賓室には護衛の騎士たちもおり、それぞれが式典用の華美な制服を着用していた。ま、一番豪華な衣装を着ているのは、王と王妃だが。赤と黒を基調とした衣装が、一際、目立つ。


 「大獣王武闘会、夏の陣──体術、魔法、スキル──その頂点に立つ者を決める決勝戦を、これより開始する!!」


 金毛の獅子王、グルージャ・レギオル様が張りのある大きな声で吠えるように告げると、観覧席前に立っていた大獣人たちが、ワーッと、一斉に歓声を上げた。野太い声、甲高い声──様々な声が、長く長く続く。


 「あれが、大獣国の王様と王妃様⋯⋯それに、王女様なのね」

 セーラが、目をキラキラさせながら言った。


 ビスケス・モビルケは王制じゃないから、こーいう人達を目にすることがないもんね。ウチの賢者様はシンボルではあるけど、ほとんど表に出てこないし。


 王様は二十代半ばのお姿で⋯⋯へー、王妃様って、豹獣人なんだ。こちらも同じぐらいの歳だな。神の祝福効果か。

 王女様は──黒い毛のレギオルだ。父王が金毛で母王妃が白だから──黒猫マリエルの隔世遺伝かな?なんか大人しそうな可愛い人だな。レギオルにしては小柄だし、緋色のドレスも派手さを抑えた上品な感じで、好感度大。


 《ふーん。オメー、ああいうのが好みなのか?》


 だから、お前、誰だよっ!?

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