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第九十五話 転生しても変わらぬ性質

 ポラリス・スタージャーの定番スイーツといえば、パンケーキだ。五枚重ねのパンケーキの上にかけられたたっぷりのハチミツが、自然な甘みの大爆発で、とにかく美味しい!

 さらにハチミツ爆弾を投下。キラキラとした金色のハチミツ糸の美しきことよ!


 今世の蜂は、もちろん魔虫の一種だ。しかし、この北の蜂は他の地域の蜂よりも小型で性質も穏やかだと言われている。逆に南の蜂は攻撃的で、他の魔虫や弱った魔獣を襲うこともあると聞く。


 ビスケス・モビルケでも養蜂業は盛んだが、集める花の蜜の種類が違うのかもしれない。オレっち、こっちのハチミツの方が好き。

 でも、このパンケーキ⋯⋯量が多いというか重いというか⋯⋯結局、半分は、メロスに食べてもらった。そもそも最初にメロスが『四人で二皿の注文の方が、絶対にいい』って言って、メロスとエイベルは飲み物だけ注文してたんだよね。うん、正解だった。





 ◇◇◇◇◇


 「ただいま!」

 「お帰り、メロス、みんな。ちょうど片付け終わったところよ」


 カチェーリナさんがニッコリ笑って、オレっちたちを出迎えてくれた。

 ホントだ。キレイになってる!奥の方までゴミの山が見えてたのに⋯⋯あの量をどうやって片付けたんだろ?


 「スゴイですね!」

 「そうでもないのよ。私、大容量の魔法鞄(マジックバッグ)を持っていたから、そこに入れただけだし。まあ、その後で掃除魔導器をかけたから綺麗にはなったけど。ふふっ。今頃、ニオが、王都のゴミ集積所で、必要な物と要らないものを分けていると思うわ」

 「⋯⋯」


 まさかの魔法鞄利用法!⋯っていうか、フツーはそんな使い方をせんわな。

 しかし、自業自得とはいえ、すでに夕方だというのにゴミの仕分けとは⋯⋯でも、夏だからまだ明るいし、なんとかなるか。





 ◇◇◇◇◇


 ニオさんが戻ってきたのは、それから三時間後のことだった。夕飯後のお茶タイムに疲れた顔で家に入ってきたニオさんは、魔法鞄から衣類などを取り出すと、鞄をカチェーリナさんに返した。


 「この魔法鞄はいずれ貴女の物になるからと共有登録していて良かったわ。でも──これはゴミ箱ではないから、そこはちゃんと考えて使ってね」

 「はい⋯⋯申し訳ありませんでした⋯⋯」


 ニオさんは、大きな獅子体を小さくしてうなだれた。だけど──

 多分、あの魔法鞄は、受け継いだ途端にゴミ箱と化すのだろう。

 オレっちは、ゴミを片付けられない人の独特の感性を識っている。前世の友人の一人が、汚部屋人(おべやびと)だったからだ。


 すでに一人暮らしをしていた友人の部屋は、カオスだった。

 彼は言った。『片付けてもすぐにゴミだらけになるから、年末だけ掃除することにしたんだ』と。

 お邪魔したその日は、ちょうど年末前日──つまり、前回掃除してから364目だったワケだ。それだけでも鳥肌が立ったのに、彼の次の行動と言葉に、オレっちは戦慄した。

 彼は、床の上に散乱したゴミを左右にかき分けただけで『よし、キレイになった!さっ、そこに座ってくれ!』と、ニッコリと微笑んだのだ。

 オレっちは信じられなかった。


 はあ!?そこのダニの生息地に座れとな!?いや、せめてその部分だけでも掃除機かけろよ!!


 オレっちは、急用を思い出したと言って逃げだした。顔も名前も憶えてないけど、ゴミ部屋と普通とは違う感性だけは、しっかりと憶えている。


 魔法鞄は異空間にある多数の棚や部屋みたいなもんだから、衛生面ではセーフかもしれんが、気分的に良くない。ゴミ箱の隣に食べ物を置きたくないもんね。だが、あの友だったら、多分、平気だっただろう。うん。






 ◇◇◇◇◇


 「今日は、夏の陣の準々決勝までの試合が行われるんだ。スタジアムの座席は、準決勝と決勝戦の日のみの予約だから、今日の試合は、母さんの実家で立体映像を観ることにする!」


 楽しげなメロスと、それを見て喜ぶカチェーリナさんと共に、オレっち、エイベル、セーラが魔牛車へと乗り込む。この魔牛車は、カチェーリナさんの実家から迎えに来た自家用魔牛車だ。大きな金糸の房飾りをつけた首輪が、印象的。


 魔牛車が軽やかに走って着いた先は、緩やかで広い道幅の坂道を登った小高い丘に建つ、大豪邸だった。

 造りが瓦屋根の王宮に似てる気がする。いや、大獣国の富裕層共通のデザインなのかもしれないな。


 「カチェーリナ!メロス!!」


 車寄せで降り、正面入り口へと入った途端、大きな体の獅子獣人が出てきた。淡い灰色毛のお年寄り──の割には、ガッチリしているが。その太い両腕で、メロスがヒョイと持ち上げられる。


 「よう来たな、メロス!⋯⋯と、お友達か?おや、ニオはどこじゃ!?」

 「ニオは、冒険者パーティーのメンバーと打ち合わせに行ったわ」

 「そうか、そうか!──とにかく中に入りなさい!」


 メロスを抱き抱えたまま、メロス祖父は家の奥へと進んで行った。





 「驚いたろ?コッチのじーちゃんは、社交的で話好きなんだ。貿易商のトップだったから当たり前なんだけど」

 「そうなんだ」

 「今は伯父さんが事業を継いでるから隠居してるけどな。それでも知り合いが多いから、よく外に出掛けてる」

 なるほど。息子さん──メロスの伯父さんに跡を継がせても、裏ではまだまだ現役そうだな。


 「じーちゃんは、スゴイんだ!じーちゃんのじーちゃんは子爵だったけど、じーちゃんの子供の頃に亡くなって、その後、平民になったんだ。だけど、じーちゃんはそこから頑張って、有名な貿易商になった。その上、男爵位まで賜ったんだぜ!」


 あ~、お祖父さんの代で爵位が無くなった後、家族全員が平民に戻って、その孫が根性で返り咲いたんだな。じゃあ今は、男爵家なんだ。


 「この土地を取り戻すことが、じーちゃんの夢だったんだってさ」

 「そっか⋯⋯国に返却された土地を、また下賜されたんだ」

 「そうさ。ここは、じーちゃんの思い出の地だからな!」

 「頑張ったのね⋯⋯」

 「スゴイね〜!」


 この真上にある魔石のシャンデリアや、複雑なデザインの木のテーブルに樹海蛇の革ソファー──豪華な調度品が置かれた広い部屋を見て、彼の成功がいかに大きなものだったのかを推察する。


 「ところで──お祖母さんは?」

 「ばーちゃんはこの時期、伯母さんと海辺の別荘に行ってる。大武闘会中は王都が殺気立ってるから、嫌なんだってさ」

 ふ~ん。ミオちゃんもそうだったけど、意外とアンチも多いんだな。


 「従兄弟もいるんだけど、ウルドラに留学中なんだ。でも、今年の夏休みは帰国してないみたいだな」


 ウルドラ留学──なんか、マルクス坊っちゃんを思い出すなぁ。そういえば坊っちゃんも、この夏、帰国してなかったっけ。悪い友達でもできて、不良化してなければいいが。





 「スゴイわね〜!個人宅で、試合中継の立体映像が観れるなんて!」


 セーラが興奮気味に、大きな中庭を見た。

 それもそのはず──白い玉砂利が敷き詰められた中庭に面した部屋が観覧席に改造されていて、大きな立体映像を観れるようになっていたからだ。

 なんか見覚えがあると思ったら、前世のルームシアターやんけ。


 「これも、貴族の特権なのさ!」


 キゾクノトッケン──あ、そうか。規制があるから、お金があるだけじゃ立体映像の魔導器を設置できないんだ。なるほど。こうした特権も含めての爵位なんだな。


 「よし、四回戦の初戦が始まるぞ。戦士は──ここ数年の常連たちじゃな」


 夏場の暑さを避けるため、夜明けと同時に始まった四回戦は、前日の三回戦までを勝ち抜いた猛者たちの姿から始まった。

 立体映像には、岩山が周囲を取り囲む剥き出しの大地の上に設置された、円形状の石床の上に立つ、額に傷のある紺色毛の⋯ゴリラ似の獣人と、カンガルーに似た青い毛の大獣人二人が映し出されていた。

 どっちも、小獣国でも時々見かける大獣人だ。特にゴルゴリ(ゴリラ獣人の加護種名)は、旦那様の護衛の一人だから、常に旦那様の背後にいる。

 こちらの方は白い毛の精悍な顔立ちのイケメンゴルゴリで、お屋敷のメイドさんたちにモテていた。


 「こっちのガルーは、前にニオ姉が二回戦で当たって棄権した相手なんだ」


 メロスの指差す方向には、青毛のカンガルー獣人がいた。強面の青年というかオッサンというか⋯⋯微妙な年齢の顔をした、筋肉ムキムキの獣人だった。


 「ガルーもまた、大武闘会での常連加護種じゃからのぉ⋯⋯とにかく、闘争心が強い」


 うん。跳ねながらパンチを繰り出しとる。しかも、手の甲の毛を岩のように変化させて殴ってるよ!

 コレ、前世なら凶器判定だけど、今世じゃスキルだからアリなんだよな。キュ?相手のゴルゴリも、硬化した毛を盾のように使って防いでる!


 ドコッ、ガンッ、バンッ!


 殺り合う音がスゴイ。筋力だけじゃなく魔法も付与してるから、衝撃音が大きいんだ。


 接近戦をしていた二人だったが、次の瞬間、距離をとった。──魔法攻撃だ!


 ガルーが、火炎弾を放つ!対するゴルゴリは、氷の塊──氷弾を放って相殺した。そしてすぐに、高水圧の水鉄砲でガルーの顔面を狙う。だが、ガルーは砂の壁でそれを防ぎ、お返しとばかりに、ゴルゴリの全身を砂で固めてしまった。


 「ガルーの〜勝ち〜?」

 「いや──違う!!」

 エイベルの声にかぶせるように、メロスが叫んだ。

 それと同時に、ゴルゴリは砂を霧散させた。


 「ゴルゴリは、最初から風でガードしてたんだ。あのガルーは砂魔法が得意だから、分かりやすい対策ではあるけど⋯⋯」


 それにしてもあのゴルゴリ、風の属性持ちって珍しいよな。フツーのゴルゴリは、水と土属性持ちが多いんだけど。ちなみに彼らの加護神は猿王神の眷属神じゃなかったので、今でも数多く生まれている。


 ドガッ!!


 すでに宙を舞っていたガルーの飛び蹴りが、ゴルゴリの肩を直撃した。


 「キュキュッ!!」


 アレは痛い!──思わず叫んでしまった。円形の石床は直径で十五メートルほどあったが、ゴルゴリは蹴り飛ばされた体勢のまま、下の地面へと落ちていった。でも、この世界じゃ場外失格なんてないから、起き上がってすぐに上へ戻ろうとする。


 ドゴッ!!


 いつの間にか再び跳躍したガルーが、起き上がったばかりのゴルゴリの腹を蹴った。ガフッと血を吐いて、ゴルゴリは仰向けに倒れた。


 「勝者、ワンダブール・ガルー!!」


 ワーッという大歓声が、映像内に鳴り響く。


 ⋯⋯オレっち、こーいう死闘は苦手みたい。一応、目を開けて観れたけど、相手が殴られたりするとビクッってなっちゃう。

 メロスみたいに興奮して叫んだりできない。マンガとかゲームだったら平気だったのに⋯⋯。


 思えば、ボクシングやプロレスも、テレビやスマホ画面でしか観たことなかったっけ。

 立体映像のようなリアルなファイトって、観るだけでも痛いんだ──ってか、四回戦でもコレだよ!?次の準々決勝もそうだけど、決勝とか生で観たら──心臓が保たないかもしれん。マジで。


 小心者のオレっち。転生しても人の本質って、変わらないモンなんだなぁ。⋯⋯本質と言えば──前世の汚部屋友人も、転生先で、相変わらずゴミに埋もれているんだろうか?まさか、ニオさんじゃないよね??

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