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第九十四話 王都、エカテボルガ

 夢なのか、現実だったのか⋯⋯アレから三日が経っても、まだ不安だった。あれほどリアルな白昼夢を視るなんて、前世を含めて初めてだったからだ。それでも今日は、ポラリス・スタージャーの王都、エカテボルガへと旅立つ日。しっかりせねば!


 「鳥浮船なら半日で着くが、それだと面白くないだろ?だから王都までは、魔馬車で移動する。メンバーは、オレたち4人とニオ姉。そして、母さんの6人だ」


 えっ、魔馬車をレンタルするの!?──と思ったら、この周囲の町々で夏と冬の大武闘会用に運行されている特別車に乗るとのことだった。

 団体ツアーみたいなもんか。途中、幾つかの街に泊まるらしい。しかも、もう予約済みで、料金はルブロスさんが支払ってくれるとのこと。びっくりした。

 結構な金額になると思うんだケド。あ、でも、確かメロスのステータスには、裕福な家庭って書いてあったな。ここは、有り難くお受けしよう。


 そのルブロスさんは、冬の陣を観戦したので今回はパス。メロス母──カチェーリナさんは、王都の実家に用があるとのことで、同行することに。

 ミオちゃんは、人の多い王都は苦手らしく、その上、大武闘会に興味ナッシングなので、お留守番。大獣人とはいえ、やはり全員が格闘好きなワケではないらしい。


 「エカテボルガには私の持ち家もあるから、王都に着いたら、まず、そこに行くわ」


 カチェーリナさんは、王都でも有名な資産家のお嬢様だったらしい。ルブロスさんと結婚した際に実家から贈られた家だったが、大武闘会の時などの王都に滞在する時期にしか使っていなかったとのこと。

 しかし、冒険者になったニオさんが、最近になって住み始めたとか。


 「⋯⋯少し、掃除する必要があるかもしれないが⋯⋯」


 テンション低めのニオさんの口調が少し気になったが、オレっちたちは他の乗客たちと共に、魔馬車での旅を楽しんだ。

 朝は空気が涼しく、乗客は皆、窓を全開にして風を受け、暑い昼間は、魔馬車内の小型冷却魔導器と各々の冷却魔法具で涼をとり、夜は停留した街で観光と宿泊。

 王都へと近づく度に、街の造りが独特の物に変わっていく──屋根瓦のある建物や温泉付きの宿泊所──竹林なんかもあった。


 王都へと入る最後の日は、夜行バスならぬ夜行馬車で、広い馬車内を寝床に、眠りについた。

 メロスの実家を含め、今回の旅は人数が多い分、会話が多くて賑やかだ。その中で一番、興味深かったのは、この道中にしてくれたニオさんのダンジョンの話だった。


 大獣国のダンジョンは、小獣国と同じく二箇所ある。その一つが王都近くにあり、ここもやはり一階層が、冒険者ギルド──ダンジョン街になっているのだという。ただ、昼ばかりのあちらのダンジョンとは違い、こちらは地上と同じく、昼と夜があるのだとか。


 「へー、じゃあこっちの冒険者さんたちは楽ですね。ビスケス・モビルケのダンジョンなんて、窓の無い宿で泊まってるんですよ!」

 オレっちはニオさんの隣の席に座って、積極的にポラリス・スタージャーのダンジョンの話を聞いていた。


 「そうでもないよ。ダンジョン街は、いつでも真夏だから。だから冬の時期に一階層に降りると暑いし、逆に帰るときには寒い。特に冬場は私たちは冬毛だから、いつでも冷却魔法具を最大モードにしてる。ギルド街に出入りする時だけだけどね」


 ホエ〜!年中、真夏なのか!

 なぜか、アロハシャツを着たギルド職員を連想してしまった。

 「まあ、乾燥した砂漠だから、夜は寒いんだけどねー」

 あー、そっちの方の常夏でしたか⋯⋯残念。


 「まー、ギルド街はオアシスだから、昼間でも暑さを凌ぎやすいし、夜も賑やかだよー。湖並みの水量だからねー。それはともかく、私たちのパーティが潜れるのは、まだ八階層までなんだ。それでも強い魔物に出くわすと、すぐに逃げなきゃいけない。B級以上のメンバーがいるとその必要もないんだけど⋯⋯ソロを雇うと、高くつくからねー」

 「あの、浅い階層でも宝箱は見つかるんですか?」


 興味津々なオレっち。前の席のメロスやセーラは、オレっちほどダンジョンには興味なさげだが、それぞれのネコ耳がピクピクしているので、少しは気になるらしい。

 エイベルは、オレっち右隣の窓際で、すでにグーグー寝っていた。エイベルって、魔牛車や鳥浮船では寝ないのに、魔馬車だと即寝なんだよな。不思議。


 「そうねー、定番の金銀や宝石が入ったヤツは、時々⋯とは言っても、数年に一回ぐらいは見つけられるかなー?深層だと、倒すと金や宝石になるレアな魔物もいるんだけどねー」

 「へー。ところで、旧ダンジョンは十五階層までなんですよね。じゃあ、大獣国の新ダンジョン──『神々の遊び場』って、どんな感じなんですか?」

 「あー、ウチのダンジョンは、十七階層まであるんだ。神々の遊び場は何階層だか忘れちゃったけど、噂じゃ、最初の一階層は、岩場ばかりの景色だそうだよ。けど⋯⋯奥に入ると宙に浮かんだ大岩ばかりになって、移動が大変らしいんだ。鳥獣人ならいいけど、私たちは魔法での移動か魔導器の補助が無いと難しいだろうねー。でも、それはS級であることが前提だから⋯⋯」


 あっ、そうか。神々の遊び場は、旧ダンジョン踏破者──つまり、S級のみの場所だった。


 神々の遊び場は、大獣人のS級でも難しい。まず、普通に考えてソロでは絶対無理だし、パーティでも一階層までしか足を踏み入れられない。それも、エルフや加護人を入れたパーティでないと、結構キツイって噂を聞いたことがある。

 ウルドラのダンジョンの竜体化できる竜人冒険者さえ、ここ数百年は、一階層ですらクリアできていない。

 結局、普通の加護種じゃ一階層のボス魔物さえ倒せないってこと。それでも挑むのは、古き神々の遺した遺物目当てなんだろうけど。

 過去の記録だと、新ダンジョンは旧ダンジョンよりもレアアイテムが多いんだそうだ。聖遺物もほとんど手つかずで、未だに眠ったまま。そりゃあ、多少、無理をしてでも行きたいわな。


 




 ◇◇◇◇◇ 


 魔馬車を降りて、エカテボルガの持ち家──別宅に辿り着いたのは、まだ、昼前の時間帯だった。扉を開けた瞬間、独特の臭いと衝撃の光景が──汚部屋──いや、腐海かな?


 「⋯⋯前回泊まった時に、掃除し忘れちゃって⋯⋯」

 腐海の製作者であるニオさんが、言い訳をかます。

 「去年、父さんとメロスが、一度、片付けたそうだけど?」

 「⋯⋯そう⋯だった⋯かなー⋯」


 カチェーリナさんのツッコミに、ニオさんの声が段々と小さくなっていく。

 三階建ての広い中庭付きの大邸宅だが、床に物が散乱し過ぎて、足の踏み場が無いゴミ邸宅と化している。

 辛うじてゴミを入れたと思われるゴミ袋も、結局、廊下や部屋に放置してあるだけだから、大きな障害物としかなっていなかった。


 「メロス。お友達を連れて、王都見学に行ってらっしゃい。その間に、私とニオで片付けておくから」


 優しげな口調のカチェーリナさんだったが、なぜか、オレっちたちに背を向けたままだった。しかし、ニオさんの顔が引きつっていたので、メロスは察したのだろう。


 「うん。ここに戻るのは夕方にするよ」


 ⋯⋯夕方までに、アレが片付くのかな?






 ◇◇◇◇◇


 「あれが〜王様の〜お城〜!」

 「大きいけど、ウルドラの竜賢者の聖宮殿とはまったく違う感じだな!」


 アッチは高い塔が多めの西洋式の城だったが、コッチは前世の和風の城に近い。⋯⋯近いが、一部の瓦屋根や漆喰の壁が、松の木によく似た針葉樹の葉に覆われていた。

 メロスの解説によると、通常のセフィドラ(モミの木型)の変異種らしい。

 おそらく、獣学校と同じく、その木が内部の基本となっているのだろう。濃い緑色の葉の先が朱色になっていて、何となくオサレ感がある。

 距離のある城門前からだと細かい構造までは見えないが、パッと見は、高い塀のない開放的なお城だ。この城門前の広場も含めて、周囲に建築物がないから余計にそう感じるのかもしれないが。


 ここに王様が住んでるの⋯かな?前世の城では城主の住まいは別だったハズだが、この世界ではどうだろう?ところで、今の王様って、誰だっけ?


 王様は、もちろん半神血族の賢者様だが、小獣人からすると、本人よりもその母親の方が有名だから、名前がすぐには思い出せない。

 え~と、古典的なドアマットヒロインの黒猫マリエルが産んだ三人の子供のうちの一人で、確か──確か──え~と⋯⋯?


 「⋯⋯なあ、メロス。今の王様の名前って、なんだっけ?」

 城門前の広場で売っていたカレーパンを食べながら、メロスに訊いてみた。


 「お前⋯⋯王都のど真ん中の、しかも城の真ん前で、それを言うか!?」

 メロスが、フライにしたサバを挟んだパンから口を離して、呆れた声で言った。

 「スンマセン⋯⋯」

 「ハァ。いいか、今代の王の名は、グルージャ・レギオル様だ!」


 思い出した!そうそう。マリエルの三番目の息子!あ~、スッとした〜!!


 ポラリス・スタージャーの賢者家は四家ある。王であるグルージャ様の王家とその兄二人の家、そして、狼獣人系の賢者様の家だ。

 グルージャ様が王に選ばれたのは、父王と同じく、子を残せたから。


 兄賢者二人と狼獣人の賢者様には子はいない。だがグルージャ様には、一人娘である王女様がいる。このままだとポラリス・スタージャーはいずれ、女王様の国になるんだろうな。

 大武闘会の決勝戦は王族も観戦されるらしいから、王女様のお姿も見られるかも。どんな獅子っ娘なんだろ?






 ◇◇◇◇◇


 夏の強い陽射しを、セフィドラの木(モミの木版)が遮ってくれる。

 王都──エカテボルガの街中は、セフィドラの木が多くそびえ立ち、その巨大な木々の間に建物が並んでいる。そういった所はマルガナとよく似ているが、違うのは、商店と普通の民家が混ざって建っているという点だ。

 マルガナは基本的に、店は店、民家は民家と、場所を分けているのだが⋯⋯。


 とりあえず、近場の大きな商店に入ってみる。ホエ〜、広い!それに、天井も高い。

 前世の大きめのスーパーに近いが、中の雰囲気はまるで違う。陳列棚の商品が、適当に配置され過ぎているのだ。普通、衣類の隣に野菜を並べないと思うのだが。


 大柄な大獣人たちが行き交う通りも、随分と乱雑だ。魔牛車や魔馬車の通る専用レーンを横切る人も多く、それが当たり前のようになっている。

 マルガナはルール遵守で、ヴァシュラム・ルアは景観重視。しかし、エカテボルガではそうした規制が、かなり緩いようだった。

 

 豪快で大雑把な国民性──『力』を重視する大獣人をまとめるには、やはり神の血をひく絶対的な王が必要なのがよく解る。


 爵位も、伯爵、子爵、男爵のみ(賢者家は王族扱い)だが、それだって代々継承するものではなく、ほぼ一代限りだ。たま〜に、二代目が一代目の名声を利用して商売で大成したり、奉仕活動などで名声を得たりして続く程度。王政でありながら実力重視な点は、評価できると思う。


 でも、そうした反面、弱者には辛い社会なのかも。

 道を行き交う大獣人の子供たちも小獣人の大人並みの身長だし、あっちからみればオレっちたちなんか、5歳以下の幼獣にしか思われてないんだろうな。

 ⋯⋯メロスがヘコむ気持ちが、よく分かるぜ。

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