第一話 修羅場で前世を思い出すオレっち
何もかもが初めてで不安だらけの投稿ですが、なんとか完結させたいと思っています。ちょっとでも面白いと思ってくれると嬉しいです。
(あー、今世もダメ父かぁ〜)
オカン⋯もとい、かーちゃんのグーパンをモロにくらったオトン⋯いや、とーちゃんが吉◯のようなベタな演出のように派手に吹っ飛ばされる場面をかーちゃんの肩越しに見ちまったオレっちは、突然、前世を思い出してしまった。
オレっちの前世は、極東に位置するとある島国の庶民──ガキの頃、ギャンブル好きな父親の借金が原因で両親が離婚し、いわゆる母子家庭で育つこと十数年──特に秀でた才能こそなかったものの、普通にそこそこの成績で卒業したあとは⋯憶えてねぇな。あれ?就職したよな??まあ、今更何でもいいか⋯⋯。
頭に花を乗せた白いリスっぽい、けどビミョ〜に違う今世のかーちゃんが、突然オレっちを背負って他所様ンちに上がりこんだと思ったら、コレだもんね。
修羅場ですよ、シュラバ!
浮気相手は、ビジュアル的には前世で見た兎に似た、だがこれまたビミョ〜に異なる獣人だった。
そう。オレっちの今世の姿も、前世のリスに似た、だがまたまたビミョ〜に違う獣人なのだ。
って、呑気に解説している場合じゃないやんけ!
かーちゃんの手に刃物(ハサミ!?)が握られてますやん!!
でもオレっち、まだ喋れんのよ。2歳やから!
チョキンと切れた。
同じくリス似の金毛親父の頭上に生えてた自慢の──ラナンキュラスぽい、でも、ちょっと小ぶりなピンク色の花が!
かーちゃん、庭師の資格でも持っとんの!?手ブレのない鮮やかな技でんな!
「これは、慰謝料として貰っとくわ(怒)」
そう言ってかーちゃんは、根本から二センチほどの茎だけを残した頭を抱えて呆然としたとーちゃんと、両の長耳をペタンと閉じた浮気相手のねーちゃんをかえりみることなく、その場を去った。
背中にオレっち。両手に10輪のピンクの花束を抱えて。
そしてそれ以降、オレっちには前世と同様に、父親という存在がいなくなった。
まあ、もともと大して可愛がられてもいなかったしね!愛情チョー薄!
とーちゃんは、オレっちの頭上の花が7輪(今現在は芽だけしか出てないけど)だったのが気に入らなかったらしい。さすがにかーちゃんの不貞を疑うようなことはなかったが『10輪同士の俺とお前の子が、なんで7輪なんだよ!』って、よく愚痴ってたもんね。
前世の記憶が戻る前のオレっちは幼すぎてスルーしてたセリフだけど、今のオレっちからすると、『そんなん知らんがな』としか言いようが無い。
まあ推測するに、生えてる花の数によってなんか差別的なモノがあるんですかね?どっちにしても、今世の情報が少ねーよ!オレっちの姿からからして!人の姿じゃなくてモフモフのまん丸ボディよ?
前世より圧倒的にカワイイけど!
さて、オレっちのチートはナニかな~?
それからしばらくして。
決論。
お約束のチートは無かった!(泣)
ステータスオープン!
なんも表示されんし、脳裏にも浮かばん。
鑑定!
上に同じく。
収納!!
試しに手を伸ばして、その辺の空間をグルグルしてみた。微風が発生した。
オイ!おかしいやんけ!異世界転生特典あらへんやん!!人型やないからか!?
はっ!まてよ⋯魔法や魔法!この世界には確か魔法があったハズ!
かーちゃんがとーちゃんぶっ飛ばした時も、風魔法で風圧打撃してたやん!
つーことで『風!』どうよ!?
こちとら前世で全巻集めた魔法系マンガと、深夜にお世話になったチート系アニメのイメージ使い放題じゃー!
!?そよ風すら発生しない⋯だと?
アレレ?もしかしてオレっち、風属性じゃねーの?
じゃあ、『水!』
⋯⋯一滴の水さえ出まへんな。
庭に出たオレっちは、むき出しの地面に向かって『大地よ!』と叫んでみた。叫び損だった。
少々危険だが──後は、アレしかない!
念の為に木桶に水を汲んでおいた。しかし、家庭用花火程度ならばコレで十分だが、もし火属性チートならば──いや、それこそ手持ち花火をイメージするのだ、オレっちよ!
『花火!──じゃなくて、炎よ!』
オレっちの人生⋯獣生?が今、終わった。
魔法なしっ子確定。
魔法世界の底辺でオレっちは生きる。
かーちゃん、ゴメンよ。かーちゃんまで迫害されたらどうしょう。
「キュ、キュツ!ジジジジジジ!!!」
変な声出た!でも止んねぇ!だって悲しいんだもん!底辺な異世界転生なんて酷えよ、神様!!
「あらあら。タロス、どうしたの?大泣きして」
奇声──ではなく、オレっちの泣き声を聴きつけたかーちゃんが、オレっちを抱きしめる。
かーちゃんの頭上には、前世で見た海辺に咲く花──ハマヒルガオによく似た(形状のみだが)水色の花が咲いている。その花冠の甘い香りが、ほんの少しだけ気持ちを落ち着かせてくれた。
「オ、オレ、マホーつかえない!ダメなコ!!ゴメンなさいっ!」
「魔法って?タロスはまだ花が咲いていないじゃない」
「え」
「私達は、花冠がないと魔法は使えないのよ」
「⋯⋯ハイ?」
オレっちが今知るべきはチートなどではなく、自分の種族とその生態だった。完。
オレっち、今世での初めての黒歴史。
ところでリスって、どう鳴くんだっけ?チッ?ジジ?⋯⋯あんま可愛くねぇな。ここは異世界リス的に、キュートな『キュ』にしておこう。さっきも勢いで出たしな。後半のジジジは無しってことで!
オレっち呼称は、基本、タロスの心の中だけになります。