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第8話 華麗なる変身

「じゃあ始めるわよ」

「あの女が泣いて崩れ落ちる姿が目に見えるね!」


 そう言って化粧ポーチを開く渡瀬さんと藤宮さん。

 渡瀬さんに「放課後になったら視聴覚室で」って言われたから来たんだけど、何故か藤宮さんもいたんだ。

 まぁ、そこで察したよね。「あ、何かされるんだな」って。

 だってさ? 視界にうつってるんだもの。カツラと色鮮やかな服が。白色や青色や黄色の生地で作られた服が。

 もうね、これが怜央きゅんの通ってる学校の制服って聞いた時には耳を疑ったよね。こんな制服着せられるなんて、僕だったら絶対に入学しないよ。


 だけど僕はこれからこの制服を着ないといけないんだ。化粧やカツラまで被ってね。

 帰る頃にはそれまでの記憶を失いたいよ。


「ほら、動かないの」

「あ、うん」


 どうやら無意識に逃げようとしていたみたいだ。

 はぁ、やだなぁ。


「……え? 待って……。ちょっと伊月、これ……」

「嘘……だよね?」


 どうしたんだろう? 二人が何か騒いでるみたいだけど、目を瞑ってるから状況がよくわからないや。まぁ目を開けてとしてもメガネを外されているからわからないんだけど。

 あ、そうそう。僕、メガネかけてます。子供の頃に布団に隠れてその中でゲームしてたせいかな。


「えっと……赤坂くん? とりあえず化粧は終わったから制服着て見てくれる? 私達は外に出ているから」

「ん? うん。わかったよ」


 言われるがままに僕は制服を手に取って着替える。見た目は複雑そうだけどそんなことはなく、無駄に多い装飾も縫い付けられていたから、ただ羽織ってボタンをとめるだけで良かった。

 少しサイズは大きいけど、着れないことはないかな。うん、よし。


「着たよ」


 廊下に出ている二人に声をかける。


「どう? サイズは大丈夫だったかし──ふぅ……」

「ミオリン!? どうしたの!? 一体何が──はぅ……」


 中に入ってくるなり崩れ落ちる二人。どうしたんだろう?


「伊月……まだ耐えるのよ。まだカツラが残っているじゃない」

「そうねミオリン。まだその時じゃないもんね」

「じゃあ……被せるわよ?」

「あぁっ! 待って! まだ心の準備が……」

「急いで! 私ももう限界なの。このカツラを持って乗せようとしてるだけで色々溢れそうなのよ!」


 この寸劇はなに? 僕、置いてけぼりなんだけど。

 いいから早くしてくれないかな。恥ずかしいんだからさ。


「うん。大丈夫。ミオリン、お願い」

「えぇ。いくわよ」


 そして、僕の頭に金髪のカツラがのせられた。

 少しズレたから自分で少し直してから二人を見たんだけど、何も喋らずに口をポカーンと開けながら固まっていた。

 もしかして結構似てたりするのかな? でも僕はその怜央きゅんみたいにモテないんだけど。


「ショ……」


 しょ?


「ショタ怜央きゅんよぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!! 可愛すぎるぅぅぅぅ!」


 ちょっと待って。声大きすぎるって。そんな近くで叫ばないでよ。耳がキーンとなったじゃないか。

 しかもショタってなに? 初めて聞いた言葉なんだけど。


「制服がブカブカなのがたまらなく可愛いっ!」

「つぶらな瞳でキョトンとしてるのが可愛いっ!」

「「もうダメ……死ぬ……」」


 えぇ…………。


「えっと……似てると思っていいのかな?」

「「いいっ!」」

「そっか。ならさっさと済ませようよ。渡瀬さん、彩音さんはどこにいるの?」

「彩音は部活だからまだ学校にいるはずよ。あと、そんなに見ないで。我慢出来なくなっちゃうじゃないの」


 何を? まぁいいや。


「藤宮さん、会ってなんて言えばいいの?」

「『愛してるよ』って言って……」

「はい?」

「あっ! 伊月待って! ちょっとそれはずるいんじゃないかしら!」

「だ、だってぇ!」

「私だって我慢してたのに!」

「ボ、ボクだって我慢してたんだよ? でもその我慢を超えちゃったんだモン!」

「待って二人とも。彼氏なんだよね? ならその彼氏に言ってもらえばいいんじゃないの?」


 なんで僕が言わなきゃいけないんだよ。好きでもない人に。


「怜央きゅんは言ってくれないの」

「そうだね。言ってくれないね。『今日もありがとう!』は言ってくれるけど」


 なんでそんな人好きになれるの!?

 はぁ、もういいや。勝手に決めて行って帰ってこよう。こんな格好していれば、きっと僕だって気付かれないだろうし。なによりも早くこの、服脱ぎたいし。


「もう適当に決めるよ? どんな言葉がその彼氏が言わないことなのかはわからないけど、とりあえず諦めてくれるように言えばいいんだよね? 『お前は金だけ俺に渡してればいいんだ』とかなら──」

「はいっ! お小遣い全部捧げます!」

「先月はバイト代も全部怜央きゅんの為に使いましたっ!」


 なんでそうなるのかな?


「じゃ、じゃあ……『俺、他にも彼女いるから』なら──」

「知ってるわ! でもいいの!」

「大丈夫! 全然大丈夫!」


 大丈夫じゃないよね!? 彩音さんに寝盗られたって現在進行形で怒ってるんだよね!?

 もう意味がわからないよ!


「てかてかミオリン? このショタ怜央きゅんをあの女に見せるの? なんていうか……勿体なくない?」

「私も同じことを思っていたわ。これは二人だけの怜央きゅんにしたいわね」


 えぇ……。二人だけの怜央きゅんって何? 嫌なんだけど。僕、怜央きゅんじゃないし。


「というわけで怜……赤坂くん。彩音の所に行く計画は中止よ」

「今、名前間違えたよね?」

「ボク達だけの怜央きゅんでいてね」


 待って。ほんと待って。

 なんで近づいてくるの? なんでそんなに肩を強く掴むの?

 二人とも彼氏いるんだよね? ねぇちょっと!?


「アッー!」



 ◇◇◇



 僕は一人疲れ果てながら視聴覚室を出た。

 あのあと、渡瀬さんと藤宮さんに膝に座らされて頭を撫でられ、頬擦りをされ、写真を撮られ、両側から二人に抱きしめられたりした。


 あの異様なテンション。これほどまでに嬉しくない女子とのスキンシップがあったかな? いや無い。

 確かに渡瀬さんからはいい匂いがしたし、藤宮さんはあの大きな胸が何度も当たって柔らかいとも感じたんだけどね。


「はぁ……あ」


 ため息を吐きながら視線を下に移した時、僕はまだ着替えていない事に気がついた。

 きっと頭が疲れすぎてたからだね。

 そして着替えようと再び視聴覚室に行くために曲がったばかりの角を戻ろうとした時──


「キャッ」

「ご、ごめん──あ」

「え?」


 僕がぶつかった可愛い悲鳴の持ち主。それは彩音さんだった。


 ヤバいヤバい。やばいよ。つい普通に声だしちゃったけど気づかれてないよね? 見た目じゃわからないだろうからなんとかしないと。

 僕はそう思ってなるべく自分の声じゃなくなるように、声を低くした。


「大丈夫?」

「〜〜っ!!」


 ……え? なんでそんなに顔を真っ赤にしながら睨んでくるの? もしかして……バレた?


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