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第37話 未成年飲酒は禁止です

「「かーんぱーいっ!!」」


「かんぱーい……」


 予定も何も聞かれず、ほぼ強制的に連れてこられました焼肉屋さん。それも富裕層御用達の高級焼肉店、蛇蛇園。別にいやではないんだけれど、今日はなんだかちょっときつかったから帰りたかった。


 しかし、本当に楽しそうに笑顔を振りまいている舞さんと月子を目の前にして、その言葉は飲み込んだ。


「にしても、なんか久しぶりだよねぇ!お互い忙しかったし。ということで今日はぱぁっとやっちゃお!」


「そうね! そうしましょう!!」


 舞さんの元気な掛け声に合わせて月子も併せて声を上げる。


「お、おー」


 その雰囲気に押され結局俺もこの場に身を任せた。


 



「…………なんでこんなのになってるんですか」


 気づけば、顔を真っ赤にしながら意識をぎりぎりのところで保っている月子の姿。それにそれを横で見てニコニコしている舞さんの姿。


 すこし席を外している間に何があったんだ。


「えーとね、いろいろ話してたら月子ちゃんが私のお酒を間違えて飲んじゃって、そこまで飲んでないはずなんだけど、もう出来上がっちゃってて……どうしようか」


 …………その前になんで舞さんが飲もうとしてるんだ。


「あぁー! おっかーえりぃー一夜ぉー!!」


 妙にハイテンションな月子が席をふらふらしながら立ちあがり、倒れるようにして俺にもたれ掛かる。その際にマシュマロのような双丘がふんだんに押し付けられる。


「おっ、ちょっ」


 そのまますやすやと寝息を立てながら俺の腕の中で眠る月子。ふんわりと香るいい匂いのせいでどこか落ち着かない。


 はぁ、どうしようもないか。


 俺は半分あきらめるように席まで月子を支えながら自分の長椅子に座り、月子を膝枕する。本当なら逆だと嬉しいんだが、こんな状況ならば仕方がない。


 まぁ、それはそれで置いといて。


「まさかですけど、舞さん、飲んでないですよね?」


「えー。何を?」


 何をって。絶対わかってるだろニヤニヤしてるもん。てか、そんなニヤニヤしながら聞く質問でもないだろ舞さん。あぁ、なんとなく今の会話で察してしまった。


「あー、ウーロンハイとビールを一杯だけぇ。だってせっかくおいしいお肉があるのに一緒に最高の飲み物を飲まないのは罪じゃん? うん、罪なんだよ」


 残り僅かの微かな希望も打ち壊してきたな舞さん。


「はぁ、本当にどうするんですか」


 俺はなんとなしに察していた事態に備えて準備していたスマホの連絡先にメッセージを送る。


「一応、僕のマネージャーさんに連絡しておきました。これからは自分が運転手なのにお酒を飲む癖なくしてくださいよ」


「うへぇ、私、年下に説教されてんのー。さいあくー」


 なんて微塵にも最悪とは思ってもなさそうな表情を浮かべながらお肉とビールを流し込む舞さん。ただ洗練された一挙一動のせいで、飲食しているだけなのにテレビCMでも見ているような気にもなってしまう。なんて人だ。


 どこかあきらめに近い感情を持ちながらそれを飲み込むように俺は肉を胃の中に入れてゆく。こんな状況でも肉は最高においしい。


「ねえ、ひーくん」


「え、何?」


 先ほどまでで食べたりなかった分を取り返そうと奮発して食べていた最中、すこし落ち着いた様子の舞さんが俺に話しかける。


「月子ちゃんのこと……どう思う?」


「月子のこと……ですか」


「うん。月子ちゃんのこと」


 月子のこと。月子は——。


「好きですよ。普通に」


 一瞬俺の膝の上で寝ているハズの月子がビクリと動いた気がしたが、まぁ、寝返りの一つくらい打つだろう。


「好き……好きっていうと?」


「あぁ、恋愛的な意味じゃなくて。人として、演者としても、尊敬できるし、目指すべき人の一人だと思ってる感じの好きです」


「あぁ、そっか。ちょっとびっくりしちゃった」


 相変わらずビールをマイペースに流し込みながら、フーンとどこか遠い場所のことを考えているかのような素振りを見せる舞さん。


「ねぇ、気にならない? 月子がなんであんなにすぐ人と会話できるようになった理由」


「えっ、」


 理由? 普通に色んな人と関わっていったりしたんじゃ……


「この子はね。きっと、体の99パーセントは演者でできている。あなたと出会う前は90パーセントくらいだったのかもしれないけど、この世界に染まるに連れてこの子も染まっていく。ただし、あくまで作られた自分色に」


「…………どういう、ことですか?」


「…………簡単に言うなら、この子は、月子は常に演技をしている。私が知っている限り、常に」


「っっっ!?」


 俳優、女優の演技は一般人が劇でするようなちゃちな演技とは根本が違う。演者は自分の命を削り、常に最高以上の演技をする。月子の場合はもっとだ。天才肌の月子は、最高以上の演技を半自動的に出せる。よく言えば体力さえあれば常に最高、悪く言えば体力が、削る命がなければ何もできない。


 きっと月子のタイプ的に『演技』に調整がない。最高か、最悪か。綺麗な二択なのだ。


「でもね、ひーくんといるときは、常に自然なのよ。月子ちゃんは」


「え、」


 舞さんの言っている意味は理解できる。俺とは友人だから、リラックスできるとか、そういうことなんだろうけど。


 どこか不明瞭で。まるで自分は氷山の一角しか見れていないような、言葉だけの意味ではないような気がして。


 じーっと、舞さんは俺の目を見つめた後。


「もう、疲れたから、あとはよろしくー」


 といって、ばたり、と机に倒れるように突っ伏す。


 ……デジャブを感じながらも、堀田さんが来るまでその言葉の意味を考えていた。



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