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第三話 その21

「そういえば,マリアさんとはどういう関係なんですか?」

唐突な質問に,俺は戸惑った。しかし正直に

「わかりません」

と答えた。不思議そうな顔をするウォーレンに今までのことを話した。街でいきなり因縁をつけられたこと。何故か追っかけてきて戦いを挑んでくること。知り合って大した時間の経っていないこと。故にふさわしい,関係と呼べるものが見つからない,あるいは結ばれていないこと。それらを全て話した。

「一緒に旅をしているのではないのですか?」

「勝手について来るんです。行き先が一緒だとか言って」

うーん,とウォーレンは黙った。今度は俺が質問した。

「どうして急に関係を?」

そう聞きながら,ウォーレンの疑問を当然のことだと思っていた。正体も知らずに,森で迷っているところを助けてくれたウォーレンがお人好し過ぎるのだ。初対面の時点で関係とか旅の目的を聞いて,怪しくないかを確かめそうなものだ。

「実はマリアさんには口止めされているのですが,今日ギルドで受け取った報酬のことは覚えていますか」

「マリアと半分にしました」

「それが,半分ではないんです」

「どういうことですか?」

「マリアさんはドリョクさんに,初めから全額渡すつもりだったんです。ですがマリアさんは,ドリョクさんがそのまま受け取らないだろうと考え嘘を吐いたんです」

「嘘?」

「ええ。ドリョクさんに報酬を渡すとき,“既に半分を貰った”と言っていましたが,本当は一インも受け取っていないんです。マリアさんは,報酬はドリョクさんが全て受け取るべきと考えていました。ですがドリョクさんはマリアさんが討伐したと考えていましたよね。マリアさんはドリョクさんに全て受け取ってほしかったんです。だから嘘を」

マリアが俺の為に全額渡した? にわかには信じられなかった。マリアは出会った時から俺に因縁をつけて来た。俺になんらかの敵意を持っているように見える。

 だが実際は,討伐の権利を俺に認め,全額を寄越した。これはマリアに対する印象を,多少揺るがした。

「マリアさんには口止めされていたんですが,つい話したくなっちゃいました。マリアさんには内緒にしておいてくださいね」

ウォーレンは嬉しそうに笑った。俺はマリアに対して,真意の分からない不気味さと,同時に多少の親しみを感じた。

 少しして,静かな応接間にノックの音がした。バーバラだった。右手には盆を持って,その上にはマグカップが三つ,湯気を立ててあった。

「待たせたね」

差し出されたマグカップを受け取ると,柔らかで甘い香りがした。中身は――

「チョコレートドリンクだよ」

バーバラはテーブルに盆を置き,そのまま俺らの向かいに腰掛けた。一口マグに口をつけ,こちらに目で飲むよう促した。俺らは従うように一口飲んだ。甘い香りが鼻を抜け,全身の疲労をその甘さが溶かした。バーバラはニヤリと微笑むと,改めて今日のことを話し出した。

「あんたら,今日はずいぶん目立ってくれたね」

声にはむしろ労いの色があった。

「歳はいくつなんだい?」

ウォーレンは二十六,俺は十七と答えた。

「それで。あの子たちは?」

 ウォーレンは一切を話した。自身が孤児であったこと。育った孤児院に後継が居なかったこと。一人で孤児たちを預かっていること。

 バーバラは相槌を打つだけで口を挟まず,一通り聞いてから「そう」とだけこぼした。そしてソファに深くもたれ天井を見つめた。

「ウォーレン。あんたのことを,知らなかったわけじゃない」

バーバラは身を起こした。

「だが,そう。ただ森の方に静かに暮らしているだけかと思っていた。時々街へ来て,必要なものを揃えているだけ,それだけかと思っていた。街のみんなもさ」

マグを口元に寄せて,離した。

「孤児院をねえ――」

目を伏せ,

「知らなかった」

沈黙が訪れた。

「あんたは? ドリョク」

次は俺の番だった。転移者であること。ハルが妖精であること。妖精女王に会い,元の世界へ帰れるか聞くために旅をしていること。

 バーバラはやはり静かに聞いていた。湯気の消えたマグをあおって,「そうかい」と言った。そうして膝頭を叩くと

「事情はわかった。悪いね,引き留めて。今日は疲れたろう。続きはまた明日に話そう」

バーバラに促されるまま,俺もウォーレンも客室へ案内された。礼や何故世話をしてくれるかなど,こちらも離したいことはあったが,ベッドに入ると途端に眠気が来た。そのまま眠ってしまった。


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