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第三話 その20

 その夜,俺たちは街一番のホテルに泊まることになった。石造りの三階建てで,他に三階建ての建物はなく,窓から街全体が一望できた。

 俺はホテルの応接間にいた。壁には腕木に居座ったような光が部屋を明るく保っている。魔法で作られたものだ。俺はソファにもたれ,息を吐くと途端に眠気を感じ出した。しかし視界の端に人影を認め身を起こすと,眠気はいくらか消えた。

「みんなぐっすりと眠っています」

言いながらウォーレンはゆっくりと,微笑しながらやってきて,テーブルの角を挟んで隣に腰を下ろした。

「びっくりするぐらい直ぐに寝ちゃいました」

彼は嬉しそうに言った。

 あの後,俺たちは場の仲裁に入った女性――名をバーバラと名乗った――に言われるままにここへ泊ることになった。ここはバーバラの経営するホテルだ。バーバラは街のなかでも中心人物であるようだった。騒動を収めた後,辺りに一声かけると誰もが止めていた手を思い出したように動かし出した。

 バーバラは俺らに風呂へ入るよう言い,それに従って風呂から帰ると夕食をご馳走になり,そのままホテルの客室を手配してくれた。事情を飲み込め切れていない俺とウォーレンを差し置いて,純粋な子供達はバーバラの厚意に何ら疑いを持たずに,差し出されたもの全てを喜んだ。潤沢で,温かな湯で体を洗えること,とびきり美味しい食事を満腹になるまで食べられること,身体が宙に浮いていると錯覚するほどのふかふかなベッド,それら一つ一つに驚き疲れたのか,ウォーレンの言う通り,ベッドで跳ねてはしゃぐ声が聞えたのも束の間で,ホテルはすぐに静かになった。俺はそこに一緒にはおらず,一人で腕の調子を確かめるために外で素振りをしていた。外は明るい。空には相変わらず三つの月が浮かんでいた。

「ドリョクさんはまだ寝ないんですか?」

「それが――」

素振りを終えホテルへ戻るとバーバラから少し話をしたいと言われた。そのため俺は彼女を待っている。どうやらウォーレンも同じことを言われたらしい。

そうして二人して彼女を待つことにした。疲労の為か,二人とも口数は少なかった。

「ドリョクさん,今日のことは,どうお礼を言って良いかわかりません」

ウォーレンは今日だけで幾度となく同じようなことを言ってきた。

「借金は勿論返すつもりでした。ですがあんなことになるなんて……。マリアさんにも迷惑を掛けました。なんと言ったらよいか……」

「いいんです。本当に。世話になったのはこっちなんです。お金は,たまたま持っていただけで」

俺は正直,もう済んだことと流してほしいと思っていた。俺は一体,大金にものを言わせてイタイ言動をしただけだと思っているのだから。「金なら俺が持っている。ほら。これで解決だ」そんなのは成金の世間知らずがやるようなことだ。それを俺はやったのだ。恥ずかしくて仕方ない。

「俺の方が,森で助けてもらって,救われました。それでおあいこということにしましょう」

何度同じやり取りを繰り返したか分からない。ウォーレンは何か言いたげだったが,それ以上は言わなかった。俺は苦々しく笑った。ウォーレンはそこに,俺の本心を感じてくれたのかもしれない。

 少しの沈黙。

「明日――」

再びウォーレンが話し出した。

「明日か明後日か,まだわかりませんが,ギルドの調査隊が帰ってきたら,その報酬を僕が受け取ることになりました」

報酬とは,マリアが森で倒した魔物の群れの分だろう。アームドアームだけは今日運び込んで,その討伐報酬は受け取った。マリアから折半されたものを受け取った。もっとも,それと元々持っていた金は全部サシリーノに渡してしまったから今は一文無しだ。

「マリアさんに言われたんです。僕がギルドで受取人になれば誰も文句が言えないだろうって。そうして僕が魔物達を倒したことにしてしまえばそれで解決だと。断ったんですが,逆に怒られてしまいました。サシリーノがきっとやって来るから,そこで証明を,みんなの前でしなくては意味がない,と。彼女は,賢いですね。そこまでもう考えているんですから。――彼女は強いですね」

付け加えるように言って,ウォーレンは苦笑した。そこには微笑も含まれているようだった。それにつられて,俺も笑った。


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