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第三話 その18

 遊戯場は飾り気のないアミューズメントパークのようなところだった。施設というよりは町の一角が集中的に栄えているという方が正しい気がする。

 出店や露店がそれぞれ鮮やかな天幕を張って町に彩りを加えている。その一つ一つからは威勢のいい呼び込みが聞こえる。ダーツや輪投げといった遊びもあれば食べ物屋もある。漂ってくる芳しい香りが食欲を刺激し,子供らは一つ一つを指差しては立ち止まり,口々に行きたいと言った。「まずは一通り見ましょう」とウォーレンがそれを宥めた。

 進んでいくと広場に出た。あちこちに人だかりが出来ている。一つに目を向けた。そこには奇抜な格好をした一組の男女が大道芸じみたことをしている。ナイフを投げ合い,その合間に火炎が飛び,過激さを増してよりスリリングな芸となっている。一方では大きな支柱に繋がれた丸太があり,そこに何人か乗ると前後に揺らし始めた。大勢で漕ぐブランコのようだ。また一方からは木が爆ぜるような音が聞こえてきた。見ると巨大なトカゲの背にコウモリの羽が生えたような生き物が首を一文字に振った。防火服みたいな厚着の女の人が鶏の生肉を丸ごと放ると,それをその生き物は一口で咥えバリバリと音を立てて飲み込んだ。「ドラゴンだ!」と誰かが叫んだ。

 確かに,遊技場というだけあってどれも心を躍らせるような娯楽に満ちている。

 子供達はすっかり心を奪われ,あっちへ行きたいこっちへ行きたいとウォーレンを引っ張り,そのまま彼を真っ二つにしかねなかった。ウォーレンは困ったように笑っては子供らを説得しようか悩んでいるらしかった。俺はまだウォーレンにちゃんと礼を伝えていない。彼に報いたいと強く思った。ただ遊技場に連れて来るだけでは恩返しにならないだろう。俺は子供らをこちらへ集めた。

「よし,今から俺がみんなの欲しいもん全部買ってやる。欲しいものがあったら俺に言ってくれ」

子供達はわっと色めき立ち,にぎにぎしかった遊技場の喧噪を一瞬かき消した。ちらとウォーレンを見ると,とても驚いた表情で固まっていた。俺が笑いかけると,彼もようやく,それでもひきつった顔で笑った。

 子供達は俺を遊技場の入り口まで連れ戻し,片っ端からものをねだった。昼も近づいていたこともあり空腹だった俺らは目に付くものなんでも買った。串焼き,肉の挟まったパン,砂糖で真っ白に塗られた揚げたての丸いドーナツ,牛骨を香辛料でじっくり煮込んだスープ,氷の魔法で作られたアイスソルベ。その中で一つ他と毛色の違うものがあった。

 いくつものくぼみのある鉄板に生地を流し込み,そこへ肉や魚の切り身などを入れる。そうして火が通り生地が固くなってくると細長い棒でくるりと回す。そうして出来上がるのは綺麗な真ん丸の球体だ。まるで,というよりほとんどたこ焼きだった。

 子供達は出来上がったたこ焼き(?)を嬉しそうに頬張っては熱さに涙目になりながらもおいしいおいしいと騒いでいる。

 この異世界に来てから食事に困ったことは無い。何故ならほとんどが洋食として見慣れたものばかりだったからだ。故に唐突に馴染みのある料理にそっくりなものを見ると却ってそこでの異文化感が強くなり,強烈な違和感を覚える。

 屋台のおばちゃんに料理の名前を尋ねた。「満月焼きだよ」と返ってきた。おしゃべり好きのおばちゃんはその由来も教えてくれた。

「あんた,勇者様はもちろん知ってるね。勇者様はそれはそれは立派な方だったんだよ。そんなことは私のばあちゃんのばあちゃんの,そのまたじいさんのばあさんの――とにかくこの世界で勇者様の偉大なことを知らない人はいないんだわ。勇者様の伝説は知ってるね。恐ろしい魔王を倒してこの世界に平和をもたらしたのさ。でも勇者様の偉いのはそれだけじゃあない。勇者様は強いだけじゃなく,頭も賢かったのさ! 魔法を基盤とした都市計画,便利な発明品の数々,おいしい料理! この「満月焼き」もそうさ。パンだって勇者様誕生以前は岩みたいに硬かったって話だし,マヨネーズだって勇者様がいなけりゃこの世に無かったろうね」

おばちゃんは誇らしげに話し終えると気を良くしたのかおまけとしてもうひと箱,焼きたてのものをくれた。

 子供達をみなベンチやテーブルにつかせ昼食にした。俺は「満月焼き」を一つ口に入れた。味はたこ焼きではないし,不味くはないのに見た目のせいで舌が混乱して美味いとは思えなかった。

 ハルとマリアは子供らに交じり楽しそうにしている。ウォーレンは一人でしきりにそわそわしているなと思ったが,それは子供達が食べ物を零したり,コップをひっくり返したりしないよう見守っているためだった。

 腹を満たした子供達はより元気になった。ドラゴンを見たり触ったり,ブランコに乗ったりして遊ぶ子もいれば,キラキラと光る装飾品を物色しているのは女の子に多かった。マリアが一緒に選びつつ,さりげなく自分にも何か買ったようだった。町の人々も好意的に子供達の相手をした。そうして約束通り,代金は全て俺が持った。金を入れてある革袋は,治療費によりずいぶんと軽くなり,化け物退治の報酬でぐっと重くなり,遊技場での支払いで少し軽くなった。

 俺はやけにカラフルなアイスソルベを二つ買い,ウォーレンの隣に腰掛けた。ウォーレンに一つ渡すと「懐かしいなあ」と言って一口口へ入れた。

 楽しそうに町を駆ける子供達を見ながら,俺は改めて礼を言った。森でさまよっていたところを拾ってもらったこと,忙しいだろうにここまで一緒に来てくれたことに頭を下げた。ウォーレンはやはりというべきか,申し訳なさそうに「こちらこそ」と言い,少し間を置いて静かに話し出した。

「うちは見ての通り決して余裕のある経営が出来ていません。先代は,親のない子供の多いことを知って孤児院を開きましたが,当時も今も,援助に恵まれませんでした。何故なら秀でた才能があれば誰かに拾われるということはあっても,それが無ければそのまま見捨てられてしまうのです。そうした子の集まったのがうちですから,世間から見て,我々は必要のないものと見なされ,お金も,払う価値のないものと思われているのです。

 少し前までは森も安全で畑などもあったのですが,最近は魔物が活発になってきているみたいで。時々この町へ食料を買いに来ます。そのお金も――。みんなにはずっと我慢を強いてしまっています。先代は時々ですが,僕らを遊技場へ連れていってくれました。とても楽しかった。いつかあの時の気持ちを,今の子達にも味わせてあげたい。そう思っていました。ですが今の僕には,そこまでの余裕がないのです。だから今日,ここに来れて良かった。みんなのあんなに嬉しそうな顔は久しぶりに見ました。礼を言うのは僕の方です。ありがとうございました,ドリョクさん」

彼の真っ直ぐな目には人の美しいものが詰まっているような気がした。俺は,彼の抱えているその重さにたじろぎながらも,多少は恩を報いることが出来たのではないかという誇らしい達成感を覚えていた。

 日も暮れ,人はまばらになり,店も次々と閉まり出した。子供らは流石に疲れたようで何人かは瞼を重そうにしていた。子供達を連れ,出口へ向かうと,一人の男が目の前に立ちはだかった。

「おやおや,ウォーレン君じゃないか。こんなところで会うとは奇遇だなあ」

「サシリーノさん……」

ウォーレンは気まずそうに顔を歪め,俺らを背にした。


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