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第三話 その16

 朝食はオートミールだった。俺が席へ着くと,間髪入れずにエドが右隣に座り,それとほとんど同時にマリアが左隣に座った。対面に座ったミリカは寂しそうだった。

 朝食を終えると,ウォーレンがみなに身支度をするように言った。

「これからみんなで隣町へ行きます。勝手にどっかへ行ったりしないで,ちゃんと僕に付いてきてくださいね」

「はーい」

 青空の下,子供らはぞろぞろと楽しそうに連なって歩いている。ウォーレンは子供に囲まれながら,やはり楽しそうに歩いている。その集団のしんがりに俺はいた。少し前をマリアとハルが歩き,俺はその後ろで空を眺めていた。隣には化け物の死体が並んでいる。

 ギルドに渡すため,死体を運ぶのに引きずって持っていくのは大変だということで,ウォーレンが納屋から台車を引っ張り出してきた。死骸を載せたはいいが止めておくものが無かった。代わりに一人見張り番を付けることとなり,怪我人でちょうど良いとあって俺が死骸と“相乗り”することになった。引き手はマリアで,彼女は持ち前の“才能”を遺憾なく発揮し,今も涼しい顔で台車を引いている。景色がゆったりと流れていく。ガラガラと引かれていく台車の上で,俺は気楽かというとそうではない。化け物の死体は,それはそれは臭い。獣臭が強烈で吐きそうになる。俺は車酔いにも似た気持ち悪さに襲われながら,早く到着してくれないかなと強く願った。

 町へ着くと子供達は目を輝かせ,あちこちを物珍しそうに指差しては大きな声を上げた。石造りの建物が並び,舗装された石道の上を誰もが軽快な足音で歩いていく。相変わらず西洋の歴史味のある街並みのような異国感が,この異世界に来てからずっと続いている。

 俺はウォーレンに回復魔術師の居場所を聞き,ハルと二人でそこへ行くことにした。ウォーレン達はマリアと共にギルドへ行った。

 教えられた場所は大通りから少し裏道に入ったところにあった。この異世界には文字が無く,看板も無いので特定には不便だ。ドアを叩き,声を掛けると中から白衣を着た女性が現れた。俺の腕を見るなり「まあ,大変! あなた,患者さんよ!」と言って奥に引っ込んでいった。中に入り座って待っていると,奥から白衣の,眼鏡を掛けた禿頭の医者風の男がやってきた。恐らくこの人が回復魔術師だろう。彼がちょいちょいと手招きをして奥へ引き返していった。付いて行くと明るい小さな部屋に通され,真ん中に置かれた頑丈そうな椅子に腰かけるよう言われたのでそのまま従った。簡単に名乗りあい,彼の名がマルコということが分かった。マルコは俺をじろじろと,特に左腕をじっくりと見ると,「こりゃひどい」と呟いた。その言葉にハルがびくっとした。俺はかねてからの疑問をマルコにぶつけた。

「あの,回復魔術師とは何なんですか?」

マルコはきょとんとした顔でこちらを見たので

「すみません。俺,転移者なんです」

と付け加えると,彼は納得したようで質問に答えてくれた。

「回復魔術師とは,怪我や病気を治すのに特化した魔法使いのことだ。“治癒力”や“回復力”を高めて自然回復よりもずっと早い時間で治してしまうんだね。だが,ただ“回復力”を高めれば良いわけじゃない。その人の持つ体力や,元々の身体の形や状態へ戻す“復元力”や“再現性”なども考えながら魔法を使わなければいけない。これを間違うと症状が悪化したりする。なかなか大変な仕事なんだな,これが」

「医者とは違うんですか?」

「医者は魔法を使わずに治す。僕らは魔法を使う。どちらも治すことに違いはないが僕らの方がより早く,急速に治せるから,戦士や冒険者とか怪我の絶えない連中はこっちのほうによく来る。医者より金は掛かるがその分時間は得だよ」

俺はまだ聞きたいと思ったが,先に治療が始まりそうだ。

「かあさん,きておくれ」

と,マルコは部屋の向こうへ声を張った。「はーい」と返事が聞こえたかと思うと,さっき会った白衣の女性が部屋にやってきた。名はリリーというらしい。リリーは俺に十センチほどの木の棒を差し出してきた。それを受け取ると,彼女はカチカチと歯を鳴らした。木の棒を噛めという仕草に見える。念のため「噛むんですか?」と聞くと,「イエス!」と親指を立てて応えた。何の意味があるのか分からないが,とりあえず従っておこう,と思い木の枝を噛む。するとリリーが突然俺の身体を強く抑えつけた。驚いて彼女の顔を見ると,彼女はニコッと笑った。

「ちょっと痛いけど,我慢してな」

マルコが俺の左腕を掴む。彼の右手に青色のオーラが帯び,そのオーラが触れている部分は暖かいような冷たいような妙な感じがする。と思っていたら急に折れ曲がった左腕を,ぐっと反対向きに折り曲げた。

「ぎゃあああああ!」

めっちゃ痛い。急に痛い。そら絶叫もしますわ。なんの掛け声もなしに折れた腕を元に戻そうとするんだもの。

「はい,暴れないでよー」

左腕はバキバキと鳴りながら正常な向きに戻っていく。マルコは折れた部分に右手を当てながら左手で徐々に向きを正していく。その間の激痛たるや言葉に出来ない。くわえた木の棒は少し砕けて木片が口の中に落ちた。身を捩ろうにもリリーにがっちりと抑えつけられている。一度折った骨をもう一度折って治すなんて,人の腕を折り紙みたいに考えやがって!

 かなりの激痛を伴いはしたものの,左腕は元のように戻った。マルコはひどく神経を使ったのか,顔中に大粒の汗の球をいくつも浮かべ呼吸も荒々しい。リリーに手渡されたコップの水を一気に飲み干すと俺の方に向き直り,

「今日はここまでにしよう」

と言った。

「明日もまた来なさい」

と言われ,「もう治ったんじゃ?」と思わず聞き返すと,「まだ完治したわけじゃないさ。それに君,足も痛めているだろう」と言われ,結局明日も来ることになってしまった。

 治療費も結構かかった。一回の治療でイーサンから貰った餞別も半分近く無くなった。これで明日も同じ分請求されたらどうしよう。手持ちが不安になった。それでも左腕が元に戻ったのは嬉しい。まだ多少の痛みはあるが激しく動かさなければ問題ない。左手を空にかざし,開いて閉じてまた開く。たった一日ほど使えなかっただけなのに随分久しぶりに自由になったような気がする。ハルは俺以上に嬉しそうに笑って,しきりに喜んだ。俺らはギルドの方へスキップしながら向かった。


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