第三話 その14
「アームドアームね。不意を突けたから良かったけど,かなりギリギリだったわ」
マリアは肩で息をしながら呟いた。
「マリアお姉ちゃん!」
ミリカがマリアに抱き着いた。その目には涙が浮かんでいた。マリアはミリカを受け止めるとよろけた。エドもおずおずとマリアに近寄った。マリアは二人の頭を優しく撫でると少し顔を強張らせ,「勝手にどっか行ったら危ないでしょ」と叱った。二人が謝ると「でも,無事でよかった」と顔を綻ばせた。
「努力!」
ハルがこちらを心配そうに覗いていた。
「おう」
俺はハルの背丈まで腰を下ろし,折れていない右腕でハルを抱き締めた。
「助けきれなくてごめんな。エドを助けてくれてありがとう」
ハルがいなければ,俺が投げ飛ばされたときにエドの命は奪われていたかもしれない。マリアが来なければみんなを守り切れなかっただろう。その弱さの懺悔を,卑怯にもハルに押し付けてしまった。だが,
「ううん。努力がハルたちを助けてくれたんだよ。ありがとう,努力」
ハルは俺の胸に優しく頭を押し付けた。
「アンタ,その腕――」
マリアがやって来て俺の左腕を指差した。
「ああ,これな。めっちゃイテぇ」
何故か俺は,わざとなんでもないかのように装って強がった。へらへら笑って折れた腕を振った。死ぬほど痛い。
「そう……」
マリアは何かを考えこむような顔をして,それ以上は何も言ってこなかった。
しばらくしてウォーレンが子供達を連れてやってきた。エドとミリカを見ると緊張が解けたのか,ふにゃふにゃとへたり込みながら二人を抱き寄せた。それから今度は俺の腕を見て途端におろおろとしだした。その様は空気を入れられたり抜かれたりするビニール人形のようで少し和んだ。ウォーレンはすぐにでも隣街の回復魔術師のところへ行こうと言ったが,マリアが日の暮れかかっている今は危険だと反対し,翌日朝一番に出発することで話は落ち着いた。
孤児院に帰る道中,怪物の死骸を引きずりながら互いにどんなことがあったかを話した。
ハルと俺がエドを探しに離脱した後,マリアは一人で何十もの魔物を倒し,逃げようとした魔物も残さず倒したという。ウォーレンは
「並々ならぬ才能です。これほどの才能は一流の戦士にも劣らないでしょう。若くして末恐ろしいです」
と,マリアを褒めたたえた。
「ですが大量の死骸が残ってしまいました」
「なにかまずいんですか?」
「ええ。血の匂いは他の魔物を呼び寄せるでしょうし,自然にも悪影響を及ぼしかねない……」
「じゃあどうしたら?」
「通常,魔物の討伐はギルドの仕事ですからね。倒した魔物も,数が少なければ取り扱ってくれますが,あの数を運ぶとなるととても……」
するとマリアが
「ならギルドには私が話をつけるわ」
と割り込んできた。
「私,ギルドの許可証持ってるから」
「えー!?」
ウォーレンは口を大きく開け驚いた。マリアは少し得意げな顔をして紐に結ばれたクリスタルを振って見せた。俺が全く会話に付いていけずしかめ面をしていると,ウォーレンが親切に教えてくれた。
「ギルドの許可証を貰うには試験を受けなくてはなりません。それにジョブごとに年齢制限などがあって,例えば戦士なら,男性は十六歳,女性は十八歳からです。この制限は安全のためという側面が強い。ギルドの仕事は危険で過酷であるために,相当の実力が無ければ加入は許されないんです。ですがマリアさんは――?」
「十四」
「十四歳!? その若さでギルドに加入したとなると,やはりというか,いや,とんでもない実力者ということになります」
「へー」
よくわからないが,中学生が運転免許を取るようなものか? それとも飛び級で大学に入学するようなものか? 結局ピンとこずに,俺の中ではマリアはスーパーキッズという評価で落ち着いた。
「ギルドと話し合って討伐分の報酬を貰うわ」
この件はマリアに任せることにした。
今度はこちらが一連の出来事を話すと,ウォーレンは事あるごとに謝ってきた。今生きているから気にしないでくれと言ってやった。我ながら大物ぶったことを言っていると思った。でも実際ウォーレンが悪いわけではないし,死ぬかもしれないとも思っていたのでやはり生きているだけ充分というのも嘘ではなかった。エドが魔法を使ったことを伝えるとウォーレンはびっくりしすぎて腰を抜かした。エドが「僕も,勇者様やウォーレンみたくなりたかった」と恥じらいながら言うと,ウォーレンは涙をこらえ,エドの頭を撫でて大いに褒めた。他の子供達はその話を聞いてエドを囲み,エドは一躍ヒーローになった。




