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第三話 その13

ミリカは昨晩にエドを守ってあげると言っていた女の子だ。エドを心配して一人で探しに来たのかもしれない。

「エド! ハルちゃんもいる!」

ミリカは二人に気付き顔を輝かせて近寄ろうとしたが

「来ちゃダメ!」

ハルが叫んだ。

「え――?」

ミリカはその叫びの意味を理解出来ていなかった。

 ミリカが現れたのはハルとエドの二人と,怪物との間だった。怪物はさも自然に標的をミリカに切り替えた。

「あっ……」

ミリカはようやく怪物に気付いた。だが恐ろしさからか,石のように身をこわばらせて動かなくなった。

「クソ!」

俺は必死に走った。しかし,怪物は今にミリカへ襲い掛かろうとしている。

(間に合わない――!)

凄惨な未来の予感が頭をよぎる。その時,

「うわあああ!」

それまで俯いていたエドが叫ぶと全身を青いオーラが包んだ。

「僕も,勇者様みたいに!」

エドは弾かれたように一直線に怪物へと飛び掛かった。とても子供の脚力とは思えないようなスピードで怪物の脇腹に体当たりした。怪物はバランスを崩し片膝をついた。

「エド!」

ミリカが叫ぶ。エドもまた体当たりの反動で体勢を崩し地面に転がっていた。ミリカがエドの元へ駆け寄る。

「エド! 大丈夫?」

「大丈夫……ミリカちゃんは,僕が守る」

エドは顔に着いた土を払いながら怪物を睨んだ。

 怪物は体勢を正すとエドを睨み返し,けたたましく吼えた。そして右腕を胸の前で交わし首に巻き付けるようにした。腰も捻っている。裏拳のような攻撃の準備だと直感した。

 俺は走った勢いそのままに二人の前へ飛び出した。エドが体当たりした分時間が生まれていた。

「最高だったぞ! エド!」

口をついた言葉は本心から出たものだった。

 怪物が横一線に腕を振る。それを脇腹で受け,その右腕を抱えるように掴んだ。エドがあれほどの“勇気”を見せたのだ。俺はそれ以上のもので応えなければならない! 腰を落とし,脚を大股に開き,重心を下げ攻撃の勢いに負けないようにする。エドやミリカが後ろにいると思うと力が無限に湧いてくる。

 そのまま左足を軸に身体全体を捻った。深く根を張った巨木を引き抜く様に,これでもかと踏ん張った。雄叫びを上げて怪物を投げ飛ばす。怪物はふわりと放物線を描いて重たい音と共に地面に落ちた。しかしすぐに立ち上がると激しく威嚇してきた。

 木刀は手元にない。片腕は使えない。もう打つ手が無かった。今のは運が良かっただけだ。投げるのに十分な条件がたまたま重なっただけで次は上手くいかないだろう。

(万事休すか!?)

そう思った時,怪物の横合いから猛烈な火炎が噴き出した。火炎は怪物を包み周囲の木々にも火をつけた。

「ぐおおお!」

怪物がよろよろと怯む。そこへ何かが追い撃ちをかけるように横切った。怪物の首から血が噴き出す。また何かが素早く怪物を横切る。目が痛みでかすんでその正体に目が追い付かない。

 怪物は直立したまま至る所から血が噴き出し,そのまま膝から崩れ,大きな音を立てて前のめりに倒れた。

 呆気に取られていると倒れた怪物の背後から何者かが近づいてきた。マリアだった。


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