第三話 その10
「エドくん! 居たら返事をしてください!」
ウォーレンが呼び掛けるも返事はない。
「エド! エド!」
子供らも声を出す。俺も辺りを見回すが姿はない。一人の子が声を出しながらふらふらと盾の外へ出そうになる。
「ダメ!」
ハルがその子の手を引き連れ戻す。それからとうの昔に決意していたように
「ハル,エドのこと探してくる!」
と言って森へ入っていった。ウォーレンの制止の声も聞かずに。
魔物がどこに潜んでいるか分からない以上,森は危険だ。マリアやウォーレンの庇護が届くこの場所が最も安全とさえ言える。エドが危ない。何故見失ったのか,どこへ行ったのか,そんなことを考えている暇はない。一刻も早く見つける必要がある。
「ウォーレン!」
俺は騒ぎに負けないよう大声を張る。ウォーレンがちらとこちらを見た。
「俺も探しに行きます。必ず,エドを見つけてきます」
「ですが――!」
ウォーレンはそれ以上言わなかった。攻撃が激化している。
「マリア!」
「聞こえてるわよ! バカ!」
「任せて良いか!?」
「誰に言ってんのよ!」
マリアも手一杯だった。だが彼女が負けるとは思えなかった。二人ならきっとこの場を切り抜けられる。なら俺は必ずエドを見つけ出さなくては。
その場を後にし,ハルの向かった方へ急いだ。
ハルにはすぐ追いついた。
「当てはあるのか?」
聞くと,ハルは立ち止まり耳に手を当てた。
「こっちの方からエドの声が聞こえるの」
「分かった。急ごう」
聞こえる音に注意を巡らし進んでいく。微かに聞こえる声。泣いている声。それは次第にはっきりと聞こえだした。
エドは木陰から離れた明るい場所で一人泣いていた。
「エド!」
ハルが近寄り慰める。
「エド,大丈夫? 怪我はしてない?」
「うわあああん!」
エドは返事の代わりに大きな声で泣き出し,ハルも少し面食らったような顔をしている。
「エド,ウォーレンやみんなのところへ戻ろう。バラバラになってしまう方が今は危ない」
「うえええん!」
俺が話しかけても頑として蹲り動かない。無理やりにでも担いでいこうか。そんなことを考えだしたとき,視界の端に何かが見えた。人? 遠目には人影に見える。二本の足が胴から伸びて,頭もある。人のシルエットに見えた。しかしそれは即座に否定された。足が三本ある。人と思われたそれは,その畸形をもって人であることを否定した。途端に心臓を握りつぶされたような感覚。全身から熱が奪われ,暑くもないのに冷たい汗が噴き出る不快感。異形に対する嫌悪。まて。足は三本ではない。近づいてくるうちにはっきりとしてくる。三本目の足に見えたものは腕だ。肩から地に着いてしまう程の長い腕。太く発達している。その化け物がこちらへ近づいてくる。
(やばい!)
早く逃げなくては,と生存本能が騒ぎ出す。
「ハル! エド! 逃げよう!」
二人に振り返りほとんど怒鳴るように声を掛ける。
「うわあああん!」
しかしエドは座り込んだまま,より大きな声で泣くだけで立とうともしない。
「エド!」
ハルが立たそうと腕を引くが振り放してしまう。いよいよ化け物は近くまで来た。人のように二本の足で立ちながら,その異常な右腕を持つ化け物は,こちらを見て笑ったような気がした。
(やるしかない)
俺は木刀を抜き,構えた。




