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第三話 その5

 夕食が終わると,みなが自発的に働いた。食器を運ぶ子,洗う子。習慣として身についているのが窺える。あっという間に片づけを終えると,子供達は歯を磨き,パジャマに着替えぞろぞろと寝室へ向かう。寝室は二つあり,一つは二段ベッドが四つ置かれたもので,もう一つは二つのベッドと二人掛け程の大きさのソファが置いてある。察するに二段ベッドの方のある方が子供達のもののようだが,子供らはもう一方の部屋へと入っていき,ソファの前に座り込むと

「ウォーレン,今日もお話して」

とせがみだした。ウォーレンは微苦笑すると,ソファに座り,「何の話が良いですか?」と聞いた。子供達は「勇者様の話!」と,初めから決まっていたかのように揃って答えた。ハルは子供達と一緒に並んで座った。俺は後ろの方に少し離れて座り,マリアはベッドに腰掛けた。

 ウォーレンは咳払いをすると,身振り手振りを大袈裟にして話始めた。

「それはずっと昔のこと,誰が数えたのか,かれこれ二千年以上昔のこと。人々は太陽の下に暮らし,自然を愛し,争いを拒み,平和に暮らしていました」

ざわついていた子供達はすっかり静かになって耳を傾けている。

「ところが,平和は突然に破られました。空は暗黒に奪われ,どこからか現れた魔物たちはみな凶暴で人々を襲います。森は壊され,川は溢れ,海は猛り,大地は業火に焼かれました。

 日の光の無くなった大地では作物も育ちません。昼も夜も分からないような闇が人々を覆い,暗闇からはいつ魔物が飛び出してくるかもわかりません。次第に人々は互いを疑い出しました。「あいつは俺の財産を狙っているに違いない!」

 暗闇は疑心暗鬼を生み,人々の心さえ覆いだしたのです。

 あれほど自然を愛し,隣人を愛していたのに,すべては闇のために,何もかもが恐怖へと反転してしまったのです。

 ではこの闇は,一体何処からやってきたのか。それはかの残虐な“魔王”の誕生の為に他ならなかったのです」

女の子たちは「きゃあ!」と叫び,男の子達は声こそ出さないが,口を堅く結び震えている。

「魔王は,それはそれは恐ろしい存在でした。触れるものを全て壊し,逆らうものはなんでも許しませんでした。人々は何よりも魔王を恐れました。魔王から逃れるために,何もかも差し出し,ついには心さえ差し出す者まで現れました。そうして魔王は世界を支配したのです」

ウォーレンはランプの灯をふっと吹き消した。「うわあ!」とみな悲鳴をあげた。粋な演出だと思う。

「しかし――」

再び明かりが点く。

「誰もが希望を失ったとき,一人の勇者が現れたのです」

子供達は一斉に歓喜の声をあげた。

「勇者の誕生は,それは突然でした。

 勇者は次々に人々を救いました。闇を退け,魔を砕き,さながら夜明けの光。それまで世界を覆っていた闇は,みるみるうちに勇者の威光によって払われていったのです」

子供達はめいめいに声をあげた。

「やっぱりかっこいいな,勇者様!」

「俺もいつか勇者様みたくなる!」

勇ましいことを言うのはやはり男の子に多い。

「僕も,勇者,に,なり,たい」

おずおずと言ったのは昼間泣いていたエドだ。すると可哀想なほどに,反論がボコボコ飛んできた。

「エドには無理だよ」

「そうだよ,エドはいつも泣いてるもん」

「泣いて,ない!」

エドは涙目で応える。そこへ夕食のとき隣に座っていた女の子が割って入る。

「みんな,エドのこといじめちゃダメだよ」

するとエドは

「僕,ミリカちゃんも,守る」

と言った。しかし

「大丈夫よ。私がエドのことを守ってあげる。だって勇者様はいつでも弱い人の味方だもん」

……子供の無邪気は恐ろしい。とどめを刺したのは他でもないミリカちゃんではないだろうか。

「まあまあ。まだお話の途中ですよ」

ウォーレンが困ったように笑いながら言うと,子供達は再び静かになった。


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