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第二話 その11

 パニックは広がり,子供達は不安と困惑から,胸を押さえ苦しそうにしたり,目に涙を浮かべたりしている。ジェロの弟も呆然として立ち尽くしていた。

 アツシは鼻を押さえながらヨロヨロと立ち上がったが,その顔面には恐怖に似た表情が,白く張り付いている。

 ハルは羽を広げ,子供達の方へするすると飛んでいくと,「大丈夫だよ!」と一人一人に声を掛けて必死に励ましていた。だが誰も落ち着く気色はなかった。

 俺もハルと共に子供のフォローに向かうべきだろうかと足をそちらへ向けた時,更に予想外のことが起きた。

 ボウ! と激しい音と共に,火炎が空を焼いたのだ。それから水流がとぐろを巻き,盾や剣が現れ,つむじ風が地を捲り,地面には裂が入り,紫電が縦に走った。

 子供達は泣いていたことも忘れ,目を見開き,驚き,茫然自失としていた。その中で誰かが言った。「私の魔法……?」

 次第に子供達の中から似たような声が上がり出した。ユーキはそれを聞くと高らかに笑い出した。その笑いは悪事を達成した者に許されるような恍惚を孕んでいるように思われた。

「お前! 何をした!?」

俺は自然と口をついていた。疑念と嫌忌が胸を騒がせ,生まれた怒りと多少の勇みがそうさせた。

「アッハッハッハァッ!」

ユーキは身体をくの字に曲げては反り返ったりさせ,全身で笑っていた。腹を押さえ,顔に手を当てて笑う様は悦に浸っているようで演技じみており,腹が立った。

「お前,転移者だろっ!? なら,この異世界のルールも分かってんだろ? 概念だよ,概念。目に見えないものが具現化されるんだ。お前の魔法はなんだ?」

俺は答えたくなかった。だが黙っているのも癪だった。だから答えた。

「……“努力”」

「は? “努力”だって? アッハッハッハ! お前バカかよ!? なんでそんな回りくどいもん選んでんだ? この世界の住人を見てりゃ分かんだろ? どいつもこいつも“才能”を具現化してる。分かるか? 概念が具現化されるのに考え方に“柔軟性”がねぇよ」

ユーキの異世界を見下したような態度はいったいどこから来るのだろうか? その過信,傲慢の正体は?

「おっさんもバカだぜ。自分の“観察力”を具現化したんだろう?」

そう言うと,ユーキは全身に緑色のオーラを纏った。「私のだ……!」とアツシは零した。

「概念は“才能”だけじゃない」

「何が言いたい?」

「フフ。教えてやろうか? 今は最高の気分だから教えてやる!

俺は! “可能性”を選んだ! 分かるか!? 俺はお前達の“可能性”を奪ったんだ!」

俺にはユーキの言っていることが理解出来なかった。殊に異世界に対して理解が浅いのだからそれも無理がないだろう。アツシでさえ複雑な顔をしているし,この異世界に生まれ育った子供達も分かっていないようなのだから。

 ただ唯一,マリアは違った。フンと鼻を鳴らすと,不機嫌そうに眉をひそめ

「そういうことね」

と呟いた。それから

「品のない魔法だわ」

と言い出した。

「はあ? 異世界のメスガキには,この魔法の良さが分からないんだなあ」

ユーキはマリアの物言いに引っ掛かったのか,マリアに対して挑発的な目を向けた。しかしマリアは歯牙にもかけていない。

「……ちょっと分からせてやるか」

そう言うと,ユーキはマリアに向けて腕を伸ばし

「Possibility!――Consume!」

と高らかに唱えた。火炎がマリア目掛け一直線に飛び出した。

 マリアは木箱に腰掛けたまま身じろぎもせず,組んだ脚もそのままに,右腕を伸ばした。

「魔法も下品なら,使い方も下品ね」

空気の爆ぜる音がすると同時にマリアの一メートルほど前方から青く大きな火炎が現れ,真っ直ぐに,ユーキの放った火炎も飲み込みながら,そのままユーキの腕を焼いた。「ああ!?」ユーキは焼かれた腕を振り回した。


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