表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/62

第二話 その9

 午後になって,俺はジェロを連れて学校を訪れた。アツシは広場で子供たちを見ている。声を掛けると彼は笑って答え,それからジェロに気が付いた。

「久しぶりだな,ジェロ」

「はい,センセイ」

アツシはこっそりと「連れてきてくれてありがとう」と耳打ちしてきた。

 ジェロと共に子供たちを眺めた。みなそれぞれ得意な魔法を唱えては,火炎や水流などが飛び交っている。その中で雷撃が飛んだ時,ジェロは表情を曇らせた。ジェロの弟だ。その弟は,一瞬ジェロの方を見て笑った。俺は二人の不和を改めて確信した。どうにか二人の関係が対等にならないだろうか。初めてジェロを見たとき,彼は弟とその仲間にいじめられていた。魔法が使えないというだけで,そこまで関係がこじれてしまうのだろうか。異世界での生活には,それなりに慣れたつもりだが,価値観の違いに関して言えば俺にはまだ理解出来ていない。

 宿に戻るとあいつがいた。改めてよく見ると,背は俺より低く,長く伸びた脚や,陶器のような白く透き通った肌,小さな顔に猫のように大きな目,それらはまるで少女漫画の世界からそのまま抜け出してきたかのように可愛らしく,美しい。彼女の容貌の美しさを否定するのは難しく,またそんなことをするのは不粋であるようにすら思われた。ただしそれほどの美貌を有している彼女に心を惹かれずにいられるのは,彼女からの不可解な敵意のためであった。因縁をつけられ,一方的な態度しか示さない彼女に対して,その理由を理解することの出来ない苛立ちばかり募っていた。

 彼女は狭い食堂の一席に座り夕飯が来るのを待っていた。鼻唄を鳴らしながら頬杖をついていたが,こちらに気付くとぷいとそっぽを向いた。

 ハルは初めからそうすると決めていたように真っ直ぐに彼女の方に向かうと,隣の席に腰掛けた。俺は仕方なしにそちらに向かう。

「ハルはね,ハルっていうの。名前,なんていうの?」

ハルは臆面なく聞く。

「ふふ。私はマリア。よろしくね,ハル」

少女は名をマリアと名乗り,初めて笑顔を見せた。ついでだから俺も名乗ろう。

「俺は努力――」

「あんたには聞いてない」

これである。取り付く島がないのだから仲良くしようがない。

 飯はシチューだった。ハルとマリアは楽しげに食事を進めていた。俺が会話に入ろうとするとマリアの牽制で流れが止まるため,俺は黙って二人の様子を眺めていた。ハルは時々こちらを見て心配そうな顔をしていたが,気にするな,と目で応えると再びマリアの方を向いて会話を始めるのだった。

 二人の会話を聞いていると少しだけ彼女の正体について分かった。マリアは今十四歳で,「勇者生誕の地」という所で育った。優しい両親に育てられ,好きな食べ物はぶどうで好きな色は紫だ。動物も好きで野良猫を隠れて世話していた。しかし親に見つかった際には上手く説得し家族に迎い入れた。その猫が老衰で亡くなったときはとても悲しんだ。さて。質問はハルがしていたため偏りがあり,俺の知りたいことはほとんど無かった。それでも全く知らないよりは良いと思った。それまで未知の存在であった彼女は人間らしさを見せたために,正体の分からなかった不気味さを多少なりとも拭った。

 それにしてもハルのあの誰にでも胸襟を開かせてしまうような性格はどこから来ているのだろうか。ハルとマリアは今晩一緒に寝るらしく,一つのベッドに入ると,マリアはまたあのシャボン玉みたいな膜を張ってしまった。俺は一人広くなったベッドに入ると途端に眠くなったので,そのまま寝た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ