第二話 その6
俺が魔法を使えるようになったいきさつを話しても,ジェロは一向にそれを認めようとしなかった。しかしそれまで拒絶的な態度しか見せなかった彼は,いくらか素直に話してくれるようになった。ともすれば彼自身のことも話してくれるようになった。
「俺の家系は代々雷使いでさ。父さん母さん,祖父ちゃん祖母ちゃんその先の代までみんな優秀な魔法使いだった。血の繋がりは偉大さ。脈々と継がれてきた力を意識すると,自分もその一人なんだって,誇らしくなる。それが魔法を強くさせるとも父さんに言われたけど,まだよくわかんないんだよね。まあこの話はいいや。
それでさ,俺らの家系はみな強力な雷魔法を覚える。それが扱えると一人前の証なんだ。俺は小さいときに,早くみんなに認めてもらいたくて,その魔法を使ったんだ。そしたら,身体に合わない魔力を一気に消費したもんだから気を失った。あの時の全身が冷えてくような感覚が怖くて,その日から魔法を使うのが怖くなってさ。普通の魔法さえも使えなくなっちゃった。
今じゃ弟のゴーザが俺よりも優秀で,父さんも母さんも俺にはまるっきり期待してないのさ」
ジェロは寂しそうにも,すっきりしたようにも見える顔でそう話した。
「だからって弟にやられっぱなしでいいのか?」
「魔法が使えないんだ。そんなんこの世界じゃ能無しだろ」
「努力は能無しじゃないよ」
ハルは困ったような顔をしている。
「努力は魔法使えなくても使えるようになったよ」
「俺がそこのアンちゃんと同じってわけじゃないだろう」
「でも使えるようになったよ!」
ハルの拙い言葉に,俺なりのフォローをする。
「元々使えてたんだろ,魔法。練習すればまた使えるかもしれない。それに弟との関係だって,あのままで良いとはお前も思わないだろう?」
「魔法が使えないんだ,仕方ないじゃん」
「なら魔法以外で立ち向かえばいい。俺が教えてやるよ」
ハルはジェロを笑顔で立たせ,俺は芝生を,それも柔らかそうな所を探した。
「何すんだよ」
「魔法が無くても他の特技があれば少しは舐められずに済むかもしれん」
「だから何すんだよ」
「柔道だ」
「ジュードー?」
話は唐突のように思われるが,いじめに対して身を護る術があれば良いと思うし,何より俺は他に教えられるものがない。ちなみに柔道は中学の時やっていたがやはり才能はなく,卒業間際に記念として,一度,手を抜いた下級生を何とか投げたのが精々である。それでも教えることくらいはできる,つもりだ。
俺はジェロの襟首と袖を掴み,ゆっくりと投げの動作を教えた。やってみろとジェロに同じ動きをやらすと一回やったきりやめてしまった。
「なんでやめる?」
「普通一回やったら覚えるだろ。覚えられないなら才能がないってことだよ」
これが異世界の感覚なのだろうか。繰り返して身に付けるという“努力の概念”がない。
「待て。覚えるまでやるんだ」
「意味ないよ,こんなの」
「意味あるもん!」
ハルが珍しく大声を上げた。
「努力はね,魔法が使えなくても,何度も何度もやって使えるようになったの。だからできなくてもいつかできるよ」
「ほら。付き合うから,やろうぜ」
ジェロはバツが悪そうだった。この無意味な反復を見下しているのだろう。そして理解できない行動を求められ続けるのは辛いだろう。まして努力の概念を知らない人間がそれに近しい行為をするとなると……。
ところで異世界人が努力を知らないという認識は正しいだろうか。俺はまだ確信が持てずにいる。
ともかくジェロを無理に付き合わせた。日が暮れて辺りが暗くなってきた。
「よし,続きはまた明日だな」
「はあ!? また同じことをやんのか?」
「できるまでやるさ」
「やだね! こんなのもうごめんさ!」
「こっちから行くさ」
「勝手にしろ!」
ジェロは文句を言いながらどこかへ帰っていった。




