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第二話 その5

 昨日の帰りに見たことをアツシに話すと,アツシが事情を話してくれた。学校には有力な貴族や,力や才能のある家系の子供が集っている。その多くは遺伝的才能を開花させるが,中にはそうならないこともある。

 昨日の子は兄弟で学校に通っているが,家督を継ぐはずの兄が才能に恵まれず,弟ばかり才能が目覚めているのだそうだ。家系は有名な雷使い(異世界に於いて魔法による戦いは少なくないとアツシが教えてくれた)であり,二人ともその血を受け継いだが,兄は昔その力を制御できずに魔法を放ってしまい気を失った。以降魔法を打つことを躊躇うようになった。

 対して弟は順調に力を付けた。そして次第に兄を見下すようになり,ひいてはいじめるようになったという。

 アツシは仲裁に入ったが,問題は簡単には解決しそうにない。

 ハルは悲しそうな顔で話を聞いていた。一通り聞き終えると「どうにかできないかな」と呟いた。正直俺には全く関係のない話である。しかし自身の経験から,いじめや仲間外れにされる気持ちがわからないはずがなく,ハル同様なんとかしてやりたいという気持ちになった。

 兄は名をジェロといい,いつも授業には出ず,どこかをふらついているらしい。俺とハルはジェロを探すことにした。

 町を歩き回って探すのも大変だと思いジェロを見なかったかと尋ねて回った。どうやらいつも町外れの大きな木の下にいるということが分かった。

 ジェロは木の下に寝転んでいた。ぼんやりと空を眺めている。

「よう」

俺が声を掛けるとハッとして起き上がりこちらをみた。

「なんだ。昨日のアンちゃんか」

ジェロはふうと長い溜息をつくと髪をガシガシと掻いた。

 話しかけたは良いが何を話すか考えていなかった。変な沈黙が訪れたが,ハルがその沈黙を破った。

「ねえねえ,食べ物は何が好き? ハルはね,りんごとね,さくらんぼと,ももと,あとねー――」

突飛な展開に俺は,恐らくジェロも面食らった。ハルはニコニコとしてジェロに話しかけている。そのためジェロは話を合わせるほかなかった。

 始めのうちはハルが多くを話していたのが,次第にジェロの方が多くを語るようになっていた。俺は感心した。ハルがその自然体で彼の心を開いたのだ。人付き合いにも不器用な俺にはできないことだと思った。

 二人が笑いあい,一瞬間沈黙が訪れた。するとジェロは

「それで? 何か用があって来たんだろう?」

と言ってきた。俺は単刀直入に

「昨日のこと,何とかしないのか?」

と聞いた。

「良いんだよ,別に。弟には才能があって,俺には無かっただけの話さ」

「だからって,それで全部が決まるわけじゃないだろう。その,魔法で勝てなくても他に何かあれば」

そう言うとジェロはとても不思議そうな顔でこちらを見た。

「何言ってんだアンちゃん。雷使いの元に生まれて雷魔法が使えないんじゃ意味がないだろう。生憎他の才能も無いんだから」

言うとジェロは全てを諦めたとでも言うような表情を見せた。俺には理解が出来なかった。自分には才能がないと言って練習に明け暮れるスポーツ選手を知っている。自分は未熟だと言って本を読み耽る学者を知っている。俺はそうした人々に遠く及ばないと思いながらも,自分の才能のないことを理由に何かを諦めたということがないと思っている。それに出会ってきた人の中で,一つが出来ずにすべてが出来ないと決め込んだ人はひとりもいない。俺にはジェロの感覚が理解できなかった。一つできなくても,他に何かできる可能性を見捨てるというのが理解できなかった。

「でも魔法が使えないわけじゃないんだろう?」

「しつこいな。だったらなんなんだ」

答えたのはハルだ。

「努力はね。魔法が使えないんだよ」

「は?」

「でもね,頑張って使えるようになったの」

「おいおい,魔法が使えない奴なんているのかよ。冗談にも現実味が必要だぜ」

俺は掌に百円ライターのような火を灯した。

「魔法が使えない演技か? 騙すなら他をあたりな」

俺は力を込めて火を大きくしようとした。俄かに背中が燃え出した。

「ぐわあ!」

「何してんだ!?」

俺は背中を地面に擦りつけ消火する。

「……な?」

「本当に魔法が使えないのか?」

俺が頷くと,ジェロは呆然としていた。


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