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第二話 その4

 朝になると俺は走りに出た。それから素振りと筋トレをした。環境が変わっても,慣れた行動をすることは安心をもたらす。ルーティンというやつだろうか。寝て起きて飯を食って,歯を磨いて,そういう習慣が,自分と世界を繋げている気がする。変容するものとしないもの。それでいうと異世界とはそれほど元居た世界と異なるだろうか。アツシの言う通り,慣れてしまえばどうということもない気がする。

 一晩寝たら頭がすっきりとした。部屋に戻るとちょうどハルが起き出していた。

 再びアツシの元を訪ねた。話題は他の転移者についてであった。

「他の転移者について,全てを知っている訳ではないが,みな上手くやっているようだ。

 この異世界の暮らしを気に入って隠居のように過ごしている人が,出会った中では多い気がする。

 噂に聞いたものだと自転車を売ってお金持ちになった人もいるとか。異世界にはないものだから,賢い人もいたもんだね。一応私も“学校”で名を挙げたがね。

 あとはギルド。そうやって職に就いているのがほとんどだろう」

職に就く。俺は高校の三年間が約束されたものだと思っていたから,自分の人生について考えたことがなかった。親の庇護を離れ,異世界に飛ばされ,自ら生きる道を考えなくてはならない。しかし

「まずはハルと一緒に女王様のところへ行こうよ」

とハルが言った。そうであった。深く考えるのはその後でも良いはずだ。

「もう少しこの世界を見てから決めようと思います」

そう言うとアツシは大いに賛成してくれた。

 午前の授業に再び参加し,午後になった。

 昨日同様にみな的に向けて思い思いに魔法をぶつけていたが,二人の子供が何かを話し合っているのが聞こえた。

「ボクの盾,そろそろ完成しそうなんだ」

「本当? でも前は途中で消えちゃったよな。あの時は焦ったよ」

「多分もう大丈夫だよ。ボクの方が先に卒業しちゃうかもね」

「言ったな。よーし。そんなに言うなら試そうぜ」

二人は互いに距離を取って向き合った。まさか魔法を打ち合う気だろうか。不安になりアツシを呼ぶと

「ああ。大丈夫だろう。見ててごらん」

と言い隣に立った。

「Remember!」

「Imagination!」

輪郭をなぞるように光が二人を包む。

「replication!」

「flame!」

一人は何もなかった空間に大きな盾を出現させた。その大きさは大人一人がすっかり隠れてしまえるほどで,装飾も美しく,気品を感じさせるような存在感を放っている。もう一人は伸ばした腕を始点に火炎を放った。一気にこちらの顔を火照らすような威力を有している。それは地を焼きながら一直線に盾へとぶつかると,盾に弾かれて四方へ分散した。

「ちょっと! 本当に大丈夫なんですか!?」

思わず大声をあげてしまう。盾の後ろには魔法を唱えた子供がいるし,もう一人も火炎放射を止める気配がない。魔法の持つ恐ろしさを肌で感じ,さも当然のという風な周りの落ち着きようは異様に思えた。

「ハハハ。まあこれからだよ」

盾は次第に溶けだしていた。しかし火炎も威力を失くして,ついには途絶えた。

「おお」

周りの子供たちから拍手が起こる。

「何がどうなったんですか?」

魔法に気圧されて全く要領が得られず困惑するばかりで,独り言のようにアツシへ問いかける。

「今のは魔力の強い家系の子と,“記憶力”の優れた子のぶつかり合いだ。魔力は遺伝的要素も強い。あの子の親は二人とも有力な魔法使いだ。もう一人の子はその高い記憶力から伝説級の盾を魔力によって“再現”したんだ。どちらも優秀な子さ」

「つまり魔力の生まれ持った強さと,再現性の才能の――」

「そう。戦いだ。概念が具現化するとこうやって個人間の差がでるんだ」

二人の子供は手を交わしあっている。才能の競争ということだろうか。俺は咄嗟に通知表や徒競走を連想した。それは明確な力の差であった。目に見えないものが具現化するとはこういうことなのだろうか。

 午後の授業も終わり,宿に戻る途中,子供がたむろしているのを見掛けた。一人が蹲り,それを四人が囲んでいる。傍目には余り良い光景には見えない。四人のうちの一人が右手に雷光を帯び始めた。少年は蹲りながら眩しそうにしている。悪い予感がした。

「おい!」

俺が声を掛けると四人は慌ててその場を去っていった。ハルが残された子に声を掛ける。

「大丈夫?」

「……うん」

俺は尋ねずにはいられなかった。

「今のは?」

「あれは,まあ。そんなの,あんたには関係ないだろう」

そう言うと少年は立ち上がり,体に付いた砂を払うと一人歩いて去ってしまった。

 ここいらにいる子供はほとんどアツシの学校の生徒だろう。明日にでもこのことを報告し,詳しい話を聞こうと思った。


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