プロローグ その2
俺の日課は大体決まっている。
早朝にはランニングに出掛ける。これは小学生の頃からの習慣であった。
朝食を済ますと学校へ行き,みんなと一緒に授業を受け,放課後には所属している剣道部にて稽古を受ける。部活動はどこに所属しようと大して上達しないのはわかっていたから,どこか適当に入ろうと思っていたが,父は武道をやらせたがった。それで中学では柔道部であった。はたから上手くいかないだろうと半ば割り切っているので,どうせ入るなら同じ武道である剣道でもやってみようという気になったのである。
この剣道も,初めのうちはひどいものであった。まず足さばきが分からなかった。他の新一年生達が基本を学び,素振りを学ぼうという頃にようやく足の動きを覚え,いざ素振りに参加すると,面打ちの一本目で手からすっぽ抜けた竹刀が壁に穴を開け,気の強い顧問の大山先生が凹むという珍事を招いたことがある。
毎週月曜日は部活が休みなので,他の生徒がするのと同様に,アルバイトを始めた。不器用が祟り転々とした時期もあったが,近所のスーパーの店長が面倒見の良い人で,仕事が迷惑にならない程度に働けるようになるまで雇ってくれて,それが今でも続いている。
バイトか部活が終わると,大抵は真っ直ぐ家に帰り,風呂で汗を流し,夕食をとる。そのまま自室で授業の予習復習をするか,軽く素振りをしてから部屋に向かうこともある。
ある日友人に一日の過ごし方を聞かれた際,おおよそ今のよう答えると,真面目だねとか,遊ぶ暇は無いのか,と尋ねられるが,俺は不器用だから人より頑張らないと出来ないし,遊びも上手くいかないからやらないんだと答えると,みな答えに窮したように身じろいだ。
それも学年が上がると同時に理解を得られたようで,部活で結果が出なくとも,勉強の成績が悪くとも,からかわれたり,白い目で見られないようになった。
俺はとにかく努力した。それしか生きる道を知らなかった。