第一話 おまけ
校正も推敲も,何もせず勢いだけで書きました。
乱雑ですが,お茶を濁すようなものですが,楽しんでいただけたら幸いです。
ナガラでの出来事である。時はそろそろ昼時というくらいに,なんだか人だかりが出来ている場所があった。
「なんだろう?」
「なにかしらね?」
二人はほとんど同時に首を傾げた。どうにもここからでは様子がはっきりしないが,聞こえてくる声は呼子のようなはっきりとした声である。
辺りには露天商が並んでいるが,そこだけがやたらに人が集まっている。だんだんと近づくにつれて様相がはっきりしだした。足の高い長テーブルが置かれ,そこにはおそらく商品と思われるものが並んでいる。テーブルは面が広く,そこにいっぱいの物が並んでいるというわけでもない。
「さあさあ! ご利用ご利用! 見てらっしゃい!」
黒縁の眼鏡をかけた,黒髪でつんつんとした頭の男が大声で呼びかける。隣にはもう一人,眼鏡をかけた,金髪の男がいる。
「さあ! 皆様,本日は晴天でお日柄もよく,お集まりいただきありがとうございます! 本日もとびっきりの美味しいものを紹介しますので,よろしかったらぜひ買っていってくださいね!」
慣れたような口上が衆目を集める。
「まずはヒカちゃん! よろしく!」
「はいはいダイちゃん!」
ヒカちゃんと呼ばれた金髪の男は少し横にずれると,見物客も磁力に集まる砂鉄のように一緒になって動いた。そこには魚や肉,果物などが並んでいる。
「本日紹介するのは,こちら~」
そう言いながらヒカちゃんが手を大きく広げ品物を指し示すと,どこからともなくファンファーレと紙吹雪が舞った。マジックショーの舞台演出を彷彿とさせる。客はまばらにおお,と声を漏らした。
ヒカちゃんは次に品物を一つ一つアピールしだす。
大きなサケの切り身を掲げ
「見てくださいよこのサーモン! オレンジの宝石みたいだよね!」
と,目を見開いて驚きの表情を大仰に示して関心をかう。
「ちょっと失礼して……おいしい!」
またもどこからかファンファーレが鳴り,客たちも,おお,と嘆声を漏らした。
「お次はこちら! 美味しそうなお肉でしょう!?」
何枚かに薄く切られた肉が客の眼前を浮遊して流れ,行きつく先には火が焚いてあり,肉たちは脂に陽光を集めてじゅうじゅうと焼かれていく。客たちの頭が前後したり揺れているのはおそらく唾を飲んでいるのだろう。
「それじゃあ,いただきまーす!」
ヒカちゃんが肉を口に入れると共に軽快な,ガブリ,というような音がどこからか鳴る。不思議なものでその音があるだけでその肉が旨そうに見える。
「おいしー!」
ファンファーレと歓声がまたも鳴る。それに合わせ客たちも声をこらえきれずに騒ぎ出す。
こんな調子でヒカちゃんは品物を余すことなく紹介すると
「お次はダイちゃん! よろしく~」
とダイちゃんの方を指し示す。客たちはダイちゃんの方へバタバタと駆けていく。
ダイちゃんは隣にコック帽を被った男を待たせていた。
「さあ名人,今日はなにを紹介していただけますか?」
「今日はベーグルです」
「ベーグル!? うわー楽しみやな~」
ダイちゃんはヒカちゃんとは違い,激しい演出は無かった。しかし流れるようなすらすらと紡がれる言葉たち,名人との軽妙なやりとり,客たちを楽しませる口上は笑いを生み,その場にいた者はすっかり和やかに二人のやりとりを見守っている。
ダイちゃんは実にうまい合いの手を,名人の説明の中に入れる。
「ベーグルは普通のパンとちょっと違うんです」
「えー,なになに?」
「生地を一度お湯につけるんです」
「お湯に!? するとどうなりますの?」
「食感がもちもちとしますし,長期保存,長持ちするんです」
「うわー,すごいなーベーグル」
間断なく行われるこのやり取りは客から緊張を奪い,遠目にも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「こちらが,完成したベーグルです」
「うわ! ありがとうございます,うわ! あっついなー,いただきます」
円形に形作られたベーグルは湯気を出している。ダイちゃんは大きく口を開け一口頬張る。
「うわ,うわ! うまーい!」
うまい! と,可愛らしい声がどこからともなくダイちゃんに合わせてこだまする。
「柔らかくて,もっちりしてて,一瞬お餅かな思たんですけど。あとから来る風味もいいですねぇ,うわおいし!」
客はなんだかそわそわとしだした。どうやら場面は佳境へと向かっているらしい。
「さあさあ最後はこちらです!」
ダイちゃんとヒカちゃんが指し示した先には,様々なベーグルサンドが並んでいる。ヒカちゃんが紹介した食材たちと,ダイちゃんが紹介したベーグルがここにきて一つになった!
客のボルテージは最高だ!
「それじゃ,いただきまーす」
二人は同時にベーグルサンドを頬張った。
「うわおいしー!」
「うわ,うまい!」
ファンファーレに歓声,拍手に紙吹雪,うまい! というこだまがその場を盛り上げる。客は狂喜乱舞。熱狂的なライブが行われている。うねるような熱がそこだけを渦巻いていたはずが,いつの間にか辺りに熱が伝播して誰もが踊り出さんというくらいである。
それからベーグルサンドを食べ終わると(驚くことに,一個のベーグルサンドを食べ終えるのに30分ことあるごとに大きなリアクションをしてみせた)二人は移動して,テーブルに所狭しと様々なベーグルとベーグルサンドが並んでいる。
「今日も見に来ていただき,ありがとうございましたー!」
「いまからね,販売を開始します。欲しい方はぜひこちらへどうぞ!」
わっと動き出し,場は混乱している。競り市のように誰もがベーグルを求めている。
「……なんだこれは?」
俺は唖然としてた。
「うーん,これは商才ね。魔法を音や光に使って自分を演出するなんて。あれも才能よね」
リリアンの分析は的を得ているが,それにしてもあの熱狂である。ベーグルが怒濤の如く売れていく。
そういえばハルが大人しい。と思い横を見ると姿が無い。
「うおーい! こっちにもくれぇ!」
「ハルもー! ハルも欲しいー!」
見やればイーサンとハルが人をかき分け,ぴょんぴょこ飛びながら大声を出してベーグルを求めている。彼らの手にかかれば,ベーグルは人心を惹き付ける宝になるらしい。商才。恐るべし。
俺らの昼食がベーグルになったことは言うまでもない。ちなみにベーグルは非常に美味かった。




