表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界恋愛系 作品いろいろ

美しいから私がいいの?

作者: 四季

「この贈り物を受け取ってください! 僕からの気持ちです!」


「何なら今日一日一緒にいてやるぜ!」


「あ、あのっ……実は昔から好きでした。結婚してください」


 私は昔からよくこんな風に絡んでこられる。


 けれども、ちやほやする者にほど邪な考えがあるのだと、私は知っているのだ。


 だから騙されない。どんなに優しくされても、どんな良い物を贈られても、それでその相手に惚れ込むようなことは絶対にない。


 近寄ってくる者は皆、人を外見で判断する人だ。

 だから好きでない。


 美しいから私がいいの? それなら別の美しい人でもいいじゃない。私である必要がある? ないのでしょう、そんなもの。


「すみませんが、すべてお断りします」


 だからいつも笑顔で返す。


 拒む言葉を。


 もし私が独り身であったなら、戯れることもあったのかもしれない。けれども私には婚約者がいる。だから婚約者以外の異性と関わることはない。たとえ遊びであったとしても、異性と過度に触れ合う気はさらさらないのだ。


 私にはただ一人、婚約者の彼がいればそれでいい。


 周囲の人たちは彼を悪く言う。なぜなら人間の姿ではないからだ。彼は今、ねずみの姿になってしまっている。それも、綺麗という言葉が似合わないような、灰色のねずみ。


 けれども心は人のそれと同じ。しかも彼は言葉を話すことができる。ねずみの姿になっても、人らしさを失ってはいない。だから私たちは分かり合えている。何も困っていない。当然、意思疎通も問題なく行える。


「ただいま、あなた」

「おっかえりぃ!」


 買い物に出掛け、帰宅。


 そんな私を迎えてくれたのは、婚約者、ねずみの姿の彼。

 相変わらず小さくて可愛らしい。灰色の少し毛が生えた身体を見たら、つい、手のひらで包み込みたくなる。そして、指先で微かにくすぐりたくもなる。


「今日は誰にも絡まれなかったかぁい?」

「絡まれたわ」

「えーえーっ! それは怖いよぅー!」

「大丈夫。ただの求愛だったわ」

「……求愛は求愛で変だよぅー」


 テーブルに乗っかった灰色のねずみの前に両手の手のひらを差し出す。二つの手のひらで船のような形を作り、暫しじっと待つ。すると、やがて、灰色のねずみがぴょこんと手の方へと移動してきた。体表の細く短い毛がほんの少し肌に当たるのを感じる。そして生の温もりも。


「それよりお茶にしましょう。あなたは何を食べる?」

「ナッツ!」

「分かったわ、すぐに用意するわね」


 ねずみと暮らすおかしな女、なんて言われることもあるけれど、そんなことはどうでもいい。


 私には私の考えと生き方がある。

 私の人生は私が決める。


 だから、いつか彼が人間に戻る日まで、私は彼と共にここで生きてゆく。他人が何と言おうが関係ない。誰も私に口出しなんてできないのだ、私が決めたことがすべて。


「でも、ひとつぶだけよ?」

「えぇーっ」



◆終わり◆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  淡々と語られるからこそ、彼女の彼への気持ちの深さが伝わるようで。  彼女が周りを気にせず気持ちを貫けるのは、彼が卑屈にならず明るい様子であるからこそなのかなぁ、と。そんな風に思えました。…
[一言] ねずみの婚約者を愛する主人公の一途さがいじらしく、また二人のやり取りがとても可愛らしいですね。 いつかねずみから人間に戻れる日が来るのか、それともずっとこのままなのか……たとえこのままだった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ